2 / 11
金髪くんの噺
しおりを挟む
「どこだよここは…」
また一人、虚無の街に人間が迷い込んだ。
金色に染められた髪と、服装を見ると、
不良、もしくはヤンキーを思わせる見た目だ。
色んな国の景観がごちゃ混ぜになった
虚無の街を、金髪の男は当てもなく歩いていた。
『おや、これは珍しい
帰り道が分からなくなったのかい?』
先程まで誰もいなかったはずの店内に人影が一つ。
そこには若い青年が座っていた。
「あんた、さっきまでいなかっただろ」
『この虚無の街では、君の常識など通じないさ
ここには曰く付きや人から外れた者が
多く流れ着くからね』
金髪の男はこれ以上の会話は
時間の無駄とでも思ったのか、
青年の声を無視して先へと進んだ。
「くだらねえ、付き合ってられるかよ」
この街は僅かな明かりはついているが、
些か頼りなく、精々足元を照らす程度しかない。
金髪の男はそれを気にすることはなく、
無言で歩いていた。
『お客さん、そんなに急いでどこに行くんだい?』
誰もいないはずの店内から
声が聞こえたと思うと、
そこにはさっきの若い青年が座っていた。
「お前、いつから着いてきてたんだよ」
『着いてきたも何も、私は初めからここにいるよ
お客さんこそ、この辺りをぐるぐる回って、
私に何か用でもあるのかい?』
嘘だ、俺はずっと前に進んでいたはず。
こんな頭おかしい奴になんて用はない。
金髪の男が混乱していると、
若い青年は不気味に笑った。
『もしやお客さん、出られないのかい?』
「・・・お前は俺が、
ループを繰り返してるとでも言うのかよ」
『ああそうさ、実際そうだろう?』
「そんなの気のせいに決まってるだろ
何回か行けばすぐに出られる」
『そう、ならやってみれば良いさ
それで君の気が済むならね…』
金髪の男は何度もこの世界から出ようとした。
しかしいくらやってもここに戻ってくるだけで、
ここから出られそうにはない。
「おい、どうなってんだよ
お前が俺を閉じ込めてるのか?」
『私ではないさ
君を閉じ込めるとするならば、
この虚無の街だろうね』
「この街が?そんなのありえないだろ」
『ところがそうでもないのさ
この街は世界から外れた者が流れ着く…
君が自ら変わらない限り、
この虚無の街は君を離してくれないだろうね』
「変わると言っても、どこを変えれば出られるんだよ」
『心さ、君は自分がいらない子だと思っているだろう?
だから君はこの街に引きずり込まれたのさ』
「・・・そんなもん、簡単には変わらねえよ
実際に俺は、親父にもお袋にも、
必要とされてないんだ」
『ああダメだよ
そのままではこの街に取り込まれ、
いずれは永遠に出られなくなってしまう』
「・・・」
『ずっとここにいても退屈だろう?
一つ物語を話してあげよう』
「物語?俺はガキじゃねえぞ」
『良いから聞きなさい
どうせ出られる希望はまだないだろう?
出られるまでの暇潰しだと思えば良いさ』
「・・・まあ、聞くだけなら…」
『毎度あり、それでは今回はこの噺をしてあげよう』
◇◇◇
『君は、美人と醜女だと、どちらが好きかな?』
「美人は分かるけど、醜女って何だよ」
『醜女とは、君達の世界で言うところの、
ブスとか、不細工とか言われる者達のことだよ』
「そうだな…綺麗な方が良いんじゃねえの?」
『大半の人がそう答えるね
一部醜女を好む変わり者はいるけれど、
大半は綺麗な者を好むんだ』
「それがどうしたんだよ」
『今聞いたことは、
今回語る噺に、とても重要なんだよ』
「ふーん、じゃあ早く話してくれよ」
『とある国に、神様に呪いをかけられた女がいた。
その女は良いことをすると美人に変わり、
悪いことをすると醜女に変わる呪いをかけられていたのさ』
「何だそれ、変な呪いだな」
『変な呪いだろう?
