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本編
第八話 甘い愛をあなたに(チョコ手作り編)
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家族が寝静まった深夜。
痛む体を引きずってキッチンへと向かう。
今日は家族の機嫌が最悪な日だった。
仕事を押し付けられたとか、
気になるあの子にチョコを貰えなかっただとか、
そんな理不尽な理由で、奴らは私を傷つける。
私が何をしたというのか。
……いや、私が何をしていようがきっと関係ないのだろう。
あいつらは、私を殴る大義名分さえあるならば、
それで充分なのだから。
「……………」
頬がジンジンと痛む。
身体には殴られた痕が、まだ消えずに残っていた。
火傷痕がチリチリと私を苦しめる。
押し付けられたタバコの痕が残酷な現実を突き付ける。
「どうせ、やめてはくれないのだから」
泣き叫んでも、誰も助けてくれやしないのだから。
期待したって、最後は裏切られるのがオチだ。
冷蔵庫を開けて食材を漁る。
あの家族が私にご飯なんて作ってくれるわけがない。
だからこうして夜中に残飯を漁ることで飢えを凌いでいるのだ。
「あれ?」
見慣れないものがある。
それはいかにも高そうな何かの箱だった。
私の記憶が確かなら、昨日はなかったものだ。
気になって箱を開けてみると、
中には茶色いものが入っている。
「…………食べ物……なのかな?」
得体の知れない物を食べるのは抵抗はあるが、
食べないと私は飢えてしまう。
これが誰のものかは分からないけど……
「一個くらいなら……バレないよね?」
もしもバレたら私はまた痛い目に遭うだろう。
もしかしたら、家から追い出されるかもしれない。
それでも、好奇心には勝てなかった。
「…………甘い」
地味な見た目からは想像もつかない味が口の中に広がる。
これが何かは分からないが、きっと何かのお菓子なのだろう。
私の家族は、普段からこんなものを食べてるのか。
「……………」
ふと、私の頬から涙が流れる。
私の肌を伝うように流れて、それはどんどん増えていく。
ああ。
嗚呼。
「辛いなぁ……」
まるで、人間じゃないみたいだ。
◇◇◇
「レキ、我はチョコとやらを食べたい」
「……………」
いつもの禍月様とのお茶会で、
突然禍月様が口を開いた。
ちなみに何度かお茶会を開くうちに、
禍月様は私の前でだけ狼の耳と尻尾を出すようになった。
ケモ耳が出てる時は人間の耳は髪に隠れて見えなくなっている。
どうやらかなり私を気に入ったらしい。
「レキ、我はチョコが……」
「聞こえてます」
「では、どうして何も言わなかった?
そう難しい話ではないだろう?」
「どうしてチョコなんです?
お菓子が食べたいなら、チョコじゃなくても良いでしょう?」
「ほら、バレンタインが近いからな
聞けば、親しき者にチョコを渡すイベントなのだろう?
ならば、我は貰って当然ではないか」
すっごい自信だな……
「バレンタイン?」
「何だ、知らぬのか?」
「はい、あいにくここに来る前は、
イベントとか気にする余裕はなかったので……」
「…………そうであったか
ならば、我自らバレンタインを教えてやろう!」
こうして禍月様は、私にバレンタインとやらを教えてくれた。
簡潔に言うなら、リア充のイベントらしい。
お世話になった人や、気になる人にチョコを渡したりする。
バレンタインとは、そういうイベントだそうだ。
「何となく分かりました」
「で、友チョコはいつくれるのだ?」
「急かさないで下さい、まだ作ってすらいませんよ」
「チョコを作ったらすぐに我に知らせよ
レキのチョコなら我が一番に食べたいからな」
「……私、料理したことないんですけど」
「…………はぁ?」
私の返事を聞いた途端、禍月様の耳がピンと立った。
顔からは驚愕の表情が表れている。
「どうしました?」
「一度もか?」
「はい」
「自分で料理とかも、したことないのか?」
「はい」
「なら今までどうやって生きていたのだ」
「夜中に冷蔵庫漁って生きてましたかね」
「………………」
「………………」
何か禍月様が頭抱えてるな。
そんなにヤバかったのだろうか昔の私。
「まさかそんなに劣悪だったとは……
そこらの畜生より酷いのではないか?」
普通に失礼だな。
「分かった……ならばクワイの愛し子を頼れ
あやつならチョコの作り方も分かるだろう」
「クワイの愛し子って……」
「あの虚の坊主のことだ」
「ああ……」
「では、お主のチョコを楽しみに待っておるぞ」
「あ、待ってください禍月様」
「何だ?」
「出来るのをここで待つよりも、
一番早く私のチョコを食べられる方法がありますよ」
「ほう?聞かせて貰おうか」
◇◇◇
「ということで、禍月様に味見役をお願いしました」
「宜しく頼む」
禍月様がキラキラとした顔で椅子に座ってるのに対し、
私の隣にいる虚さんの笑顔が怖い。
「レキ?」
「だって、一番に私のチョコを食べたいって……」
「だからって神様を味見役にするんじゃない」
「けど『やっぱ無しで』とかもう言えませんよ?
