ミギイロハナレ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-7 Obey Me〔P3〕

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side真黎

「あれま、消えちまったわっ」ポイッ

なのにその原因を作った坊主頭の男性は、軽い口調で消えた信号炎管を投げ捨てると

ザダタッ
「で?俺はどうすりゃ良い?」

何事も無かったかの様に長髪の男性の横に。

~~「おたく、そのままれるか?」ズザッ
「加勢に来て何だけど手札は無ぇんだ。期待に添えなくて悪いな」
「なら、オレと替われるか?」

『ブホォッ、ブロォォー~っ』

「…アンタこれ、ヘタすりゃ肘から先が失くなんだろ?」

ギロチンの刃のように剥き出しになった巨大な牙を前にして、坊主頭の男性は呆れるように言う。
だけどその人の横顔は笑っている様にも見えた。

「無理ならっイイっ」
「良いよ任せろよ」
~~「ッ…なら先ず靴下を脱げっ」ザザ

滑るから?

「あ?靴下ってこの靴下か?」
~~「そうだっ、お前のとあともう1組要るっ」
「なんか分からんけどっ、誰か靴下持って来ォーーーいッ」

坊主頭の男性は自らの靴下を脱ぎ取りつつ叫ぶ。

ーーダタタタッ
「今行くぞぉぉッ」
ーダタタタッ
「…っ」

すると呼応した男性2人が開いたキャリーケースを下げて走って行く。

「おいやれそうだぞっ」「俺らも行こうっ」
「おうッ」「おっしゃっ」

更に増える加勢を頼もしく見つつ、私は立ち上がれない女の子の腕を取る。

「ケガは無い?立てる?」

「ぁ、あの、ゴメンなさい、ありがとうございます」

すると頰を土で汚した女の子が申し訳なさそうにするから、私は当たり前だと首を横に振って返した。

「真黎さんっ」「大丈夫ですかっ」

その時比奈と咲が側に走って来た。

「靴、拾って来ました履いて下さい」
「ありがとう比奈、でもまだ大丈夫。それよりもこの子を向こうへ連れて行ってあげて」
「「ハイっ」」

私は2人の目を見てしっかりと頼みそしてすぐに振り返ると、怪物の周囲を何人もの人達が囲み込み、更にあの長髪の男性に至っては頭の上に取りついていた。


「ンァッ、ヅアァッ、ンァァラアァァーー~ッ」

そして渾身の気合いと共に二度三度とナイフを振り下ろし、最後は両手で目一杯引き切った。

『『ブビョョォオっっ⁉︎ 』』

怪物はそれを明らかに嫌がって暴れ

~~「「「うぉおぉおっ⁉︎⁉︎ 」」」ズザザァ

その勢いで丸太の様な尻尾が薙ぐように振り払われ

ーー『『ドバンッ‼︎ 』』

「おぐゥッ⁉︎ 」ーードッ、ズザザァ…
「ぐがァっ」ーードタァっゴロゴロ…

ー~っ…

蹴り飛ばされた空き缶の様に地面を転がった男性2人。

「アホがぁッ、こんなぶっとい尻尾ヤバいに決まってんだろォボンクラァっ」~~ズザっ

坊主頭の男性が怒鳴り上げると、周囲の男性達はワラワラと距離を取る。

だけど怪物の上には最初の2人がまだしがみ付いてて

「ハァハァッ、ヅォォアァッ」
『ホブッ⁉︎ 』

「っンゥ~~ゥォラァァアァーーーーッ」

『『ブビョョォオァァーー~』』

長髪の男性が叫び声を上げ右手を上げると同時

『『ビドンォン‼︎ 』』

怪物は尻尾を地面に叩きつけ、打ち上げられた魚の如く身体を跳ね上げた。

「「「「「うぉぉおあぁあっ‼︎‼︎ 」」」」」

それにより口を押さえていた3人はキャリーケースごと弾かれる様に押し下げられ、背中の2人も空中に投げ出されてしまった。

~~ゴロゴロ~ゴロザッ

だけどその2人は2人ともが受身を取って素早く立ち上がり、直ぐさま怪物の方を睨む。


ーーズザザザァァッ

しかし怪物は既に背を向けていて、薄暗い洞穴の奥へと一目散に走り去って行った。




「お、おいっ…やったのか?」 

「ウソ?本当に逃げたの?」「スゲェスゲェスゲェっ倒しやがったっ」

「おいおい……あいつら化け物に勝っちまったぞ」「スゲェっはは、ハンターかよっ」
「たっ助かったぞーーーーーっ」「やったぞーーーーーーーっ」
「ヤっベェよアイツらっ」「凄い凄いっ」「やったっ、やったぞぉぉーーーーーーーー」