悪いことさえしなければ、
綺麗な女性でいられるからね
でも、面白いのはこれからさ
さて、何が起こると思う?』
「その女って、良いことはしてたのか?」
『うん、この呪いは良いことをする度に
美しくなる呪いだからね
まあ、逆も然りだが、
その国ではなかなかの美人だったようだ』
「なら、美人になっていく女に
嫉妬する奴も出てくるってことだよな?」
『そうだね、実際にそんな女がいたのさ。
神様に自分にも彼女と同じ呪いを
かけるように言ったんだ』
「それで、呪いを?」
『ああ勿論、だが何てことはない。
良いことさえしていれば、
醜くなることはないのだから。
だが、事はそう上手くは運ばないものさ』
「まさか…」
『そのまさかさ。
彼女は愚かにも、悪いことをしてしまい、
段々醜くなっていき、次第に彼女の
周りにいた者も離れていった…
悪いことはするものではないね』
「それなら、最初に呪いをかけられた女はどうしたんだよ」
『彼女は悪いことはしていないさ
死ぬまで良いことをして、
最後は誰よりも美しい顔で人生を終えたよ』
「・・・そうか」
◇◇◇
『さて、お客さん、この噺買うかい?』
「はぁ!?金取るのかよ!」
『金銭は取らないよ
この街は金銭は滅多に流れないから、
未だに物々交換で商売しているのさ』
「物々交換って言っても、
俺何も持ってねえぞ」
『そうだな…私は君の金色の髪が欲しい。
外人さんのようで綺麗だからね』
「・・・それで交換したとして、俺ハゲない?」
『大丈夫、私が貰うのは金色の髪だから、
君は元の色の髪に戻るだけだよ
もう二度と金色に染めることは出来なくなるだろうがね』
「・・・こんなので良いならくれてやるよ」
『毎度あり、ついでにサービスもしてあげるよ
元の世界に戻ったら、
君の家族が温かく迎えてくれるだろうさ』
「それはどういう…」
金髪の男がそう言いかけた時、
視界がぐにゃりと歪み、
元からその場にいなかったかのように、
青年の目の前から消えていった。
金色の髪の青年は笑いながら語る。
『どうかこれからもお幸せに、金髪君
良いことさえしていれば、
ずっと綺麗な顔でいられるからね』
ある所に、幸福な家族がいた。
金色の髪から黒い髪に変わった男は、
誰よりも美しい顔で、家族と笑っていたという。
また一人、虚無の街に人間が迷い込んだ。
金色に染められた髪と、服装を見ると、
不良、もしくはヤンキーを思わせる見た目だ。
色んな国の景観がごちゃ混ぜになった
虚無の街を、金髪の男は当てもなく歩いていた。
『おや、これは珍しい
帰り道が分からなくなったのかい?』
先程まで誰もいなかったはずの店内に人影が一つ。
そこには若い青年が座っていた。
「あんた、さっきまでいなかっただろ」
『この虚無の街では、君の常識など通じないさ
ここには曰く付きや人から外れた者が
多く流れ着くからね』
金髪の男はこれ以上の会話は
時間の無駄とでも思ったのか、
青年の声を無視して先へと進んだ。
「くだらねえ、付き合ってられるかよ」
この街は僅かな明かりはついているが、
些か頼りなく、精々足元を照らす程度しかない。
金髪の男はそれを気にすることはなく、
無言で歩いていた。
『お客さん、そんなに急いでどこに行くんだい?』
誰もいないはずの店内から
声が聞こえたと思うと、
そこにはさっきの若い青年が座っていた。
「お前、いつから着いてきてたんだよ」
『着いてきたも何も、私は初めからここにいるよ
お客さんこそ、この辺りをぐるぐる回って、
私に何か用でもあるのかい?』
嘘だ、俺はずっと前に進んでいたはず。
こんな頭おかしい奴になんて用はない。
金髪の男が混乱していると、
若い青年は不気味に笑った。
『もしやお客さん、出られないのかい?』
「・・・お前は俺が、
ループを繰り返してるとでも言うのかよ」
『ああそうさ、実際そうだろう?』
「そんなの気のせいに決まってるだろ
何回か行けばすぐに出られる」
『そう、ならやってみれば良いさ
それで君の気が済むならね…』
金髪の男は何度もこの世界から出ようとした。
しかしいくらやってもここに戻ってくるだけで、
ここから出られそうにはない。
「おい、どうなってんだよ
お前が俺を閉じ込めてるのか?」
『私ではないさ
君を閉じ込めるとするならば、
この虚無の街だろうね』
「この街が?そんなのありえないだろ」
『ところがそうでもないのさ
この街は世界から外れた者が流れ着く…
君が自ら変わらない限り、
この虚無の街は君を離してくれないだろうね』
「変わると言っても、どこを変えれば出られるんだよ」
『心さ、君は自分がいらない子だと思っているだろう?
