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番外編
遠方の呼び声【壱】
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※これはマガツサマの一人目の友の話です。
つまりは11年前の話になります。はい。
※さらっと新キャラが出てきます。
本編にも出すかどうかは未定です。
夢を見る。
暗闇の中で佇む夢を。
ああ、まただ。
またこの夢を見ているのか。
「たすけて……」
消え入りそうな、少女の声。
誰かが私を呼んでいる。
私に助けを求めている。
「あなたは誰?」
返答はない。
しゃくり上げるような泣き声だけが響く。
嗚呼。
顔も知らない少女に、私は何をしてやれるだろう。
誰かが呼んでいる。助けを求めている。
それなのに、その少女がどこにいるのか分からない。
助けたい、私は助けたい……のに。
◇◇◇
「古橋!」
教師の怒鳴り声で目が覚める。
どうやら私は授業中に寝てしまっていたようだ。
「聞いているのか?」
ああ、やってしまった。
これは完全に怒っている。
授業中に居眠りして怒られるのは良くあるが、
今回は今まで以上に怒っているようだ。
これはきっと補習コースか、もしくは宿題が増えるのだろう。
友人は私の青ざめた顔を見ながら、
『校門で待ってるから』と言ってくれた。
結局補習コースが確定したが、
友人がご飯を奢ってくれるらしいから、良しとしよう。
「望は、カミサマはいると思う?」
休み時間に友人に話しかけられる。
確かに言われてみれば、私達はカミサマというものを見たことがない。
授業の一つにカミサマの時間というものがあるが、
私達は、誰に謝っているのだろうか。
「さあ?見たことないから分かんない」
「だよねぇ、本当にカミサマなんているのかな?」
「分かんないけど、多分いるんじゃない?」
「すっごい適当じゃん」
私の返答に友人は笑い声を上げる。
仕方がないじゃないか、私だって見たことがないのだ。
見たことがないなら、いないという確証も持てないのだから。
「そういえば、祠の前の猫ちゃん元気?」
「うん、昨日餌あげたけど元気そうだったよ」
「そっかー、この前見たけど多分野良猫だよね
飼ったりしないの?」
「うち、ペット禁止だから」
「ああそっか、望のお母さん、
そういうの厳しいんだっけ」
「…………うん」
ペットを飼えないのは、お母さんが厳しいというのもあるけど、
私も原因の一つとなっている。
私は、布川家の落ちこぼれだから。
他の一族と比べて、一番力が弱い。
だからこそ私に対する家族の視線は冷たい。
ああ、どうしてこんな家に生まれてしまったのだろう。
◇◇◇
「ミサキ」
「にゃぁ」
カミサマの墓場の前の祠で、私はしゃがむ。
キャットフードを取り出すと、ミサキは茂みから
ガサガサッと姿を表した。
「ミサキ、ご飯だよ」
「にゃー」
ミサキは私がカミサマの墓場の前を偶然通りかかった時に、
偶然茂みから出てきた猫だった。
見たところ首輪もない、野良の雄猫だったようで、
『ミサキ』という名前をつけることにした。
何故こんな名前なのかというと……適当につけただけだ。
ミサキはキャットフードを美味しそうに食べている。
優しく背中を撫でてやると、嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
「…………そういえば」
ミサキにばかり構っていたせいか、
この祠をちゃんと見ていなかった。
装飾がやけに豪華なのを見ると、
きっと偉い神様なのだろう。
「流石にずっと挨拶も無しは失礼……だよね?」
何かお供え物は……とポケットを漁る。
勿論キャットフードは却下だ。
「…………これしかないなぁ」
数分くらいポケットを漁ってみたのだが、
板チョコくらいしか出てこなかった。
不敬どころではないような気もするが、
ましなのがこれしかないのだから、
きっと神様も許してくれるのだろう。
ちなみに一旦帰ってちゃんとしたの持ってこい
というまっとうなツッコミは聞かないこととする。
「どうか許してくれますように……」
「それは、われのそなえものか?」
私が祠に板チョコを供えようとすると、
背後から少年の声が聞こえた。
振り返ると、保育園児くらいの少年が仁王立ちしていた。
その目は血のように赤く光っている。
私は少年の視線を合わせるようにしゃがんで話しかけた。
「ぼく、どうしてここにいるの?
お父さんとお母さんは?」
「そんなことより、それはわれのそなえものか?」
話聞かないなこの幼児。
「君の、というより、この祠の神様のお供え物かな」
私が答えると、赤い眼の幼児は嬉しそうな顔をした。
「ということはわれのだな!」
「あ……」
お供え物を幼児に奪われた。
少年は私から奪い取った板チョコを美味しそうに頬張っている。
「うむ、びみであった。ほめてつかわすぞ」
何か偉そうな幼児だな。
「これ、われをふつうのおさなごといっしょにするな
われはこのちのカミであるぞ」
「カミ……サマ?」
「さよう」
「こんな小さいのに?」
「ちいさいはよけいだ」
「本当にいたんだ……」
カミサマは今まで見たことがなかった。
けれど、そのカミサマが目の前に立っている。
思った以上にちんちくりんだけど。
「くくっ、カミをちんちくりんというか
そのいのちしらずさ、きにいったぞ」
突然幼児が子供らしくない笑い方をしたと思うと、
私を気に入ったとか言い出した。
今までの言動のどこに気に入る要素が?
