RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-32 勇すFull

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side真黎

烈しい。

寄るもの全てを弾き飛ばすその苛烈さは、正に吹き荒れる嵐の如く。

カシカシカシカシカシャッ
「スっゴ、ホント何者なん?あのオッサン」

扉の隙間に差し込まれた大きなレンズ。
さっき凄んだ九鬼さんに応えるよう本格的なカメラを取り出した薗目さんは、緊張と興奮をその声に溢れさせシャッターを連写。

「えぇ、本当に」

突然飛び出して来た九鬼さんテキに対し、列をなして当たる不死の襲撃者達は

『ゴギィン‼︎ 』

払った槍の一振りで膝が横に折れ曲がり

『『ドキャ‼︎ 』』

突き上げられた頭部はもげそうに跳ね上がる。

今のところ襲撃者を寄せ付けない九鬼さんだけど、相手は銃弾でも死なない異様の存在。
いつ何が起きるか分からない。

カシカシャカシャッ
「捕まった人、また増えた。盾にされないと良いけど」

盾に、か…
だとしても九鬼さんは動じない。
この突撃を躊躇いの無く敢行出来るのだから。


カシャカシャッ
「…あ、あのお母さん引きずってきたヤツ足下が濡れてるっぽいよ。ってことはもしかあの娘も地底湖あっちの方に居るのかも……って流石にちょっと見えないか… 」

そう言ってカメラを覗き込む薗目さんは、
最後の部分を詰まるような小声で押し込めた。

そう、ここに居る全員が思い知らされている。
ここは文明社会と隔絶した異界で、命を留める重力も、祈りを捧げる神の影すら見当たらない無慈悲な冥界なのだと。

それでも、それでも今は目の前で、奮闘する九鬼さんの無事と成功を祈らずにはいられない。

1人でも多く救われるように。


『ガギィィッ‼︎ 』

だけどその九鬼さんの一撃が、敵陣深くまで行って初めて止められてしまった。

「チ、フゥーァラァァッ」
ー『ガギッガギッギャリリィッ』

ただ怯むことなく攻め立てる九鬼さんの猛追には、その敵も辛うじての受けが精一杯の様子。

だけどやっぱり単身では、いずれ囲まれて退くしかなくなる。

せめて、せめて一人でも敵の気を散らせる味方が居れば、最後の一列を突破出来るのに。

っ…

「お止しなさい」

静かなるその制止に、私は呼吸が止まりそうになる。
見透かしたようなタイミングが、余りに絶妙過ぎて。

「あ、ヤバっ」

そう思った通り蹴散らされた襲撃者達は、九鬼さんの隙を狙い、斜め後ろから槍を突き込む。

「牽制だけでもっ」

それでも堤さんはただ首を横に振ると、九鬼さんはそれを見ていたように、一撃、二撃目を巧みに躱し、三撃目に放たれた槍を脇に差し挟むとそれを同時に引き込んで、掴んだ相手の腕を下から背中へグルリと回し上げて肩を破壊。

「避けたうわ⁉︎ 仲間刺したっ」

そしてその勢いで前屈みになった敵を、四撃目を狙っていた相手への盾代わりに。

「何あれ、しまっ」カシャカシャ

思わず私の方を見た薗目さんは、映画さながらの場面を撮り逃したことに苦い表情を浮かべると、直ぐ様またファインダーへ顔を戻した。

確かに複数の敵を人形の様にあしらうあの技は、見事としか言いようの無い卓越の戦闘術。

だけど、それだけに削られるはず。
体力も集中力も。

「大丈夫、あれは特別なんだ」
「いくら、いくら特別でもあれではいずれっ」
「それに叩き込んだ。骨の髄まで。何よりも死地の見極めを」


そう重々しく言った堤さんの言葉通り…



数分後。


九鬼さんの周りに立つ敵の数は順に減り、とうとう残り10を切るにまで至った。



「スゴい… 」「頑張れ、頑張れ」
「あと、あと少し、神様… 」

想像を超える九鬼さんの活躍は、心身共に疲弊した機内の全員を立たせ、自然と窓に張り付かせていた。

カシャカシャッ
「いやさ、これ、一人でやっちゃいそうじゃない?」

「あ、あれっ⁉︎ 」「何アイツらっ」

「なんでだよ、ザケンナっ」

淡い期待が去来し掛けた時、奥の洞穴から現れたのは新手の襲撃者の一団。

ただでさえ倒した襲撃者も死なないというのに、こんなタイミングで更なる増援。

これじゃ救出はもう、無…

「キャァーーーーっヤっ、ヤダ助け」

絶望的な窮地の再訪。
九鬼さんと戦う手練れの襲撃者が腕を上げると、後ろで髪を掴み倒された40代の女性が

『ドシュ』ギっ… 」

抵抗虚しくあっさり胸を貫かれた。

「ヒィャァっ」
「うわわわァァ、やめてっ、助けてぇッ」

隣にいる竹仲さんは腹這いで必死に逃げようとする。

「逃げてっ、竹仲さん逃げてェっ」
「HOLY F×CKッ… 」

「「「「「「「…………… 」」」」」」」

叫ぶ咲。
強張った横顔の薗女さん。
唖然となり固まる人達。

そして、視線の先では緋芦花ちゃんのお母様にも槍が振りかぶられた。

『ドパパンドパァンッ‼︎ 』

連続する乾いた炸裂音に瞠目するお母様と、その後ろで崩れ落ちる襲撃者。

第二の護衛対象は緋芦花ちゃんのお母様?

