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幕間
幕間 カミサマは嗤う
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むかしむかし、一人ぼっちの青年がおりました。
青年は昔誰からも好かれており、
毎日誰かが側にいましたが、
そんな青年を気に入らなかった男が
青年のありもしない噂を広めたせいで、
青年を慕っていた人はいなくなり、
やがて孤立してしまいました。
自分が何か気に触ることをしたのだろうか。
知らずのうちに傷つけていたのだろうか。
青年は自分が犯したかもしれない罪を悔やみ嘆きました。
そんな罪、どこにもありはしないのに……
それを哀れに思った神様は、
三柱の神を地上に降ろしました。
エニシノカミは新たな縁を結び、
エニシノクワイは青年に害を与える悪縁を断ち切り、
エニシノアタエはあの男が切ってしまった
複数の縁を結び直しました。
三柱の神のお陰で青年は再び人気者になり、
良縁に恵まれながら幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
◇◇◇
「何がめでたしめでたしだよ、クソが」
黒髪の男はこの村で作られた
子供向けの絵本を素手で裂くと、そのまま雑に放り投げる。
「そう目くじらを立てるんじゃないよクワイ
所詮は人間が作ったお伽噺じゃないか」
「それが腹立つって言ってんだよ
この村の連中は散々縁壊を利用したくせに、
必要なくなればお払い箱ってか?
あんな村、いっそ滅んじまえば良いんだ」
「それは困るな、彼らが滅べば僕の信仰対象がいなくなる」
金髪の男は困ったように笑い、黒髪の男が捨てた
子供向けの絵本を拾い上げた。
「テメェはただ崇められたいだけだろ
どうせ崇拝されればこの村の人間じゃなくても良いんだろ?
あーあ、円地村の連中かわいそ」
「カミさん、クワイさん、
私達は経緯はどうあれ彼らのカミサマです
ならば、彼らを慈しみ、見守るのが役目でしょう?」
茶髪の女性は祈るように両手を合わせ、
二柱に対して訴えかけるような視線を向けている。
「はいはい、偽善者のカミサマは人間想いで結構だな
お前は良いよな、特に被害なんてないんだからさ」
「クワイ、冗談でも言うものではないよ
彼女は真剣に人間と向き合おうとしているんだからね」
「ああ、その時点で俺らとは違うよな
俺らはお気に入りさえ無事ならば、
他がどうなろうが知ったことじゃねえし?」
「クワイ、君と一緒にはしないで欲しいな
僕はそんなことを思ったことはないよ」
「ははっ!一体誰に対して遠慮してんだよ!
別に言っても良いんだぜ?
『僕は崇拝さえされれば村はどうなっても良いです』ってな!」
「ああ、私はとても悲しいです
こんなにも、人間は愛されていないだなんて……」
「そんなの今更だろ?
というか、俺もお前らも、恨んでも仕方ねえ経緯で
カミサマになってんの……忘れたか?」
「……………」
「俺もお前らも、村に殺された……そうだろ?
もうとっくの昔に本物の神様なんていねえんだ
既に去ってる神様の枠だけ借りてるのは俺らだろう?」
クワイはカミから絵本を奪い取ると、
そのまま火をつけて燃やした。
絵本は煙を上げて少しずつ燃えていく。
「ここにいるのは紛い物のカミサマだけだ
こんな空っぽの器に押し込んだのは誰か
それを良く考えてみることだな」
クワイは黙っている二柱を満足げに見上げると、
そのままどこかへと去っていった。
青年は昔誰からも好かれており、
毎日誰かが側にいましたが、
そんな青年を気に入らなかった男が
青年のありもしない噂を広めたせいで、
青年を慕っていた人はいなくなり、
やがて孤立してしまいました。
自分が何か気に触ることをしたのだろうか。
知らずのうちに傷つけていたのだろうか。
青年は自分が犯したかもしれない罪を悔やみ嘆きました。
そんな罪、どこにもありはしないのに……
それを哀れに思った神様は、
三柱の神を地上に降ろしました。
エニシノカミは新たな縁を結び、
エニシノクワイは青年に害を与える悪縁を断ち切り、
エニシノアタエはあの男が切ってしまった
複数の縁を結び直しました。
三柱の神のお陰で青年は再び人気者になり、
良縁に恵まれながら幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
◇◇◇
「何がめでたしめでたしだよ、クソが」
黒髪の男はこの村で作られた
子供向けの絵本を素手で裂くと、そのまま雑に放り投げる。
「そう目くじらを立てるんじゃないよクワイ
所詮は人間が作ったお伽噺じゃないか」
「それが腹立つって言ってんだよ
この村の連中は散々縁壊を利用したくせに、
必要なくなればお払い箱ってか?
あんな村、いっそ滅んじまえば良いんだ」
「それは困るな、彼らが滅べば僕の信仰対象がいなくなる」
金髪の男は困ったように笑い、黒髪の男が捨てた
子供向けの絵本を拾い上げた。
「テメェはただ崇められたいだけだろ
どうせ崇拝されればこの村の人間じゃなくても良いんだろ?
あーあ、円地村の連中かわいそ」
「カミさん、クワイさん、
私達は経緯はどうあれ彼らのカミサマです
ならば、彼らを慈しみ、見守るのが役目でしょう?」
茶髪の女性は祈るように両手を合わせ、
二柱に対して訴えかけるような視線を向けている。
「はいはい、偽善者のカミサマは人間想いで結構だな
お前は良いよな、特に被害なんてないんだからさ」
「クワイ、冗談でも言うものではないよ
彼女は真剣に人間と向き合おうとしているんだからね」
「ああ、その時点で俺らとは違うよな
俺らはお気に入りさえ無事ならば、
他がどうなろうが知ったことじゃねえし?」
「クワイ、君と一緒にはしないで欲しいな
僕はそんなことを思ったことはないよ」
「ははっ!一体誰に対して遠慮してんだよ!
別に言っても良いんだぜ?
『僕は崇拝さえされれば村はどうなっても良いです』ってな!」
「ああ、私はとても悲しいです
こんなにも、人間は愛されていないだなんて……」
「そんなの今更だろ?
というか、俺もお前らも、恨んでも仕方ねえ経緯で
カミサマになってんの……忘れたか?」
「……………」
「俺もお前らも、村に殺された……そうだろ?
もうとっくの昔に本物の神様なんていねえんだ
既に去ってる神様の枠だけ借りてるのは俺らだろう?」
クワイはカミから絵本を奪い取ると、
そのまま火をつけて燃やした。
絵本は煙を上げて少しずつ燃えていく。
「ここにいるのは紛い物のカミサマだけだ
こんな空っぽの器に押し込んだのは誰か
それを良く考えてみることだな」
クワイは黙っている二柱を満足げに見上げると、
そのままどこかへと去っていった。
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