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本編
第二話 良く似た双子【中編】
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彼岸警察とはあの世の警察であり、
彼岸花の刺繍がされた白い羽織と、
胸元に光る彼岸花と白い手錠がデザインされた
彼岸バッジが彼らの制服のようなものだ。
黒い羽織は生きた人間の証。
死者に体を乗っ取られぬように、特殊な結界が張られ、
やがて彼らは二十歳まで彼岸警察でいると、
その頃にはもう、人間ではなくなってしまう。
今日俺達と話したマコトくんもその一人だ。
人間の頃の記憶を、完全に失っている。
彼岸警察の役目は、生きた人間に害を与える悪霊達の退治と、
冥府の住人達の管理である。
俺は400の番号を入力すると、
現場で待っているであろう隊員に連絡を取る。
「ハイ」
この片言の口調の隊員を、俺は知っている。
ああ、こいつはとても話しづらい。
なるほど、現場はあいつの担当なのか。
「現場、誰の管轄だったんですか?」
「代魔」
「代魔先輩ですか…
あの方はなんと言うか、近寄りがたい方ですよね」
「いや、そんなに近寄りがたいか?
ただフライドチキン食ってるだけの片言鬼だろ」
「代魔先輩は鬼じゃなくて九十九神ですよ」
「どっちでも一緒だろ」
三成の先輩代魔は、一度ここを離れたが、
暇潰しの為に、再び彼岸警察に入隊したらしい。
片言は未だに治っていないようだが…
いくら話しづらいと言っても、このまま行かないわけにはいかない。
俺達は白浜 春賀の遺体が見つかった現場へと移動した。
「待っテイたゾ、零時」
「代魔、その鞄からはみ出してるそれ何だ」
「こレハ、フライドチキン入レだ」
「いや、フライドチキン入れって何だ」
相変わらずこの片言鬼はぶれない。
つーか現場にフライドチキン持ってくんなよ。
それに俺が来るまで食ってただろ。
良く見たら口元油でギトギトじゃねえか。
「代魔先輩、現場はどこですか?」
「あア、現場ニ案内しヨう」
「ところで、お前俺達が来る前にフライドチキン食ってただろ」
「どウシてソう思うンダ?」
「いや、口元油でギトギトだからな?」
代魔はすぐに口元を拭うと、
キリッとした顔でごまかそうとしていた。
「そンナもノはツイてイナい」
「いや、今更証拠隠滅しても遅いからな?」
「ソンなモノは、ナい!」
「強調しても無駄だからな」
俺達はそんな無駄話をしながら、現場へと向かった。
「こコガ現場だ」
遺体が見つかったという現場は、
ハイキングコースから少し外れた山道で、
周りは草木が生い茂って見つかりづらい。
上を見上げると崖が見えたので、
恐らくあそこから落ちてきたのだろう。
「まず、遺体を見つけた経緯を教えてもらえるか」
「対応シたノはオレと玄魔デな
通報ヲ聞イて第一発見者ニコこに案内さレタんダ」
ちなみに玄魔とは、代魔の弟であり、同じ九十九神である。
弟の方は片言じゃないから、
対応は玄魔にして欲しかったのだが…
「玄魔さんは、
確か今は悪霊退治の為に人間界に行ってましたね」
「ああ、だから玄魔じゃなかったのか」
「遺体ノ状態はウつ伏せデ、荷物ガ散乱しテイる状態だっタナ
玄魔ハ財布に入ってイタ身分証から判断シたヨウだ」
「遺体を見つけたのは何時だ?」
「午前9時30分だナ」
