冥府探偵零時

札神 八鬼

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本編

第十一話 スノウホワイト事件【前編】

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【スノウホワイト事件】
現世で何度も起きた若い男女をターゲットとした誘拐事件である。
被害者はどれも顔の整った美男美女ばかりであり、
毒を盛られて仮死状態にした所で誘拐された。
犯人は被害者に匿名や知人を装い、毒リンゴを送りつけたという。
現場には一口かじられたリンゴが残されていたそうだ。
一連の事件が『毒リンゴ』という組織の犯行だと突き止めた
警察が、アジトに突入した際、仮死状態の複数の若い男女が
冷凍保存されている異様な光景だったそうだ。
捕まった『毒リンゴ』のリーダーは、こう語ったのだと言う。

『僕は美しいものをコレクションしたいだけのコレクターだ
美しいものに永遠を与えただけの話だろう?
殺しはしないさ、せっかくの美しさが半減してしまうからね』

あまりの異常さから、彼は無期懲役を言い渡されやがて息絶えた。
今は冥府にいるはずだが、どうしているのだろうか。


「やあ、白雪王子」

私と零時さんが事務所に帰ってくると、
ソファーに座りながら優雅にコーヒーを飲む青年がいた。
容姿は金髪で紫の瞳のイケメンという奴だ。
きちんと鍵は閉めていたはずなのだが、
一体どこから入ってきたのだろうか。

「チッまた変な奴が来たな……」

「酷いじゃないか白雪王子、
不在ならそうだと事前に電話しておいてくれ」

「何で俺が初対面のお前にわざわざ電話しなきゃいけないんだ」

「いいや?君とは初対面ではないよ?
去年の4月15日の午後3時頃に僕に聞き込みをしてくれたじゃないか」

「…………そんな記憶はない」

零時さんは明らかに引いていました。
まあ仕方ないですよね、この人伊織さんと同じ匂いがしますし。

「事務所は鍵が閉まっていたはずなんですけど、
どうやって入ってきたんですか?」

「この前作った合鍵で入ってきたかな」

「シンプルに気持ち悪いな」

ああ、正直に言っちゃった。

「僕と白雪王子に障害など不要なのさ」

「すみません、逮捕して良いですか?」

「やだね、この愛は例え警察だろうと止められないよ!」

零時さん、まさか男性まで魅了するとは思ってませんでした。
確かこの方、暗殺組織のリーダーだったはずなんですけど……
やばい人たらしの才能とかあるんですかね?
私は零時さんに近づき、ヒソヒソ声で話しかける。

「零時さん、いつからこんな人と知り合ったんですか?」

「知らんと言ってるだろこんな気持ち悪い奴
勝手に合鍵作って侵入とか伊織以上だぞ」

「そろそろ伊織さんストーカー基準で
物事考えるのやめません?」

「言われてみれば伊織基準で比べるのは、
他のストーカーに失礼か……」

「いやいや、そんなに沢山いたら困りますから!」

考えてみれば、伊織さんはGPSとか盗聴とか、
待ち伏せとかしてるくらいで、合鍵を使って
家に侵入とかは一度もしていなかった。
彼女は零時さんが本当に嫌がることはやらないからだ。
あれ?もしかすると私も麻痺してるのかもしれない。

「仲間外れは酷いじゃないか白雪王子、
お話なら僕も混ぜてくれよ」

「何しに来たかは知らないが、用がないなら帰って貰うぞ」

「用事はあるさ!僕はその為に来たのだからね!」

零時さんは普段お客さんには優しい方ですが、
ストーカー相手だと素が出て対応が雑になります。

「ところで、白雪王子って何なんですか?」

「僕は彼と初めて会った日に確信したんだよ
彼こそ、王子に相応しい存在だとね」

席を立った青年が零時さんの手を取ると、優雅に手の甲に口付けた。
零時さんはとても不快そうにしている。

「永遠の美を閉じ込めるに相応しい存在であると確信した
どうか、僕のコレクションの一つになってくれないか?」

やっぱりただの危ない人でした。
零時さんはこういう人ばかり惹き付けてる気がします。

「断る」

ですよね、零時さんなら断ると思ってました。

「それは残念、また気が変わったら教えてくれ」

青年は残念そうに手を離すと、ソファーに座り直し、
私達も座るようにと促してきた。

「では自己紹介といこう
僕の名前は白雪 命しらゆき みこと
暗殺組織『毒リンゴ』のリーダーだ」

「やはり、毒リンゴのリーダーでしたか」

生前はニュースくらいでしか知らなかったが、
彼岸警察となった今では『毒リンゴ』のことは良く知っている。
暗殺組織『毒リンゴ』
主にブラックキングの毒を用いた犯罪が多い組織。
現世で毒リンゴの仕業だと判明した事件は、
政府の重鎮の毒殺だと言われている。
重鎮の自室にはかじられたリンゴがあったそうで、
リンゴからは致死量の毒が検出されたという。
それまでは裏の世界にとって都合の悪い人間を
排除する組織だったのだが、最後のスノウホワイト事件は、
新たに毒リンゴリーダーになった白雪 命の指示だったという。
彼がリーダーになった頃から、
毒リンゴの行動はがらりと変わったと言っても良いだろう。

