RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 二章 ▽ 明日は今日を嗤い昨日は今日を憫んだ

2-8 人の行く裏に未知あり孕む罠〔P4〕

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sideマルソラ

・・・関まで10kmの地点。


ザッザッ
「総隊長っ」

衛都レィレンから関へと緩やかに下る街道の途中、柵の外の斜面の下を見に行かせた部下達が戻って来た。

ザッザッザッ…
「下にはおそらくこの馬車の護衛と思われる装備の者が5名、同じ様な状態で果てておりました。しかし周辺に獣の影や痕跡は見当たりません」

「5人…か」

これで御者に商人と護衛らしき者を合わせ計10人死亡。
馬車二台が中破。

だが犠牲者達がこれだけ派手に殺されていると言うのに、それを為したと思しきものは見当たらず。

「……ニルスタン」
「マルソラさん、これは獣の仕業じゃないですよ」

遺体の側で屈むニルスタンは、顎に手をやり抉られた腹部を凝視している。

「やはりそう思うか」
「派手に飛び散らかった内臓それ、食われてたらこんなに残って無いですから」

地面だけでなく馬車にまで掛かる大量の血肉。

「…だな」

偽装か、はたまた怨恨か…

しかし人の手によるものだとして其奴らは何処へ逃げたのだ?
斜面の下は森が深くなる。
となると…

私は夜の影を纏いし蓮冥山を見上げる。

だが蓮冥山も上へと向かえば岩山だが結局は森に囲まれた山脈群。

「ここ数日で衛都レィレンリプ間で変わった情報は?」
「有りませんね」

立ち上がったニルスタンは一瞬考えるも直ぐと答えた。

ではこれと関の援軍要請は無関係なのか?
このタイミングで?

そもそも何故獣共ヤツらは街道から関へと登って来た?
蓮冥山は中腹以降から森が無くなるため獣の生態には適さない。
一週間前のハーネイムと言いおかしな事が続いている。

『ババァン‼︎ ババァン‼︎ 』

来たか。

ザ…
「これより準戦から戦闘態勢に移行する。第1隊前衛は合図と共に距離120・90・60で三射行い、その後前進し近接戦にて敵を迎え討つ。側面と後衛の部隊は左右斜面の警戒も忘れるな。その後第6前衛は第1前衛の弓を速やかに回収。第1前衛が接敵した時点から右斜面へと登坂し、上方からの援護射を開始せよ。以上ッ」

「「「「「「「「「「ハァッ‼︎ 」」」」」」」」」」


ザザザッザザザッザザザッザザ…

ザザッザザザッザザザッザザザッ

30m幅の街道で動いていた二個大隊約1000人が、装備と陣形を整えるのに要する時間は十数秒。



ーードザッドザッドザッ

ー『ドザッドザ…』

「無数の獣の群れ500mまで接近ッ、牙毛種と思われますが詳細は不明ッ」

先行班の中継係が馬上より声を張る。

「お前はそのまま後方の本隊に現状を伝えろ」
「ハッ‼︎ 」
ドザッドザッドザッドザッ…

部下は開いた中央を駆け抜けて行く。


「第1隊矢を」

ザッザザザッザ…

300人が同時に矢を手にする。


ドド…ドド…

そして数百メートル先から全力で戻って来る先行班の背後には…

ードドドッドドドッドザッ

街道を埋める黒い獣の波が押し寄せている。


「構えェェ… 」

ギリギリギリギリッギリギリギリギリッ

ーーードドザッドドザッドドドッドドザッ


「掃射ァァァッ‼︎ 」

『ビヒュンヒュヒュヒュンヒュヒュヒュ
ヒュンヒュンヒュン』
『ビヒュヒュヒュンッヒュヒュヒュンヒュンヒュヒュヒュンッ』
『ビヒュヒュンヒュヒュヒュンッヒュンヒュヒュヒュヒュンヒュン』


夜空を羽搏く鳥の群れが如き三百本の矢は弧を描き…

スドッスドスドスドッスドスドスドスドスドスドスドスドッスドスドスドスドスドッスドッスドスドッスドスドスドスドスドスドスドッ

先行班を追従する黒い波を正確に打ち付ける。

『ギャ⁉︎ ッ』『グゥっ⁉︎ 』『ギャンッ⁉︎』『ギャイっ』『ギャィ』
ドザゴロゴロっドザドザッ ドザゴロっ
ドザドザ

叫び声と共に転倒する獣共。

あれはボリージャか?
フン…

(※ボリージャ。体長は1.7~2mほどで平原にも広く生息し、群れでの狩りを主とする斑ら毛の牙毛種。平均的な衛士レィヴとの戦力比は1.5対1。危険度2)