そんなこと言えば、落ち込むのが目に見えてますから」
「レキはマガツサマを何だと思ってるんだ」
「とにかく早く始めましょうよ
これ以上禍月様を待たせたら拗ねちゃいますから」
「おいレキ、チョコはまだか?」
「ふと気になったんですけど、元は狼なのに
チョコとか食べて大丈夫なんですか?」
「今は器の身体だからな、食べても支障はないぞ」
「マガツサマをただの狼扱いするのはお前くらいだよ……レキ」
【チョコ作り開始】
「料理をしたことないと言っても、
どこまで分かってるかで教え方も変わるからな
まずはレキだけでチョコを作ってみてくれ
しちゃいけないことは俺が止めるから」
「分かった」
「じゃあまずは、チョコを溶かすことから始めよう」
「どうするの?」
「溶かしやすいように包丁で刻むんだよ
そのままだと溶かすのに時間がかかるからな」
「じゃあ包丁でチョコを切って……」
「待て待て、それだと危ないから、
猫の手でチョコを刻むんだ」
「猫…………にゃあ」
「お前が鳴いてどうする」
「猫…………猫?」
「グーにするんだよ」
「こう?」
「そうそう、そうすれば包丁で手を切ったりしないからな」
「え、何それこわ……」
「いやいや、包丁って普通に危ないものだからな?」
「……………」
「切れたか?」
「チョコ固い……」
「そんな時は包丁に体重を乗せるようにして……」
「切れた!」
「よしよし、上出来だ
次はチョコを湯煎するんだぞ」
「ゆせん?」
「お湯で溶かすんだよ」
「分かった、お湯で溶かせば良いんだね?」
「わぁー!待て直接入れるな!
チョコを溶かす時はボールに入れてだな……」
「ボールって、球技に使うあの?」
「違う、ちゃんとした調理器具だ
あっただろ?銀色の深い皿みたいな奴」
「あれ、その為の奴だったのか……」
その後は虚さんに慌てて止められながらも、
何とか一つ目のチョコを作ることが出来た。
(ちょっと焦げたけど)
「これは確か……ガトーショコラという菓子だったな」
「初心者だったらブラウニーや生チョコが妥当だからな
下手に凝ったものを作ろうとすると失敗しやすい」
(それに、神様に下手なものを食わせるわけにはいかないしな)
「ふむ、初めてにしてはまあまあの出来ではないか?
少し苦味があるのが難点だがな」
「チョコをねだる立場の人が贅沢言わないで下さい」
「はっはっはっ、手厳しいなレキ
しかしレキよ、今回は上手くいったものの、
他の者もクワイの愛し子の手を借りるわけにはいくまい
手作りであるからこそ、込められる愛もあるだろう?」
「そうですよね……真斗くんの為に頑張らないと」
「くくっ、しかと励めよ?
味は勿論、愛も忘れずに込められぬようでは、
伝わるものも伝わらんからな?」
「はい!禍月様!」
「ああそうそう、虚の坊主よ
お主はクワイの分も作ってやってるか?
あれは人に興味がないとのたまっておきながら、
気に入った人の子の菓子を心待ちにしておるからな」
「え、作ってませんけど……」
「ならば早急に作ってやれ
あやつ、『どうせ虚も俺の加護にしか興味ないんだ』
などと、へそを曲げておったぞ」
「何か、人間みたいだ……」
「みたい……というより、“だった”の方であるがな」
「何の話ですか?」
「いいや、ただの独り言だから気にすることはない」
◇◇◇
そしていくつもの失敗を重ね、何とかチョコが完成した。
「最後に、真斗くんへの愛を込めて完成だね」
「おいレキ、手でハートを作って何して……」
「真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
(以下略)」
「………………」
10分後……
「よし、これで愛は込められたかな
あれ?虚さんどうしたんですか?
