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本編
第八話 冥府症候群患者(前編)
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冷たい風が、私の頬を通りすぎていく。
遺書も、死ぬ覚悟だってとうに出来た。
私は死ななければいけない。
私は生きていてはいけない。
それがどうしてかは分からないけど、
何故か死なないと許されないような気がした。
…………誰に?家族に?友人に?恋人に?
死者しかいない変な世界にいるとおかしくなりそうだ。
皆は死んでいるのに、私だけ生きている。
まるで、生きていることがおかしいことみたいに。
同じに、彼らと同じにならないといけない。
一人は嫌だ。仲間外れは嫌だ。虐められるのは嫌だ。
ああ、ここで死んでしまえば………………
やっと私は、〟普通〝になれるのだ
現世と冥府では、決定的な意識の違いがある。
それは、食に関する価値観だろう。
食べないと生きていけない現世の人間とは違い、
食に関して関心が薄い住人が多いため、
見た目の美しさを追求し、味は二の次。
そこまで不味くはないのだが、質は現世に劣ってしまう。
だがたまに現世に負けないくらいの美味しいものを
生み出すお店もあるため、これだから冥府巡りはやめられないものだ。
「零時さん、月光蝶焼き買ってきましたよ!」
「またそれか……毎日のように買ってきてるのに、良く飽きんものだな」
「毎日じゃありません!一週間に一回買ってきてるだけです」
「せめて一ヶ月に一回にしろ」
買ってくるなとは言わないんですね。
「…………分かりました
これからは買う頻度を減らします」
冥府でしか売っていない月光蝶焼き。
羽に三日月の模様があり、月光に照らされると青色に光る蝶だ。
月光蝶から取れる金の鱗粉は香水の原料として使われ、
何でも月の光のような香りがするとかしないとか。
…………本当かどうかは私は分からない。
そんな美しい月光蝶に目をつけた人が作ったのが月光蝶焼きである。
種類はあんこ(つぶあん、こしあん)・カスタード・
チョコ・チーズなど、種類が豊富なのである。
私はチーズ味が好きで、少しずつむしって食べるのが好きだ。
現世でたい焼きというものを始めて見た時は、
冥府を真似したのかと疑ったものだ。
今考えても魚の形をした食べ物を作るなんて、
現世の人間が考えることは分からない。
「月光蝶焼きのチーズ味って美味しいですよねー」
「何を言う、月光蝶焼きと言えばカスタードだろ」
「そういえば、どうして零時さんはカスタードが好きなんですか?」
「…………妹が、好きだったからな」
その時の零時さんは、悲しそうな目をしていた。
「そんなことより、今日はブラックキングが手に入ったぞ
後で食べてみるか?」
「それ、結構珍しいリンゴだった気がするんですけど、
一体どうやって手にいれたんですか?」
「お近づきの印としてガラスの靴のリーダーに貰った」
「零時さんは本当に、裏の人間に好かれやすい人ですね……」
さっき零時さんが言っていたのは、
冥府になっている種に毒を持つリンゴのことで、
種を一つでも飲み込んでしまうと、
魂の人格が作り替えられてしまうらしい。
優しい人は過激な人に、過激な人は優しい人に。
人格を反転させてしまう毒は犯罪者や精神病患者に使われていたが、
何度も摂取すると、麻薬と似たような症状が出てしまうため、
今では使用されていない危険な毒である。
赤黒い見た目、見た目に反して一番の旨味を持つ果実。
そんな神のごとき恐ろしい力からついた名前が……
『ブラックキング(黒王)』
冥府を収める黒王様からとった名前で、今では珍しい果物だ。
「中にはブラックキングの毒を利用した暗殺組織もいるらしいな
確か名前は………」
そんな時に、零時さんの携帯がなった。
電話の名前が表示される欄にはガラスの靴と書かれている。
確か、彼らは爆弾テロを主にしたテロ組織だったような……
リーダー以外は男性の、毒リンゴとは真逆の組織だ。
「突然どうした」
「ボス、至急ご報告があって電話致しました」
「俺はボスじゃないんだが………で?何のようだ」
「ビルの屋上で自殺しようとしている住人を発見致しました
恐らく、冥府症候群患者だと思われます」
「わかった、すぐに行く」
「零時さん、冥府症候群患者って何ですか?」
「詳しい話は移動しながら話す
出掛けるぞ、三成」
遺書も、死ぬ覚悟だってとうに出来た。
私は死ななければいけない。
私は生きていてはいけない。
それがどうしてかは分からないけど、
何故か死なないと許されないような気がした。
…………誰に?家族に?友人に?恋人に?