次々と上がる歓声は周囲だけじゃなく機材の中からも湧いて響いた。

ダタタターーダタタターーザタダタタタッ

続いて遠目に見ていた人々が一斉に彼等に走り寄って来た。

ザッザッザッ
「ハァハァちょっと、全員アレ笛吹いて黙らせて。騒ぐとまた変なのが来るかもなんで」

そこでいち早く私の方に駆け寄って来た長髪の男性は、砂と汗と…多分あの怪物の血でドロドロ。

『『ピピィーーーーーーーーーーーッ‼︎ 』』

突然の笛の音に皆んなが一斉に注目し足を止めた。

「皆様お静かにッ、まだ危機は去っておりませんッ、今の内に速やかに機内へ避難をッ。皆んなッ、お客様方の整理誘導をっ」

「「ハイっ」」
「ハイっ」「ハイっ」

そしてテキパキと指示を出す後輩達に従って、興奮していた人達もゾロゾロと機内へと向きを変えた。


「ハァハァハァっ…シロ君お疲れ、流石にしんどかったね」

駆け寄って来たのは最初に怪物に乗った長身(180後半?)の男性。

「…腕、大丈夫?」

同じように汚れている彼の言葉に視線を動かすと、シロさんと言う男性の両腕はプルプルプルプルと震えていた。

「ハァハァハァっハハっ…食われて堪るかって必死だったんで限界超えちゃいましたね。でも今は握力が死んでますけど爪も捲れてないんで問題無いです」

そう言って2人は互いを労う様に笑い合う。

「けど最後は何したの?」
「リュウコウ君の言う通りちょっと硬かったんで……ナイフで出来た隙間に無理矢理手ぇ捩じ込んで、中の肉を皮ごと引き千切りました……っと、流石にこれは返せんっすね?」

そう言ってシロさんは紫色に染まった靴下を腕から外すし続ける。

「あ~~っでもクソっ、出来ればキッチリ仕留めたかったな~」
「でもあの質量の生物に逃げに徹されたら止めようが無いよね」
「ですよね~、けどもしかあれが食えるんならこの人数でも数日分の食糧になったのになぁ……はぁ~ぁ狩猟は甘くない」

あれを、食べる、か…
ま、まぁ以前食べた鰐の唐揚げは少し弾力のある白身魚っぽかったから意外と大丈夫なのかな?
でもここじゃそんな調理は出来ないし、適当に焼くだけじゃ衛生面も…

「~~…フっ、流石だね」

一瞬言葉を失っていた男性は感嘆と喜色を混じらせながら呟いた。

うん。
だからこそこの人はあんな風に当たり前に戦って、そして最後まで対等以上に渡り合えたんだ。
あれを前にした私は何とか逃げ延びるって被捕食者の発想しか無かったのに。

「ちょっと毒とかあったら怖いので一応洗って来ません?プランクトン混じりでもこれよかはマシですよね?」
「あぁそうだね」
「あ、あのっ、その後来て下さいっ。消毒の用意をしておきますので」

ズザ…
「…それも有り難いんですけど水かお茶、用意しておいてもらえます?出来るだけ冷たいの。あとこれ」

クルクルと宙を舞うナイフ。

~~パシっ
「あ、はいっ」

それをしっかり受け取ると、頷いた彼等は浜辺に向かって歩いて行った。



「………… 」

ッ⁉︎

思わず顔を覆う手。

御礼言うのを忘れてたっ
信じられないっ

はぁーー~、後でしっかりと伝えよう…っと冷たいお水用意しとかなきゃ。

「緋芦花ーーーーっ緋芦花ぁッ」
「お母さぁんっ」

激動の直後とは言え余りのミスに眩暈がしかけたけど、互いの無事を確かめ合う母娘を見たらスッと心が落ち着いた。


でも。


1、2、3…

4…

5。

薄暗く冷たい地面には動くことのない五つの影が。


どうして、こんな事に。

気を抜くとそんな思いに絡め取られ、この悪夢みたいな現実を前に立ち尽くしてしまいそう。
でもそれじゃ何も進まない。
だから私はもう一度顔を上げ


「……………………… 」

力及ばず大変申し訳ございませんでした。
避難が済み次第お迎えにあがります。
どうかもう暫くの間お待ち下さい。

そうお亡くなりになられた方々に短く黙祷を捧げ、今私がすべき事に向けて足と頭を動かしていく。


もうこれ以上は、決して…






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