残念なものを見るような目で私を見てますけど」
「レキ、お前……」
「クワイの愛し子は、レキが呪文を唱えてる間、
ずっと引いておったぞ」
私、引かれてたのか……
こうして、私のチョコ作りは無事成功した。
後は真斗くんにこの愛の結晶を渡すだけだ。
痛む体を引きずってキッチンへと向かう。
今日は家族の機嫌が最悪な日だった。
仕事を押し付けられたとか、
気になるあの子にチョコを貰えなかっただとか、
そんな理不尽な理由で、奴らは私を傷つける。
私が何をしたというのか。
……いや、私が何をしていようがきっと関係ないのだろう。
あいつらは、私を殴る大義名分さえあるならば、
それで充分なのだから。
「……………」
頬がジンジンと痛む。
身体には殴られた痕が、まだ消えずに残っていた。
火傷痕がチリチリと私を苦しめる。
押し付けられたタバコの痕が残酷な現実を突き付ける。
「どうせ、やめてはくれないのだから」
泣き叫んでも、誰も助けてくれやしないのだから。
期待したって、最後は裏切られるのがオチだ。
冷蔵庫を開けて食材を漁る。
あの家族が私にご飯なんて作ってくれるわけがない。
だからこうして夜中に残飯を漁ることで飢えを凌いでいるのだ。
「あれ?」
見慣れないものがある。
それはいかにも高そうな何かの箱だった。
私の記憶が確かなら、昨日はなかったものだ。
気になって箱を開けてみると、
中には茶色いものが入っている。
「…………食べ物……なのかな?」
得体の知れない物を食べるのは抵抗はあるが、
食べないと私は飢えてしまう。
これが誰のものかは分からないけど……
「一個くらいなら……バレないよね?」
もしもバレたら私はまた痛い目に遭うだろう。
もしかしたら、家から追い出されるかもしれない。
それでも、好奇心には勝てなかった。
「…………甘い」
地味な見た目からは想像もつかない味が口の中に広がる。
これが何かは分からないが、きっと何かのお菓子なのだろう。
私の家族は、普段からこんなものを食べてるのか。
「……………」
ふと、私の頬から涙が流れる。
私の肌を伝うように流れて、それはどんどん増えていく。
ああ。
嗚呼。
「辛いなぁ……」
まるで、人間じゃないみたいだ。
◇◇◇
「レキ、我はチョコとやらを食べたい」
「……………」
いつもの禍月様とのお茶会で、
突然禍月様が口を開いた。
ちなみに何度かお茶会を開くうちに、
禍月様は私の前でだけ狼の耳と尻尾を出すようになった。
ケモ耳が出てる時は人間の耳は髪に隠れて見えなくなっている。
どうやらかなり私を気に入ったらしい。
「レキ、我はチョコが……」
「聞こえてます」
「では、どうして何も言わなかった?
そう難しい話ではないだろう?」
「どうしてチョコなんです?
お菓子が食べたいなら、チョコじゃなくても良いでしょう?」
「ほら、バレンタインが近いからな
聞けば、親しき者にチョコを渡すイベントなのだろう?
ならば、我は貰って当然ではないか」
すっごい自信だな……
「バレンタイン?」
「何だ、知らぬのか?」
「はい、あいにくここに来る前は、
イベントとか気にする余裕はなかったので……」
「…………そうであったか
ならば、我自らバレンタインを教えてやろう!」
こうして禍月様は、私にバレンタインとやらを教えてくれた。
簡潔に言うなら、リア充のイベントらしい。
お世話になった人や、気になる人にチョコを渡したりする。
バレンタインとは、そういうイベントだそうだ。
「何となく分かりました」
「で、友チョコはいつくれるのだ?」
「急かさないで下さい、まだ作ってすらいませんよ」
「チョコを作ったらすぐに我に知らせよ
レキのチョコなら我が一番に食べたいからな」
「……私、料理したことないんですけど」
「…………はぁ?」
私の返事を聞いた途端、禍月様の耳がピンと立った。
顔からは驚愕の表情が表れている。
「どうしました?」
「一度もか?」
「はい」
「自分で料理とかも、したことないのか?」
「はい」
「なら今までどうやって生きていたのだ」
「夜中に冷蔵庫漁って生きてましたかね」
「………………」
「………………」
何か禍月様が頭抱えてるな。
そんなにヤバかったのだろうか昔の私。
「まさかそんなに劣悪だったとは……
そこらの畜生より酷いのではないか?」
普通に失礼だな。
「分かった……ならばクワイの愛し子を頼れ
あやつならチョコの作り方も分かるだろう」
「クワイの愛し子って……」
「あの虚の坊主のことだ」
「ああ……」
「では、お主のチョコを楽しみに待っておるぞ」
「あ、待ってください禍月様」
「何だ?」
「出来るのをここで待つよりも、
一番早く私のチョコを食べられる方法がありますよ」
「ほう?聞かせて貰おうか」
◇◇◇
「ということで、禍月様に味見役をお願いしました」
「宜しく頼む」
禍月様がキラキラとした顔で椅子に座ってるのに対し、
私の隣にいる虚さんの笑顔が怖い。
「レキ?」
「だって、一番に私のチョコを食べたいって……」
「だからって神様を味見役にするんじゃない」
「けど『やっぱ無しで』とかもう言えませんよ?