「そなた、なはなんという?」
「私?」
「そうだ、そなたのなをしりたい」
「私は……古橋 望よ」
「のぞみか……よいなだな
ではのぞみよ、きょうからおぬしをともと認めよう」
こうして私に、カミサマの友達が出来たのであった。
つまりは11年前の話になります。はい。
※さらっと新キャラが出てきます。
本編にも出すかどうかは未定です。
夢を見る。
暗闇の中で佇む夢を。
ああ、まただ。
またこの夢を見ているのか。
「たすけて……」
消え入りそうな、少女の声。
誰かが私を呼んでいる。
私に助けを求めている。
「あなたは誰?」
返答はない。
しゃくり上げるような泣き声だけが響く。
嗚呼。
顔も知らない少女に、私は何をしてやれるだろう。
誰かが呼んでいる。助けを求めている。
それなのに、その少女がどこにいるのか分からない。
助けたい、私は助けたい……のに。
◇◇◇
「古橋!」
教師の怒鳴り声で目が覚める。
どうやら私は授業中に寝てしまっていたようだ。
「聞いているのか?」
ああ、やってしまった。
これは完全に怒っている。
授業中に居眠りして怒られるのは良くあるが、
今回は今まで以上に怒っているようだ。
これはきっと補習コースか、もしくは宿題が増えるのだろう。
友人は私の青ざめた顔を見ながら、
『校門で待ってるから』と言ってくれた。
結局補習コースが確定したが、
友人がご飯を奢ってくれるらしいから、良しとしよう。
「望は、カミサマはいると思う?」
休み時間に友人に話しかけられる。
確かに言われてみれば、私達はカミサマというものを見たことがない。
授業の一つにカミサマの時間というものがあるが、
私達は、誰に謝っているのだろうか。
「さあ?見たことないから分かんない」
「だよねぇ、本当にカミサマなんているのかな?」
「分かんないけど、多分いるんじゃない?」
「すっごい適当じゃん」
私の返答に友人は笑い声を上げる。
仕方がないじゃないか、私だって見たことがないのだ。
見たことがないなら、いないという確証も持てないのだから。
「そういえば、祠の前の猫ちゃん元気?」
「うん、昨日餌あげたけど元気そうだったよ」
「そっかー、この前見たけど多分野良猫だよね
飼ったりしないの?」
「うち、ペット禁止だから」
「ああそっか、望のお母さん、
そういうの厳しいんだっけ」
「…………うん」
ペットを飼えないのは、お母さんが厳しいというのもあるけど、
私も原因の一つとなっている。
私は、布川家の落ちこぼれだから。
他の一族と比べて、一番力が弱い。
だからこそ私に対する家族の視線は冷たい。
ああ、どうしてこんな家に生まれてしまったのだろう。
◇◇◇
「ミサキ」
「にゃぁ」
カミサマの墓場の前の祠で、私はしゃがむ。
キャットフードを取り出すと、ミサキは茂みから
ガサガサッと姿を表した。
「ミサキ、ご飯だよ」
「にゃー」
ミサキは私がカミサマの墓場の前を偶然通りかかった時に、
偶然茂みから出てきた猫だった。
見たところ首輪もない、野良の雄猫だったようで、
『ミサキ』という名前をつけることにした。
何故こんな名前なのかというと……適当につけただけだ。
ミサキはキャットフードを美味しそうに食べている。
優しく背中を撫でてやると、嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
「…………そういえば」
ミサキにばかり構っていたせいか、
この祠をちゃんと見ていなかった。
装飾がやけに豪華なのを見ると、
きっと偉い神様なのだろう。
「流石にずっと挨拶も無しは失礼……だよね?」
何かお供え物は……とポケットを漁る。
勿論キャットフードは却下だ。
「…………これしかないなぁ」
数分くらいポケットを漁ってみたのだが、
板チョコくらいしか出てこなかった。
不敬どころではないような気もするが、
ましなのがこれしかないのだから、
きっと神様も許してくれるのだろう。
ちなみに一旦帰ってちゃんとしたの持ってこい
というまっとうなツッコミは聞かないこととする。
「どうか許してくれますように……」
「それは、われのそなえものか?」
私が祠に板チョコを供えようとすると、
背後から少年の声が聞こえた。
振り返ると、保育園児くらいの少年が仁王立ちしていた。
その目は血のように赤く光っている。
私は少年の視線を合わせるようにしゃがんで話しかけた。
「ぼく、どうしてここにいるの?
お父さんとお母さんは?」
「そんなことより、それはわれのそなえものか?」
話聞かないなこの幼児。
「君の、というより、この祠の神様のお供え物かな」
私が答えると、赤い眼の幼児は嬉しそうな顔をした。
「ということはわれのだな!」
「あ……」
お供え物を幼児に奪われた。
少年は私から奪い取った板チョコを美味しそうに頬張っている。
「うむ、びみであった。ほめてつかわすぞ」
何か偉そうな幼児だな。
「これ、われをふつうのおさなごといっしょにするな
われはこのちのカミであるぞ」
「カミ……サマ?」
「さよう」
「こんな小さいのに?」
「ちいさいはよけいだ」
「本当にいたんだ……」
カミサマは今まで見たことがなかった。
けれど、そのカミサマが目の前に立っている。
思った以上にちんちくりんだけど。
「くくっ、カミをちんちくりんというか
そのいのちしらずさ、きにいったぞ」
突然幼児が子供らしくない笑い方をしたと思うと、
私を気に入ったとか言い出した。
今までの言動のどこに気に入る要素が?
「そなた、なはなんという?」
「私?」
「そうだ、そなたのなをしりたい」
「私は……古橋 望よ」
「のぞみか……よいなだな
ではのぞみよ、きょうからおぬしをともと認めよう」
こうして私に、カミサマの友達が出来たのであった。
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