縁を結んで切り裂いて

札神 八鬼

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本編

第一話 邂逅ーかいこうー

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私には小さい頃から変なものが見えた。
それが何かは分からないけど、良くないものなのは確かだった。
両親も弟も、そんな私を受け入れることはなく、
気持ち悪いと私を避けるようになっていった。
でもそんなことはもうどうでも良い。
もう家族と私は縁を切ったようなものだから。
流れていく景色を眺めながら、私は呟いた。

「今から会う人は、どうして私を引き取ろうと思ったんだろう……」

高校に進学する代わりに、お前との縁を切る。
通学に必要な金は用意してやるが、二度と帰ってくるな。
父から提案された条件だった。
それを私が了承したから、もう彼らは赤の他人。
悲しいというよりも、清々しい気分だった。
どうやら私を引き取ると言った人は、自ら志願したらしい。
こんな私を好き好んで引き取る人なんて、相当変な人に違いない。

「次は、私を殴らない人だと良いな……」

私が変なものが見えたと言う度に殴ってきた父。
私がわがままを言う度に怒鳴り付けてきた母。
私を見下して虐めてくる弟。
もうあんな生活に戻るのは嫌だった。

「ここが、円地村……」

いくつもの電車を乗り換えて辿り着いたのは、
縁結びの神様を奉っている円地村。
ここが今日から私が住むことになる村だ。
明るい時間帯ならもっと人がいたのだろうが、
今では空は夕焼けに染まり、村人はもう家に帰っているのだろう。
私も誰か人を見つけて、引き取ってくれた人に会わないと……

「プギィ"ィ"ィ"ィ"!!!」

豚の鳴き声が聞こえて振り替えると、
そこには何度も見たことがある化け物がいた。
豚の頭にカマキリの体、そして……蜘蛛の足。
見ただけで吐き気を催すクリーチャーだ。
私は見ることは出来ても、倒す力はない。
早く、早く逃げないと……足が上手く動かな……

「こっちだ!」

ふいに手を引かれ、走り出す。
足がもつれそうになりながらも、
見知らぬ少年は私の手を引いて走っていた。


~数分後~


「ここならしばらくは見つからない」

木陰に隠れながら、私と同じくらいの少年は息をついた。
ヘッドホンをつけた不思議な雰囲気の黒髪の少年。
私を助けようとするなんて、どんな人なんだろう。

「あの……どうして私を助けたんですか?」

「俺があんたを助けたかっただけだ、気にしなくて良い」

この瞬間から、私の存在意義が変わった。
私は彼を愛する為に生まれ、愛されるために生まれたのだ。
私の存在を唯一認識してくれた人。
私のことを、人として扱ってくれる人。
私には、彼しかいないと強く思えた。

「あの、お名前は……」

秋月 真斗あきづき まさとだ、君は?」

「私は、松雪 暦まつゆき こよみです」

「そうか、君が……」

「プギィ"ィ"ィ"ィ"!!!」

「チッ、数分くらいしか持たなかったか」

そう言いかけたところで、さっきの化け物の鳴き声が聞こえ、
真斗くんは化け物の攻撃をギリギリで避ける。
少しかすったのか、真斗くんの頬の傷から血が流れた。

「真斗くん、傷が!」

「このくらい大丈夫だ」

真斗くんの体に絡み付いた蜘蛛のような足を、
真斗くんが赤黒いハサミで切り落としていく。
足を切られる度に化け物は叫び声をあげた。

「しぶといなこいつ……」

「もう逃げた方が良いんじゃ……」

「大丈夫、もうすぐ来る」

来るって何が………と言いかけたところで、
あの化け物は首を落とされて息絶えていた。
何が起こったのか分からず瞬きを繰り返していると、
化け物の上に人がいるのが分かった。

「俺の息子に怪我をさせた報いだ」

「マ……じゃなくて虚、遅かったな」

「遅くなってすまない、他に怪我はないか?」

「大丈夫」

「良かった……」

先程まで化け物に殺意を向けていた男は、
真斗くんを見た途端すぐに心配そうに駆け寄ってきた。

「真斗くん、この人と知り合いなの?」

「知り合いも何も、虚は俺の世話係でな
小学生の頃から面倒を見て貰っていたんだ」

「そうなんだ……」

私にもこういう人がいたら、もう少しましだったのだろうか。

「真斗の世話係の立川 虚たちかわ うつろ
君の名前を聞いても良いかな?」

「松雪 暦です」

「じゃあレキ、両親からは聞いてるだろうが、
今日からレキは俺の娘だから宜しくな」

「え?」

「え?」

「もしかして、私を引き取ってくれた人って……」

「ああ俺だ、聞いてなかったのか?」

「えええええぇぇぇ!?!?!?」


未だに脳が追い付かない。
ここに来るまでご飯なんて良くてコンビニおにぎり、
悪くてドックフードとか虫だったのに。
今では温かいお風呂に入った後、
虚さんにドライヤーで髪を乾かされ、
着替えですら可愛いのがキチンと揃えられている。
(下着まで用意されてるのは恥ずかしかった)
ここに来る前の環境を話したら、虚さんに頭を撫でられた。
食卓にも沢山の美味しそうな料理が並んでいる。
私が戸惑いながら真斗くんに助けを求めると。

「虚の奴、新しく娘が出来ると
昨日まで嬉しそうに暦を迎える準備をしてたんだ
あいつなりの愛情表現だから受け取ってやってくれ」

「おかわりもあるから、沢山食べてくれ」

「……………はい」

虚さんに幸せそうな顔で微笑まれると、断るなんて出来そうにない。
今までとは違った厚待遇に困惑しながらも、
私は虚さんの愛情を受け取ることにした。


家具が揃えられた部屋で、ふかふかのベッドに寝転がる。
どこを見ても、細かい調度品ですら揃えられていて、
私のために用意したのだと思い知らされる。
…………こんなに愛されて良いのだろうかとは思う。
だけど、無条件に愛してくれる虚さんを裏切りたくはなかった。
もしも私が普通の家庭に生まれていたとしたら、
母親とはあんな存在だったのだろうか。

「……………マ……マ……」

あの人が私の母親なら、私は人間として存在できるかもしれない。
襲う眠気に身を任せながら、深い眠りへと落ちていった。

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