そんなこと言えば、落ち込むのが目に見えてますから」
「レキはマガツサマを何だと思ってるんだ」
「とにかく早く始めましょうよ
これ以上禍月様を待たせたら拗ねちゃいますから」
「おいレキ、チョコはまだか?」
「ふと気になったんですけど、元は狼なのに
チョコとか食べて大丈夫なんですか?」
「今は器の身体だからな、食べても支障はないぞ」
「マガツサマをただの狼扱いするのはお前くらいだよ……レキ」
【チョコ作り開始】
「料理をしたことないと言っても、
どこまで分かってるかで教え方も変わるからな
まずはレキだけでチョコを作ってみてくれ
しちゃいけないことは俺が止めるから」
「分かった」
「じゃあまずは、チョコを溶かすことから始めよう」
「どうするの?」
「溶かしやすいように包丁で刻むんだよ
そのままだと溶かすのに時間がかかるからな」
「じゃあ包丁でチョコを切って……」
「待て待て、それだと危ないから、
猫の手でチョコを刻むんだ」
「猫…………にゃあ」
「お前が鳴いてどうする」
「猫…………猫?」
「グーにするんだよ」
「こう?」
「そうそう、そうすれば包丁で手を切ったりしないからな」
「え、何それこわ……」
「いやいや、包丁って普通に危ないものだからな?」
「……………」
「切れたか?」
「チョコ固い……」
「そんな時は包丁に体重を乗せるようにして……」
「切れた!」
「よしよし、上出来だ
次はチョコを湯煎するんだぞ」
「ゆせん?」
「お湯で溶かすんだよ」
「分かった、お湯で溶かせば良いんだね?」
「わぁー!待て直接入れるな!
チョコを溶かす時はボールに入れてだな……」
「ボールって、球技に使うあの?」
「違う、ちゃんとした調理器具だ
あっただろ?銀色の深い皿みたいな奴」
「あれ、その為の奴だったのか……」
その後は虚さんに慌てて止められながらも、
何とか一つ目のチョコを作ることが出来た。
(ちょっと焦げたけど)
「これは確か……ガトーショコラという菓子だったな」
「初心者だったらブラウニーや生チョコが妥当だからな
下手に凝ったものを作ろうとすると失敗しやすい」
(それに、神様に下手なものを食わせるわけにはいかないしな)
「ふむ、初めてにしてはまあまあの出来ではないか?
少し苦味があるのが難点だがな」
「チョコをねだる立場の人が贅沢言わないで下さい」
「はっはっはっ、手厳しいなレキ
しかしレキよ、今回は上手くいったものの、
他の者もクワイの愛し子の手を借りるわけにはいくまい
手作りであるからこそ、込められる愛もあるだろう?」
「そうですよね……真斗くんの為に頑張らないと」
「くくっ、しかと励めよ?
味は勿論、愛も忘れずに込められぬようでは、
伝わるものも伝わらんからな?」
「はい!禍月様!」
「ああそうそう、虚の坊主よ
お主はクワイの分も作ってやってるか?
あれは人に興味がないとのたまっておきながら、
気に入った人の子の菓子を心待ちにしておるからな」
「え、作ってませんけど……」
「ならば早急に作ってやれ
あやつ、『どうせ虚も俺の加護にしか興味ないんだ』
などと、へそを曲げておったぞ」
「何か、人間みたいだ……」
「みたい……というより、“だった”の方であるがな」
「何の話ですか?」
「いいや、ただの独り言だから気にすることはない」
◇◇◇
そしていくつもの失敗を重ね、何とかチョコが完成した。
「最後に、真斗くんへの愛を込めて完成だね」
「おいレキ、手でハートを作って何して……」
「真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
真斗くんが私のものになりますように
(以下略)」
「………………」
10分後……
「よし、これで愛は込められたかな
あれ?虚さんどうしたんですか?
残念なものを見るような目で私を見てますけど」
「レキ、お前……」
「クワイの愛し子は、レキが呪文を唱えてる間、
ずっと引いておったぞ」
私、引かれてたのか……
こうして、私のチョコ作りは無事成功した。
後は真斗くんにこの愛の結晶を渡すだけだ。
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