死者しかいない変な世界にいるとおかしくなりそうだ。
皆は死んでいるのに、私だけ生きている。
まるで、生きていることがおかしいことみたいに。
同じに、彼らと同じにならないといけない。
一人は嫌だ。仲間外れは嫌だ。虐められるのは嫌だ。
ああ、ここで死んでしまえば………………
やっと私は、〟普通〝になれるのだ
現世と冥府では、決定的な意識の違いがある。
それは、食に関する価値観だろう。
食べないと生きていけない現世の人間とは違い、
食に関して関心が薄い住人が多いため、
見た目の美しさを追求し、味は二の次。
そこまで不味くはないのだが、質は現世に劣ってしまう。
だがたまに現世に負けないくらいの美味しいものを
生み出すお店もあるため、これだから冥府巡りはやめられないものだ。
「零時さん、月光蝶焼き買ってきましたよ!」
「またそれか……毎日のように買ってきてるのに、良く飽きんものだな」
「毎日じゃありません!一週間に一回買ってきてるだけです」
「せめて一ヶ月に一回にしろ」
買ってくるなとは言わないんですね。
「…………分かりました
これからは買う頻度を減らします」
冥府でしか売っていない月光蝶焼き。
羽に三日月の模様があり、月光に照らされると青色に光る蝶だ。
月光蝶から取れる金の鱗粉は香水の原料として使われ、
何でも月の光のような香りがするとかしないとか。
…………本当かどうかは私は分からない。
そんな美しい月光蝶に目をつけた人が作ったのが月光蝶焼きである。
種類はあんこ(つぶあん、こしあん)・カスタード・
チョコ・チーズなど、種類が豊富なのである。
私はチーズ味が好きで、少しずつむしって食べるのが好きだ。
現世でたい焼きというものを始めて見た時は、
冥府を真似したのかと疑ったものだ。
今考えても魚の形をした食べ物を作るなんて、
現世の人間が考えることは分からない。
「月光蝶焼きのチーズ味って美味しいですよねー」
「何を言う、月光蝶焼きと言えばカスタードだろ」
「そういえば、どうして零時さんはカスタードが好きなんですか?」
「…………妹が、好きだったからな」
その時の零時さんは、悲しそうな目をしていた。
「そんなことより、今日はブラックキングが手に入ったぞ
後で食べてみるか?」
「それ、結構珍しいリンゴだった気がするんですけど、
一体どうやって手にいれたんですか?」
「お近づきの印としてガラスの靴のリーダーに貰った」
「零時さんは本当に、裏の人間に好かれやすい人ですね……」
さっき零時さんが言っていたのは、
冥府になっている種に毒を持つリンゴのことで、
種を一つでも飲み込んでしまうと、
魂の人格が作り替えられてしまうらしい。
優しい人は過激な人に、過激な人は優しい人に。
人格を反転させてしまう毒は犯罪者や精神病患者に使われていたが、
何度も摂取すると、麻薬と似たような症状が出てしまうため、
今では使用されていない危険な毒である。
赤黒い見た目、見た目に反して一番の旨味を持つ果実。
そんな神のごとき恐ろしい力からついた名前が……
『ブラックキング(黒王)』
冥府を収める黒王様からとった名前で、今では珍しい果物だ。
「中にはブラックキングの毒を利用した暗殺組織もいるらしいな
確か名前は………」
そんな時に、零時さんの携帯がなった。
電話の名前が表示される欄にはガラスの靴と書かれている。
確か、彼らは爆弾テロを主にしたテロ組織だったような……
リーダー以外は男性の、毒リンゴとは真逆の組織だ。
「突然どうした」
「ボス、至急ご報告があって電話致しました」
「俺はボスじゃないんだが………で?何のようだ」
「ビルの屋上で自殺しようとしている住人を発見致しました
恐らく、冥府症候群患者だと思われます」
「わかった、すぐに行く」
「零時さん、冥府症候群患者って何ですか?」
「詳しい話は移動しながら話す
出掛けるぞ、三成」
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