「なるほど…代魔は何か気になった事はあったか?」
「気になルこトトいエば、遺体が動かサれタ痕跡がアっテな」
「動かされた痕跡?」
「ああ、背中に土がツイテいタンだ
うつ伏セに倒レてイルのニおかシイだロ?」
「それは確かにおかしいな…」
「モしカしタラ、元は違ウ体勢ダったノかモな」
「…………最後に、第一発見者の名前を教えてくれるか?」
「第一発見者ハ瀬谷 智寛
被害者の幼なジみだソうだ」
「被害者の幼なじみか…」
零時達は第一発見者へと聞き込みをする前に、
ハイキングコースの受付に聞き込みを始めた。
零時は白浜 春賀の写真を受付に見せる。
「この女性を知りませんか?」
「ああ、知ってるよ。今日ここに来たからね」
「ちなみに、いつ頃来たか分かります?」
「彼女が来たのは7時頃だよ
出てきたのは、8時半くらいかな?」
つまり、彼女が出てくるまでに、
一時間半の空白があるってことか…
「ここの受付って、何時までなんですか?」
「午前の5時から午後の10時までだね
それがどうかしたのかい?」
「なるほど、ご協力ありがとうございます」
「次はどこに行くんですか?」
「第一発見者の所へ向かうぞ」
「お話とは何でしょうか」
白浜 春賀の幼なじみで、遺体の第一発見者である
瀬谷 智寛は緊張した面持ちで零時を見つめた。
「あなたは白浜さんの幼なじみだそうですね?
被害者のことを教えて頂けますか?」
「………答えられる範囲なら」
「あなたは、白浜さんが双子だということはご存じですか?」
「………はい、二人の好みも、見分け方も知っています」
「そうですか
では、双子がどんな方か教えて頂けますか?」
「姉の春賀は、どこか優れてるわけではありませんが、
人柄が良くて、友達が多い人でした
恨まれるようなことはしていないはずなのですが…」
「では、妹さんはどんな方なんですか?」
「妹の春瑠は優秀でしたから、親からも溺愛されていました
それは、死者になっても変わりません」
「そうですか…」
零時が瀬谷の話を聞いていると、三成が瀬谷に質問をしてきた。
「そういえば、
春瑠さんってホットココアが好きなんですか?」
「え、ああはい、そうですね
春賀はコーヒーが好きなんですけど猫舌で、
春瑠はホットココアが好きなんです」
「そうなんですね。教えて下さりありがとうございました」
「猫舌か…」
零時はその言葉である人物を思い出し、
ある程度の察しがついたのか、ふっと微笑む。
「なるほど、そういうことか」
「どういうことですか?」
「それはそのうち分かるさ」
「そんなこと言われても分かりませんよ」
「あの、どうかしたんですか?」
「いいえ、何でもありません
ところで瀬谷さんは、
春賀さんを恨んでいた方に心当たりはありますか?」
「心当たりというよりはただの噂なんですけど、
それでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「春賀に振られた男が
春賀の命を狙ってるとかいう噂が流れてるんです」
「その男性の名前とか分かります?」
「すみませんそこまでは…裏で働いてる方らしいので…」
「となると、警察に聞いても
大した情報は得られそうにないですね…」
「大して役に立てなくてすみません…」
「いいえ、話して下さりありがとうございました」
瀬谷の家を出た後、三成が零時に話しかけた。
「これからどうするんですか?