ザザッザッザザッザザッザザッザザッザザッ
『ゴァァッ』『ガッフッ』『ガァァ』『ガァァァ』『ゴガッ』

だがそれでもヤツらは怯まない。
狂った闘争本能は倒れた同族を踏み越えさせ、脇目も振らず一直線にこちらへ向かって来る。

『ビヒュンヒュヒュヒュンヒュヒュヒュ
ヒュンヒュンヒュン』
『ヒュヒュヒュンッヒュヒュヒュンヒュンヒュヒュヒュンッ』
『ビヒュヒュンヒュヒュヒュンッヒュンヒュヒュヒュヒュンヒュン』

『ゴギャッ⁉︎ 』『キャィイっ』『ギャン⁉︎ 』


『ビヒュンヒュヒュヒュンヒュヒュヒュ
ヒュンヒュンヒュン』
『ヒュヒュヒュンッヒュヒュヒュンヒュンヒュヒュヒュンッ』
『ビヒュヒュンヒュヒュヒュンッヒュンヒュヒュヒュヒュンヒュン』

しかしそれがもう二度繰り返される。




ーードザッドドドッドザドザッ


ー『ドドッドザドザッドザドドッ』


先行班8名が無事に帰還。


「隊列を保ったまま速度2で前進。これより殲滅を開始する」バッ

「「「「「「「「「「「ウォォォォオォォ‼︎‼︎ 」」」」」」」」」」」」

私の掲げる双頭槍の鈍い輝きと共に、衛士レィヴの雄叫びが辺りを揺さぶる。


ガンッ 「フンッ」ービシュッ
「食らえェェ」
ドゴっ 『ギガァァ』ドガン『ガァァァ』

ぶつかり合う金属音と肉の衝突音。

ガチャンっ
「ハァァッ」ーブシュッ『キャギィ⁉︎ 』
「オラァァ」『ドフゥ』
『ギィッ⁉︎ 』ガシュッ

交差する荒々しい怒号と悲鳴は人獣入り混じる。

『ギャ… 』「ガァァァっ』「ぐわぁァ… 」
バシュ『ギャピィぃ… 』

蹴り上げられる砂埃と流れ落ちる血と汗は、美しく整備された街道を惨憺たる戦場に染め上げる。

ザ、ザ、ザ…

飢えた獣はいい。

ザ、ザ、ザ
ーシュッーパンッ
『ギゥっ』ゴロゴロゴロ…

ただただ本能のままに襲い来る。

ザ、ザ
ーシュッーズバッ
『キャブ⁉︎ 」バタ…

例えそこに致命の一撃が有ったとしても。

ザ、ザ
ーシュッースパッ
『ギャイっ』…ボテ。

私は獣の前足、喉、上顎、を斬り裂き捌いて行く。

ザ、ザ、ザ、ザ…
「…………… 」

しかしこの異常な数がここへ来ているとなると関の連中は…

赤を滴らせる穂先の向こう関へと続く街道には、未だ途切れない黒い群れが続々と続く。






20分後。

・・・会敵したポイントより1km前進。


「フゥッ」
ーシュンッースパンッ
『ギャギ⁉︎ 』

鼻先を薙ぎ体を反転…

ズザッ
「ハァッ」
ーフォッーズゴッ
『グギュ… 』

横から飛び込んで来たボリージャの目から脳までを対の槍先で貫く。

シュン
「ウラァっ」『ゴァァァ』『ガァァァ』「ぐっ、クソぉ」

左方に居る部下がボリージャに腕を噛み引かれる。

ダザザッ
「フッ」
ーシュッードチュッ‼︎
『ゴァ⁉︎ ぁ… 』バタ…

その耳の穴に伸ばした槍を捩じ込む。

ザザッ
『ゴァァァッ』『ガァッ』

部下に飛び掛かろうとしていたボリージャ二体は瞬時に距離を取った。

「グ…うぅ…すみません総隊長」

手首か…

「ヨクヤ、下がれ」

「…っ、分かりました」

これで前衛の損耗は14。
遮蔽物も無く躱すスペースも限られるこの場所では仕方がないか。

だがここまでで300を超えるボリージャを殺しているだろうにまだ来るとは…


「全隊前進速度を3に上げるッ‼︎ 」

「「「「「「「「「「ハッ‼︎‼︎ 」」」」」」」」」」


バァン…バァン…ン…

ッ⁉︎
これは本隊っ

突然後方より接敵を報せる音が響く。

「ニルスタンッ」

ブシュ『ギャ… 』ガッ
「はいはい俺らはこのまま前進ですね?」

剣で刺し貫いたボリージャを蹴り退かすニルスタン。

「第1の後衛と第6の後衛チャークスと部下を100連れて行く」
「了解です」


関への援軍をニルスタン任せた私は直ぐさま後方へと退がり、後衛の部下達らを伴って下りて来た道を急ぎ戻った。




マルソラ(41) 194cm
*役職
衛都レィレン第1衛騎士隊長(=全フラエ領の衛士レィヴ総隊長)。
*容貌
色白で面長の輪郭に猛禽類の様な鋭い目と薄い唇から、初対面では冷酷そうな印象を持たれる。
*性格
基本的に温厚で礼儀正しい。
無駄と非効率を嫌う。







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