「それで?その暗殺組織のリーダーが何の御用だ?」

「最近僕達の真似をする摸倣犯が出始めてね
正義の味方気取りの犯行ばかりだから目障りなんだよ」

「その正義気取りの犯人を俺に見つけろと?」

「ああそうさ、流石僕の白雪王子!物分かりが良い!
だからね、君に犯人捜しを頼みたいんだ
候補は既に絞り込んである」

「…………聞くだけ聞いておこう」

「僕の調べた限りだと、今のところ容疑者は四人
白雪王子の為にも一人ずつ教えよう」

白雪さんは封筒から出した四枚の写真の中の一つの、
一番左の男性を指差した。
見たところ爽やかそうな好青年で、服装は配達員のような感じだ。

「まず一人目は的場 海凪まとば みなぎ
引っ越し業者の配達員で、誰に対しても人当たりが良い人物だ
しかし、被害者が毒殺された日に休みを取ることが多くてね
そう頻繁ではないが、少し気になっているんだ」

次に白雪さんが指差したのは、左から二番目の女性の写真。
化粧もかなり濃くて、着ている服も何だか派手だ。

「二人目は瀧本 彩菜たきもと あやな
まあ見て分かる通りキャバクラで働いている
金遣いが荒い女で、客に恨まれることが多いみたいだ
犯罪組織と仲が良いという噂も聞くから、
警戒はしておいた方が良いだろう」

次に白雪さんが指差したのは、右から二番目の男性。
顔はとても怖そうな人で、スーツを着ていた。

「三人目は平谷 柊芽ひらたに しゅうが
一見すると強面だが、普通の会社員だ
勤務態度は真面目で、同僚とは仲が良い
だが悪い噂も聞くから、必ず良い人とは限らないかな」

最後に白雪さんが指差したのは、一番右の女性。
一見すると大人しい優しそうなお姉さんに見える。

「彼女は富永 知咲とみなが ちさき
個人経営で花屋をしている女性だ
彼女自身は問題ないのだが、その恋人の噂が気がかりでね
万が一ということもあるから、調べておいてくれ」

「なるほど、この中に例の犯人がいると?」

「ああ、少なくとも僕はそう思っている
けれど、他に真犯人を見つけたら是非教えてくれ
僕も出来る限り捜査に協力すると約束しよう」

「捜査に協力って……何か出来るのか?」

「そうだな……潜入捜査や尾行は任せてほしい
僕は暗殺組織のリーダーだからね
気配を消して忍び込むのは得意なんだ」

「分かった、必要な時は利用させて貰うとしよう」

「君のお役に立てて嬉しいよ、白雪王子」

「話はもう終わったな?ならさっさと出ていけ」

「酷いな白雪王子、せっかくまた会えたのに、
突き放すだなんて僕達を引き裂くような行為をし……」

「ストーカーはあるべき場所に帰れ」

力付くで玄関へと追い出そうとする零時さんに対し、
白雪さんは呑気な声で零時さんに話しかけていた。

「ああそうだ、連絡先を交換しないか?
いつだって僕と君は繋がっておくべきだと思うんだ
僕が恋しくなった時に呼べなかったら悲しいだろう?
その時の為の繋がりを今君に……」

「帰れ!」

零時さんは白雪さんをドアの外に追い出すと、
バタン!と乱暴にドアを閉めて、鍵をかけた。
しばらくドンドンと開けてアピールがあったが、
やがて静かになると、零時さんのスマホに非通知の電話が鳴った。
嫌な予感がしながらも、零時さんは電話に出た。 

「やあ白雪王子!君が素直に教えてくれないから、
勝手に調べて登録しちゃったよ
これからも末長く宜しく頼むからね」

電話の切れたツーツーという無機質な音を黙って聞いた後、
零時さんは盛大な舌打ちをしてスマホを強く握り締めた。
その日の零時さんの目は死んだ魚のようだったのを覚えている。

「初めて自分のスマホを叩き割ろうと思った」
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