RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-18 囲め囲め

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side芝木


←ーー←ーー←ーー←ー
3時間程前 (3-13 二日目…の前)
←ーー←ー


・・・機内エコノミークラス出入口前。


「それでは… 」

「自分は芝木シバキと言います」
「はい、芝木様と… 」
「に、新美暖ニイミダンっす~、ダンって呼んで下さ~い」
「はい新美様ですね。お二人はお知り合いですか?」

「いえ初対面です」
「そそ、そっす」

「そうですか。では改めまして…この様な状況での勇気あるご決断に心より感謝を申し上げます。これより私はお二人のご協力を伝えて参りますので、ご準備の方が整いましたらあちらの洞穴の前までお願いします」

そう言った客室乗務員は深々と一礼し、凛とした佇まいのまま機外へと出て行った。

「んじゃ新美さん。自分は持ってく荷物の最終確認をしてきますんで、準備が終わったら外のスロープの下で良いですかね?」
「うっす、了解っす」





ー10分後ー


ボムっボムっボムっ…

ボムっボムっ
「…っと、お待たせしました」

「全然大丈夫すよ。じじゃ~行きましょか」
「えぇ」



ザっ

ザっ、ザっ

ザっ、ザっ、ザっ

ザっ、ザっ、ザっ、ザっ

ザっ、ザっ…
「ふぁあああのビジネスのCAヤんバッ、AIかよ」

そう言って目を見開き旅客機を振り返る新美。

確かに早々お目にかかれるレベルじゃなかったが、毛程も相手にされてなかったぞお前。

ザっ、ザっ、ザっ、ザっ、ザっ、ザっ…
「そんな事よりもここは何処なんだろうな?」
「さぁ?洞窟っすね、ハハハ」

旅客機に背を向け歩く俺達は、薄暗い中前を向いたまま小声で話す。

「そう、洞窟だ。しかも見たこともない怪獣オマケ付きのな」
「でででも芝木さん、屋根だと思えば良くないっす?雨の心配がないんでね…へへ」

「雨?天気と能天気を掛けて揶揄ってんのかお前」
「い、いやいやこんな場所だから楽っすよ仕事。ね?」

そう言って無邪気に周囲を見渡す新美。

確かに防犯カメラが無いってのは気が楽だが…はぁ~

「向こうのフォロワーも混乱してるだろうな」
「でもほほ、報酬は変わらないからソイツらも喜びますよ。ラッキーラッキーてね」

ダメだ、話にならん。
このまま救助が来なければ、俺はこのままコイツとここで…イヤイヤやめろっ悪い癖だ。


「スゥゥーーーー~~っハァ~~~~~~」

「そうそう芝木さん、げ、元気出して」

「…あぁ」

案外スッと帰れるかも知れんからな、今は一旦やるべき事に集中しろ。

「そいやお前、この前の件でしたケガは本当に大丈夫なのか?」
「あ不法移民の連中アイツらにやられた傷すね?ホラ、楽勝楽勝」

そう言ってTシャツの裾を捲し上げた腹部には、まだ赤味の消えてなさそうな2cm程の縫い痕が見える。


「……お前もいい加減得物使えよ。そしたらそんな痛い目も見なくて済むだろ?」
「ダメダメそれじゃダメェ~っ」

っ…それなりに離れたから問題ないか。

そう言って子供の様に両腕をクロスさせる新美は

「この手で一つ一つ壊すのにいいっ意義があるんすよ~ブフっ。あ~有利な立ち位置でイキりまくってる奴らのあの、手足ブッ壊されて絶望してく時のツツツラっ……ンー~~っッッマジ傑作ぅっ」

その両手を握り締めながら心底愉しそうに嗤う。

「…なぁ新美」
「うすうす」
「お前から見てあのロン毛、どう思う?」
「ぅおああああれっ、ちょちょ超アツかったっすよっ‼︎ おお俺、芝木さんに掴まれなかったらとっ飛び出してたかも知んねっすもん」

声を落とすのを完全に忘れた新美にイラつくと同時に、本気で羽交い締めにした大変さを思い出す。

全然かもじゃなかっただろがお前…

「いやな、そう言う感想じゃなくてだ……お前がロン毛の立場だったらどうしたかって話しだよ」
「逃げ一択っすよっあああんなん」

「なら逃げられないとしら?お前だったらアイツと同じ事、出来るか?」
「そりゃやれって言われれば?でででもやりたくは無いっすね、ムボーす」

余程楽しかったらしい新美は、両手の指先を鍵盤を弾く様に忙しなく動かす。

コイツ(そこいらのアスリートなら問題無く凌駕する身体能力)でも無謀と言うのか…

それにつけて車椅子で速攻口を塞ぐあの機転と、刃物を全力で振り下ろせる躊躇の無さ。

「………… 」

どうにも厄介な流れだな。

「大丈夫すって芝木さん」
「何が?」
「ああ相手は人間なんで、先手取ってててっ手首か肘、折っちゃえば関係ないす」

「バカ、お前はすぐそれだ。タイミングはいつも通り俺が出すからな?絶対に先走るなよ」
「うーっす」

この単純さがコイツの強味なのは間違いないんだが、後始末で俺がどれだけ苦労してると思ってんだよ。







side八参

「八参君はきな?」
「いや、もう全部吐い… 」

声を掛けられた方を向くと、シロさんは黒にピンクっぽいオレンジとミントグリーンの入ったスニーカー(ソールとシューレース白)をこっちに差し出していた。

「履けって靴?いや、つかなんで旅行に靴持ってきてんの?」
「足幾つ?」

けどシロさんは俺の質問を流す。

「27~7.5cm?」
「その靴ちょっとペラ過ぎ。何か尖った物とか踏んだらマズイから貸してあげるよ。靴下のお返し?宗彌っ」

「あ、はいっ」

そう言って少しだけ笑ったシロさんは俺に靴を渡すとすぐ宗彌アイツを呼び、着ているカラフルな服を黒やグレーの物へと着替えていく。

「…じゃあ遠慮なく」
「うん」

そうして借りた靴はデザインされたソールにボリュームがあって、履いた瞬間に別物と分かるフィット感とクッション。

ザッザ…
「何でしょうかっ」

「…そう言う感じはいいからさ、はいこれ持っておいて」
「あ、はい」

「なぁさぁ、これっていいヤツだろ?高ぇんじゃねーの?」
「うわ、そのスニーカーって………八参さん、それメっチャクチャ高いやつです」

シロさんから渡された護身用ペンを持った宗彌が目を丸くする。

だよなぁ。

「ここで足を痛めたら即お荷物。そんな状況じゃない」

こっちを向きもせずに言うシロさん。

抑揚の無いその言葉は厳しくも聞こえるけど、これが気遣いだってことくらいは解る。

「そ、そうだよな」

俺のやったことに関係なく、同情でも援助でもない普通の優しさに少し戸惑った。

あれ?タトゥー?

「ってか意外っ⁉︎ シロさんって入れてんだな。ちょっと見せてくれよ」

そう言うと虚を突かれたみたいに目を丸くしたシロさんは、ワンテンポ遅れて自分の身体に視線を動かした。

え?俺変なこと言ったか?
アザ?なワケねーよなぁあの色的に。

「シロ君背中」

「ぇ…ぁぁ、背中…か、っッ… 」

リュウコウさんに言われたシロさんは動揺を隠す様に呟いた後、急に苦しそうに胸を押さえた。

「シロさ…ぅわあっ⁉︎ 」

すると宗彌が突然声を上げ尻餅をつき

ビクッ⁉︎ ゾクゾクッ√

その驚きと共に背中に寒気が走った。

何だ?風邪でも引いちまったか?
いやそれよか

「シロさんどしたん?大丈夫なんかよ」

「…あぁいや、何でもないよ大丈夫」

シロさんは静かに息を吐き、胸に当てた手をゆっくりと下ろした。

「んなら良いけどさ、風邪引く前に服着ろよ。俺も今寒気が走ったし」
「あぁそうするよ」

「つか宗彌オマエいきなり脅かすんじゃねぇよ…何かいたのかよ」
「いやすみませんっ、何も…無い、です」

そう言いながらも立ち上がった宗彌の様子はどうにもおかしい。
何も無い空中に今も視線を動かしている。

ダチが死んだ精神的なモンか?
それとも…

「…お前も何かあんのか?病気とか」

「え?…いえ、大丈夫です元気ですっ」

ホントに大丈夫かよコイツ。

ン?

そして何となく向きを変えた俺の目に映ったのは、旅客機の方からこっちへと向かって来る真黎さんだった。





ー10分後ー



「自分は芝木と言います。歳は31です」

そう言ってニカッと笑う男は角刈り風の短髪に樽型の体型。

とりあえず176cmに90kgくらいは有りそうなゴツい身体だけど…31?どう見ても40過ぎに見えっぞオイ。

「俺は新美っす~」ダタタッ

そう言って続くキノコ髪型カットの男が突然シロさんに駆け寄る。

~ズザッ

「っとぉこりゃサーセン。昨日の戦いが余りに凄かったんで、どんな身体かまま間近で見たくって~へへへ」

しかし一瞬で間合いを取ったシロさんに新美は足を止め、そして謝りつつ戯けた様に頭をかくが、リュウコウさんと芝木は目を見開いて固まっていた。

まぁだよな。

「レレレベルは上がったっすか?あ、おお俺は27っす」

けど当の新美は何も気にしていない風。

その流れだとお前はレベル27なんかよボケ。
パッパラーパーだなコイツ。
ドモりも酷ぇし仕草から妙だし。

けど体型は俺と同じくらい(約180cmの72~3kg)だからまぁ、さっき真黎さんと一緒に戻った不調?の宗彌よりかは使えそうか。

「レベル?フ…倒し切れてはないですが、それなりに経験値は入りましたよ」
「おぉおっ」
「けどお2人も良い身体をしてますね。何かやられています?」

そして気を取り直したシロさんがノリを合わせてそう言うと

「俺は少しっすけどじ、柔術かじってます」
「いやいや自分なんて全然大したことは……けど一応ジムには行っとります」

自信ありげな新美と、謙遜しつつも拳を握り締める芝木。

「それは頼もしいですね。けどあんな猛獣がまだ居るかも知れませんので……武器は?何か持って来ました?」

おぉ確かにそのクソってぇ前腕は頼もしいけどよ、それよしか袖先からインナーみてぇに溢れ出てる腕毛のがパねぇぞお前は。
防御力+2ってとこか。

「自分は電気工事士なんで使えそうな工具を」
ガチャ

そう言って芝木は腰に下げた工具類を右手で軽く叩いた。

「おお俺は、何も無かったんでその辺の石でも使いまーす」

それに対し新美は余裕の表情で両手を広げる。

「分かりました。ただこの先は何があるかは分からないので止めるなら今の内ですよ?言葉通り一寸先は闇なので」

そう言って背後の洞穴に親指を差すシロさんの最終確認に、芝木は何も言わずに頷きを返し、新美はヘラヘラとした不敵な笑みを浮かべた。







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