『ドパンドパンッ』

続けて目の前の襲撃者を穿ち九鬼さんは特攻。

しかし銃に対する怯みの一切がない襲撃者達は次々と立ち塞がり、お母様は別の襲撃者に再び掴まれてしまった。

『ドパンドパン、ドパンドパンッ』

焦る叫びのような銃声。

振り上げられる槍。

ダメっ
間に、合わない…

思わず目を背けようとした瞬間

『ドシュ』

カシャカシャカシャカシャッ
「ちょ、なになになにっ」

「仲間割れ⁉︎‼︎ 」

呼吸をくほどの驚き。
お母様へと槍を振り下ろそうとした襲撃者の首に、別の襲撃者の槍が一直線に刺し込まれた。

そして突然翻意を表した?その襲撃者が混乱する他の襲撃者にも襲い掛かると、そこで奥から現れた新手の一団が合流。


死と絶望渦巻く戦場の混迷は、ここから更に加速する。







side九鬼

「ハァハァ、ハァッ」

一体ど…いやいい。
目の前のアレが何であれ助かった。

シュ、カシャ、ガチッ

孤立無援の単独任務。
限られた手段の中、残りの弾倉マガジン(2)も残したい所に更なる増援。

分水嶺ギリギリ。
首の皮一枚繋がったこの状況…


「ハァハァフゥーーーーーー… 」


呼吸を整えろ。


集中ーー


『『ドパパンドパンッ‼︎ 』』

面食らった敵どもの側頭部を即座に撃ち抜き、敵の防衛ラインが乱れる。

『ドッ、バゴッ』

それを見逃さず飛込んだアレが、槍で的確に敵の関節を打ち穴を開けると

「ハァハァハァっ」「助けてっ助けてっ」

その脇を縫って人質達が走り抜ける。

『ガシッ』
「え⁉︎ 」ー

が、アレが人質ウチ1人を掴み、体を入れ替えるようにして背後の敵の方へ突き飛ばす。

ー「うわぁァ~ー、や… 『ブシュゥ』え?ぁが……『ドス』ぁっぐゥ~… 」
『ドガァッ‼︎ 」

迷わず得物を刺し貫く敵だが、動きの止まったその頭部がひしゃげる。

囮兼盾か。

『『ドパンドパンドパンッ‼︎ 』』
「早くこっちへっ」

そして援護射撃のかいあって、対象と他が命からがらに俺の元へとたどり着いた。

「泉水さん、アレは何だ?」
「ハァハァっ、え⁉︎ あはい、あ、あの人は私達と同じ乗客の方です」

呼吸に必死な中名を呼ばれたことに驚いた彼女だが、そんなことよりと直ぐに答える。

「乗客?」

あんなのが紛れてるなんてチェックが甘過ぎるぞちゃう情報部のバカヤロウ。
まぁ今は敵じゃなければ問題ないし、かえって遠慮をすることもないが。

「いいか、アンタらはこのまま機に向かって一直線に走れっ」

「ちょ、そんなっ⁉︎ 」
「無理ですよっ、助けて下さいっ」「ヤダ殺されちゃう」

右手を回しながら言う俺に泉水は少し目を見開くに留まったが、その他数人が周りを見て一斉に喚き散らし、更には俺に泣きつくよう縋ろうとする

「助けて下さいお願いし『バチィッ‼︎ 』ーばブっ~」

若い女の横ツラを張り倒す。

「「なっ~」」「「「「…ッ‼︎⁉︎ 」」」」」」

「いいかッ、ノーは無いッ‼︎ 従わないなら勝手に死ねっ」

「うぉっ⁉︎ っと、ンしょォ」『ドガッ』

狼狽える人質達のすぐ後ろ、交戦しているアレと敵を見て、感じていた違和感が確信に変わる。

組み伏せた時の抵抗力も、振り回す槍の膂力もかなりのもの。
だが動き出しの反応が総じて固い。
と言うよりも一拍遅い。
経験の薄い新兵とも思ったが、もしかしてヤツらは目が悪いのか?

「ーッ~、行きますっ」

そう言って最初に覚悟を決めたのは泉水。
恐怖を飲み込むよう頷いた彼女が走り出すと、遅れまいと慌てる他も後を追う。

「おい死ぬなよっ」
カラカラカラカラ~~…

『ブジューーーーーーーーーーーーー』

戦闘中のアレに聞こえるかは知らないが、一応一言添えた数秒後、地面を転がる目眩しスモグレが敵の真ん中でモウモウと煙を吹き上げる。

とは言えコイツら相手にどこまで足止めになるか…

「ヒィぃ~っ」「ウワァぁぁっ」
『『ドパンッ‼︎ ドパンドパンッ』』

外側から襲い掛かろうとするヤツらを最後尾から撃ち、泉水が包囲を抜けた所で俺も前へ行こうとした瞬間

ーシュンーー

空を走る銀線。

ー『ズドュッ‼︎ 』
ズザザァ「っ…ァぎゃァァーーーーー」

先頭に走り出ていた男が転倒。
その背に無機質な槍が突き立った。

「いいから止まるなァーーーァッ」

突然のことに動揺し足が弛みかけた面々を叱咤。

ったく…

「もう少しです急いで中へっ、早くッ」

淀みない対応をする客室乗務員の声を聞きながら愛銃P226をしまい、転けた男の背に深々と刺さる槍を引き抜く。


「っ痛ぃ…グふっ、怖ぃ…た、たふ… け… … 」

群れを止めるなら先頭を狙い、殲滅させるなら足の速いヤツから殺す。
狩る側としてはセオリーだが、急に狩られる側にされて冷静ではいられないよな。


「………あぁ、待っていろ」

追撃に注意しながら痙攣する不運な男に答え、血糊の付いた先端を近付いて来る敵に突きつける。


「避難完了ですッ、九鬼さんも早く」


奪還任務は完了。


「フゥーーーー… 」

ここからは好きにやらせてもらう。

本来俺は敵地攻略アウェー専門だ。







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