彼岸警察に聞いても、彼を見つけることは出来ませんし…」
「俺達には無理でも、裏社会と繋がる奴が一人いただろ?」
「あっ!」
「正攻法で入手出来ない情報は、
こちらも正攻法じゃない方法で入手するまでだ」
噂をすれば何とやら、例の裏社会の死者からの電話だ。
画面にはストーカーと表示されている。
俺は応答ボタンを押すと、彼女の電話に出た。
「やあ、時人くん
そろそろ僕の力が必要だと思って、僕から電話をかけたよ」
「ああ、ちょうどお前の話をしてたんだ、伊織
今すぐ俺の携帯のGPS辿ってこちらに来てくれ」
「分かったよ時人くん
すぐに君の元へ向かうから待っててね」
彼女の名前は希丸 伊織。
俺のストーカーであり、裏社会に生きる天才ハッカーだ。
彼岸花の刺繍がされた白い羽織と、
胸元に光る彼岸花と白い手錠がデザインされた
彼岸バッジが彼らの制服のようなものだ。
黒い羽織は生きた人間の証。
死者に体を乗っ取られぬように、特殊な結界が張られ、
やがて彼らは二十歳まで彼岸警察でいると、
その頃にはもう、人間ではなくなってしまう。
今日俺達と話したマコトくんもその一人だ。
人間の頃の記憶を、完全に失っている。
彼岸警察の役目は、生きた人間に害を与える悪霊達の退治と、
冥府の住人達の管理である。
俺は400の番号を入力すると、
現場で待っているであろう隊員に連絡を取る。
「ハイ」
この片言の口調の隊員を、俺は知っている。
ああ、こいつはとても話しづらい。
なるほど、現場はあいつの担当なのか。
「現場、誰の管轄だったんですか?」
「代魔」
「代魔先輩ですか…
あの方はなんと言うか、近寄りがたい方ですよね」
「いや、そんなに近寄りがたいか?
ただフライドチキン食ってるだけの片言鬼だろ」
「代魔先輩は鬼じゃなくて九十九神ですよ」
「どっちでも一緒だろ」
三成の先輩代魔は、一度ここを離れたが、
暇潰しの為に、再び彼岸警察に入隊したらしい。
片言は未だに治っていないようだが…
いくら話しづらいと言っても、このまま行かないわけにはいかない。
俺達は白浜 春賀の遺体が見つかった現場へと移動した。
「待っテイたゾ、零時」
「代魔、その鞄からはみ出してるそれ何だ」
「こレハ、フライドチキン入レだ」
「いや、フライドチキン入れって何だ」
相変わらずこの片言鬼はぶれない。
つーか現場にフライドチキン持ってくんなよ。
それに俺が来るまで食ってただろ。
良く見たら口元油でギトギトじゃねえか。
「代魔先輩、現場はどこですか?」
「あア、現場ニ案内しヨう」
「ところで、お前俺達が来る前にフライドチキン食ってただろ」
「どウシてソう思うンダ?」
「いや、口元油でギトギトだからな?」
代魔はすぐに口元を拭うと、
キリッとした顔でごまかそうとしていた。
「そンナもノはツイてイナい」
「いや、今更証拠隠滅しても遅いからな?」
「ソンなモノは、ナい!」
「強調しても無駄だからな」
俺達はそんな無駄話をしながら、現場へと向かった。
「こコガ現場だ」
遺体が見つかったという現場は、
ハイキングコースから少し外れた山道で、
周りは草木が生い茂って見つかりづらい。
上を見上げると崖が見えたので、
恐らくあそこから落ちてきたのだろう。
「まず、遺体を見つけた経緯を教えてもらえるか」
「対応シたノはオレと玄魔デな
通報ヲ聞イて第一発見者ニコこに案内さレタんダ」
ちなみに玄魔とは、代魔の弟であり、同じ九十九神である。
弟の方は片言じゃないから、
対応は玄魔にして欲しかったのだが…
「玄魔さんは、
確か今は悪霊退治の為に人間界に行ってましたね」
「ああ、だから玄魔じゃなかったのか」
「遺体ノ状態はウつ伏せデ、荷物ガ散乱しテイる状態だっタナ
玄魔ハ財布に入ってイタ身分証から判断シたヨウだ」
「遺体を見つけたのは何時だ?」
「午前9時30分だナ」
「なるほど…代魔は何か気になった事はあったか?」
「気になルこトトいエば、遺体が動かサれタ痕跡がアっテな」
「動かされた痕跡?」
「ああ、背中に土がツイテいタンだ
うつ伏セに倒レてイルのニおかシイだロ?」
「それは確かにおかしいな…」
「モしカしタラ、元は違ウ体勢ダったノかモな」
「…………最後に、第一発見者の名前を教えてくれるか?」
「第一発見者ハ瀬谷 智寛
被害者の幼なジみだソうだ」
「被害者の幼なじみか…」
零時達は第一発見者へと聞き込みをする前に、
ハイキングコースの受付に聞き込みを始めた。
零時は白浜 春賀の写真を受付に見せる。
「この女性を知りませんか?」
「ああ、知ってるよ。今日ここに来たからね」
「ちなみに、いつ頃来たか分かります?」
「彼女が来たのは7時頃だよ
出てきたのは、8時半くらいかな?」
つまり、彼女が出てくるまでに、
一時間半の空白があるってことか…
「ここの受付って、何時までなんですか?」
「午前の5時から午後の10時までだね
それがどうかしたのかい?」
「なるほど、ご協力ありがとうございます」
「次はどこに行くんですか?」
「第一発見者の所へ向かうぞ」
「お話とは何でしょうか」
白浜 春賀の幼なじみで、遺体の第一発見者である
瀬谷 智寛は緊張した面持ちで零時を見つめた。
「あなたは白浜さんの幼なじみだそうですね?