だから君はこの街に引きずり込まれたのさ』
「・・・そんなもん、簡単には変わらねえよ
実際に俺は、親父にもお袋にも、
必要とされてないんだ」
『ああダメだよ
そのままではこの街に取り込まれ、
いずれは永遠に出られなくなってしまう』
「・・・」
『ずっとここにいても退屈だろう?
一つ物語を話してあげよう』
「物語?俺はガキじゃねえぞ」
『良いから聞きなさい
どうせ出られる希望はまだないだろう?
出られるまでの暇潰しだと思えば良いさ』
「・・・まあ、聞くだけなら…」
『毎度あり、それでは今回はこの噺をしてあげよう』
◇◇◇
『君は、美人と醜女だと、どちらが好きかな?』
「美人は分かるけど、醜女って何だよ」
『醜女とは、君達の世界で言うところの、
ブスとか、不細工とか言われる者達のことだよ』
「そうだな…綺麗な方が良いんじゃねえの?」
『大半の人がそう答えるね
一部醜女を好む変わり者はいるけれど、
大半は綺麗な者を好むんだ』
「それがどうしたんだよ」
『今聞いたことは、
今回語る噺に、とても重要なんだよ』
「ふーん、じゃあ早く話してくれよ」
『とある国に、神様に呪いをかけられた女がいた。
その女は良いことをすると美人に変わり、
悪いことをすると醜女に変わる呪いをかけられていたのさ』
「何だそれ、変な呪いだな」
『変な呪いだろう?
悪いことさえしなければ、
綺麗な女性でいられるからね
でも、面白いのはこれからさ
さて、何が起こると思う?』
「その女って、良いことはしてたのか?」
『うん、この呪いは良いことをする度に
美しくなる呪いだからね
まあ、逆も然りだが、
その国ではなかなかの美人だったようだ』
「なら、美人になっていく女に
嫉妬する奴も出てくるってことだよな?」
『そうだね、実際にそんな女がいたのさ。
神様に自分にも彼女と同じ呪いを
かけるように言ったんだ』
「それで、呪いを?」
『ああ勿論、だが何てことはない。
良いことさえしていれば、
醜くなることはないのだから。
だが、事はそう上手くは運ばないものさ』
「まさか…」
『そのまさかさ。
彼女は愚かにも、悪いことをしてしまい、
段々醜くなっていき、次第に彼女の
周りにいた者も離れていった…
悪いことはするものではないね』
「それなら、最初に呪いをかけられた女はどうしたんだよ」
『彼女は悪いことはしていないさ
死ぬまで良いことをして、
最後は誰よりも美しい顔で人生を終えたよ』
「・・・そうか」
◇◇◇
『さて、お客さん、この噺買うかい?』
「はぁ!?金取るのかよ!」
『金銭は取らないよ
この街は金銭は滅多に流れないから、
未だに物々交換で商売しているのさ』
「物々交換って言っても、
俺何も持ってねえぞ」
『そうだな…私は君の金色の髪が欲しい。
外人さんのようで綺麗だからね』
「・・・それで交換したとして、俺ハゲない?」
『大丈夫、私が貰うのは金色の髪だから、
君は元の色の髪に戻るだけだよ
もう二度と金色に染めることは出来なくなるだろうがね』
「・・・こんなので良いならくれてやるよ」
『毎度あり、ついでにサービスもしてあげるよ
元の世界に戻ったら、
君の家族が温かく迎えてくれるだろうさ』
「それはどういう…」
金髪の男がそう言いかけた時、
視界がぐにゃりと歪み、
元からその場にいなかったかのように、
青年の目の前から消えていった。
金色の髪の青年は笑いながら語る。
『どうかこれからもお幸せに、金髪君
良いことさえしていれば、
ずっと綺麗な顔でいられるからね』
ある所に、幸福な家族がいた。
金色の髪から黒い髪に変わった男は、
誰よりも美しい顔で、家族と笑っていたという。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる