ミギイロハナレ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-9 囚人監視の中で…

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sideリュウコウ



→ーーー→ーーー→ーーー
旅客機不時着より6時間
→ーーー→ーーー→ー




「ほらっと」バジャ
「っしヨロシクっ」バシャ

突如襲来した巨大モンスターによって中断した搬出作業は再開。


そして無事荷物受け取った僕達は、一旦人集りから離れた所へ移動する。


ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「うはぁ~~、ベッドで横になりたぁ~~ぃ」

ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「ハハ本当にね。いくら基本自由とは言え、見知らぬ人との缶詰は疲れるよね。でもとりあえずは荷物が戻って来て良かったよ」

ゴロゴロゴロゴロゴロ…
「…っ、………えぇ、これは兄貴に貰った大事なキャリーケースですしね」

良かった。

ハッとしたように思い出したシロ君を見て、本当に記憶が戻って来ていると安心する。

そうして僕達はキャリーケースを開き、各々必要な物資の確認作業に入った。


まずは食料品からだな。

機内で配布されたレーション。
ビーフジャーキー2袋。
チーズタラ1袋。
スモークチーズ1袋。
それに栄養ドリンクが6本…か。
あとはキューバ産の葉巻が1ケース。

確かめるまでもない空港で買ったこの品々は、ダメな酒呑みの典型的嗜好品ばかり。

はぁ…、代々辛党の家系とは言えもう少し飴とか甘い物も買うべきだったよなぁ。

なんて自嘲をしていると、ビリビリと包装紙を破く音がして振り返る。
するとチラと見るシロ君の横顔にも浮かぶ同じ様な自嘲の笑み。

流石に想像付かないよな、こんな遭難なんて…

「シロ君、とりあえず祝勝会でもしない?」

「…そう、ですね」

ゴメンサーマンさん。
土産用に買った日本酒だけど開けさせてもらいます。



「「お疲れ」様で~す」

紙コップで乾杯なんてまるで花見だな…なんて感想を抱きつつ、横並びのキャリーケースに腰掛けた僕達は酒を呷る。

「~~っぅ~美味いっ。でもこれが海外のリゾートなら本当に最高なんだけどね~」
「いやいやリュウコウ君何を言ってるんですか。誰が何と言おうとここはのリゾートっすよ。しかも人跡未踏の」

デオペーパーで身体を拭きつつシロ君が言う。

「フフ、流石シロ君だね。確かに無事に帰れたのならこの日この時の味は一生忘れられないだろうね」

そんな2人だけのいつも通りに笑いつつ周囲を眺めていると、他の人達も其処彼処で同じように座り動かない旅客機(機体の移動については機長が危険と判断した) と地底湖を囲んでいった。

あの逃げて来た学生の友人3名を加えここまでの死亡者は8名。
それに混乱の中での重軽傷者は12名で、しかも未だに帰還の糸口すら見えずと言う嘆くには十分な状況。

だから皆んな束の間でも浸りたいのだろう。
不安のない、あの日常へと帰った錯覚に。


「けど旅客機来ますかね~」

「流石に来てもらわないと困るね。けどシロ君は来ないと思ってるの?その言い方だと」
「来なかった場合のみ想定してますね」
「正直その状況は考えたくないな。けどそうだね、どの段階で線を引く?」

この八方塞がりな状況でも淡々と現実と向き合う強さは流石であり、それに楽観的に励ますような気遣いが無いのも有難い。

「気持ち的には3日くらい救助を期待して待ちたい所ですけど、4日目5日目とただ絶望していくのは嫌なので、数時間後には周辺調査に動こうと思ってます。最低限飲用可能な水に出来れば食せそうな何かも確保したいですね。苔と雑草は生えてるんで何か有ると良いんですが」
「そうだねぇ、ふぅー~っ……本格的なサバイバルに突入か……でも苔って食用のもあるよね?」
「あるみたいですがこんな場所です。毒とかアレルギーが心配なのでその辺は最終手段ですね」
「まぁそうか」

そんな風に今後のことを話していると


ザっザっザっ

ザっザっ
「お~居た居た、俺もお邪魔させてよ~」

そう言って近付いて来たのは八参君。


「…勿論大丈夫だよ」

シロ君の表情をサッと確認してから答える。

「あざすリュウコウさん」
「コップは?」
「しまった、取って来るわっ」
「あ~~っ八参君っ」
「ん?」

身体を翻した八参君は首だけをシロ君へ。

「ついでにあの長谷ってCAさん呼んでくれない?」

「…シロさんってそっちも抜け目無いんだな。確かにありゃ見たことないくらいイイ女だったわ。オッケー任されたっ」

そう言って嬉しそうに去った八参君の背中を見ながら確かに誤解されるか…と思った時、シロはいつもにも増して仏頂面。

「プっ、完全に誤解されたねあ」

「はは…、でもまぁ仕方が無いですね。正直あそこまで整ったバランスと、きめ細やかなパーツの作りは見た事無いです。話してて引き込まれそうでしたもん」
「確かにね。僕も事務所に入ってた時売れてきたモデルの子や有名な海外モデルを見てきたけど、その辺りと比べても遜色無いどころかかなり上位に入るだろうね。あの雰囲気は素人じゃない」

だから趣味じゃないけど。
と僕は心の中で呟きつつ、シロ君のコップへと酒瓶を傾ける。





ー10分後ー


「やっと出て来たね」
「兄貴、まさかですけどこれはアレですかね?」
「飲みに誘ったみたく取られた挙句、八参君がゴネて連れて来た的な?」
「はい… 」

これだから異性相手ってのは面倒いな…とシロ君に同意しつつ、風情のない紙コップの中身を空にする。




ザ、ザ、ザ…
「いや~、女ってのは時間が掛かるっすわ~」

そう言ってニヤニヤする八参君と、その後ろを歩いて来るCAさんは何故か2人。

「お待たせしました」
「お邪魔します」

そう言ったシロ君が呼んだ例のCAはいつもと同じ態度だけど、もう1人のCAは随分と砕けた表情と雰囲気。

「んじゃ、とりあえず乾杯しよーぜ」

仕事を完遂したと言わんばかりの八参君が得意気に言い放ち、何も言えない僕とシロ君は黙って女性らに席を譲った。



「真黎さんの事は既にご存知の様なので……私は松宮宇実果と言います。よろしくお願いします」

そう言って慣れた様子で自己紹介したCAは、搭乗時と変わらないメイク+香水のような仄かな香りを漂わせていた。

「僕は石嶺琉洸。…名前だけで良いかな?」
「伊佐木白」
「絹針八参でーす。んじゃ~」

「「「「「カンパーイ」」」」」

何故こんな流れに…と思いつつも、この閉塞した状況での息抜きに水は差さない。
特に彼女達CAのプレッシャーは半端ないだろうし。

「ぁ、これ美味しい」

意外にもそう言ったのは堅物そうなCAの真黎さん。

「分かる?これは新潟のちょっとした名酒なんだ」
「へぇ~… 」

そう言って興味を醸した真黎さんは、チビチビと味わうように口を付ける。

うん、良いね。
仲良くなれそうだ。

酒好きかもと言う同類への親近感を感じていると

「このジャーキーバッカ美ン味ぇ~~っ」

豪快に干し肉を齧る八参君が唸る。

「美味しいよね、それ」
「有名なやつなんす?」
「そうだね、かなり」
「ふ~~ん、けど食わせてもらっといてなんだけどさ、良いん?この状況でこんな風に振舞っちゃって。それともお2人さんには直ぐに帰れる根拠でもあんの?」

そう言って僕の心情を読み取ろうとする八参君。

ふふ、粗野にみえて意外と考えているんだな。
と、粗野は少し失礼か。


「帰れないよ、直ぐには。おそらくね」


特に強くも重くもない、当たり前過ぎる言い様のそれは、僕以外の3人の動きを一瞬で止めた。



「あ「つか」

そして二呼吸置いて発した松宮さんと八参君の声が被り、顔を見合わせた2人は押し黙る。

「生き残る為に一番大事なのは生存者同士が足を引っ張り合わないこと」

「…つまり俺達はあんたらに協力者として認められたってこと?」
「そんな上から言うつもりは更々無いよ。ただオレが人を見る時の価値基準は、その人が何をしたのか、何をしてきたのかって言う行動だけ。その上である程度同じ方を向けるかって話し」
「確かにここに居るのはあのクソバケモンに立ち向かった同士か……ってあれ?もしか俺、余計なことしたん?」

そう言ってハッと気付いたような八参君が松宮さんを見ると、彼女も "えっ⁉︎ そうなの?"的な表情で口を開けた。

「いや、丁度良かったよ、松宮さんも来てくれて」

しかし間髪入れないシロ君に2人は安堵。

「こんな状況になると一番怖いのは突然自棄ヤケを起こす奴。だからそこは申し訳ないんだけど、大部分がCAの皆さんに掛かって来ると思うから」
「だね。だからこれはあの怪物を撃退出来たお疲れ様と、今後についてを語らいつつ英気を養う会って所かな?」

「…なら私だけ来ちゃって申し訳ないかも」
「いや、アンタジャンケンに勝った瞬間拳振り上げてたろ?」
「…~ッ‼︎ 」
「ゥオっ⁉︎ 」

同僚への気遣いを見せた松宮さんだったけど、その愁いは一瞬で怨嗟の表情へと変じられた。

「では直ぐに帰れないとして、お二人はどうされるのですか?」

そんな2人を置き去る真黎さん。

「直ぐに帰れないってのは正確に言えば救助が来ないって意味ね。だからオレ達は生き残る算段を立てながら、自力での帰還に向けた努力をしていくつもり」
「つか救助が来ないってなんでだよ。来たんだから出れんだろ?パラシュートとかってねぇの?入って来た場所から出て行けば良いだろ普通に」

食い気味に尋ねる八参君。

「旅客機にはパラシュートは積まれていないの。降下装備は未経験の素人が扱える物じゃないしそれ… 」
「んじゃー前以てレクチャーしやいーじゃねぇか」
「それでも使える可能性の極めて低い重量物は載せないの。その分積載スペースが減るし、燃料費…運賃も高くなってしまうから」
「ハっ、もしもの備えより利便性と金かよ…ってそんな事俺以外は知ってるわけね」

そう言って呆れ混じりに干し肉を噛み千切る八参君に、それ以上不満を煽らない様にと説明をやめた真黎さんが俯く。


「あのねぇ…使う可能性じゃなくって使可能性って言うの聞いてた?」

すると冗談混じりのさっきまでとは打って変わり、真剣な声音の宇実果さんが八参君を睨みつけた。








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