被害者のことを教えて頂けますか?」
「………答えられる範囲なら」
「あなたは、白浜さんが双子だということはご存じですか?」
「………はい、二人の好みも、見分け方も知っています」
「そうですか
では、双子がどんな方か教えて頂けますか?」
「姉の春賀は、どこか優れてるわけではありませんが、
人柄が良くて、友達が多い人でした
恨まれるようなことはしていないはずなのですが…」
「では、妹さんはどんな方なんですか?」
「妹の春瑠は優秀でしたから、親からも溺愛されていました
それは、死者になっても変わりません」
「そうですか…」
零時が瀬谷の話を聞いていると、三成が瀬谷に質問をしてきた。
「そういえば、
春瑠さんってホットココアが好きなんですか?」
「え、ああはい、そうですね
春賀はコーヒーが好きなんですけど猫舌で、
春瑠はホットココアが好きなんです」
「そうなんですね。教えて下さりありがとうございました」
「猫舌か…」
零時はその言葉である人物を思い出し、
ある程度の察しがついたのか、ふっと微笑む。
「なるほど、そういうことか」
「どういうことですか?」
「それはそのうち分かるさ」
「そんなこと言われても分かりませんよ」
「あの、どうかしたんですか?」
「いいえ、何でもありません
ところで瀬谷さんは、
春賀さんを恨んでいた方に心当たりはありますか?」
「心当たりというよりはただの噂なんですけど、
それでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「春賀に振られた男が
春賀の命を狙ってるとかいう噂が流れてるんです」
「その男性の名前とか分かります?」
「すみませんそこまでは…裏で働いてる方らしいので…」
「となると、警察に聞いても
大した情報は得られそうにないですね…」
「大して役に立てなくてすみません…」
「いいえ、話して下さりありがとうございました」
瀬谷の家を出た後、三成が零時に話しかけた。
「これからどうするんですか?
彼岸警察に聞いても、彼を見つけることは出来ませんし…」
「俺達には無理でも、裏社会と繋がる奴が一人いただろ?」
「あっ!」
「正攻法で入手出来ない情報は、
こちらも正攻法じゃない方法で入手するまでだ」
噂をすれば何とやら、例の裏社会の死者からの電話だ。
画面にはストーカーと表示されている。
俺は応答ボタンを押すと、彼女の電話に出た。
「やあ、時人くん
そろそろ僕の力が必要だと思って、僕から電話をかけたよ」
「ああ、ちょうどお前の話をしてたんだ、伊織
今すぐ俺の携帯のGPS辿ってこちらに来てくれ」
「分かったよ時人くん
すぐに君の元へ向かうから待っててね」
彼女の名前は希丸 伊織。
俺のストーカーであり、裏社会に生きる天才ハッカーだ。
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