上 下
42 / 95
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-40 Buy Time〜 焦燥尚早次策自演〔P2〕

しおりを挟む
sideミレイン

『ザザザっドダっドザザザズザッザザっドド…
ザザっザザっドザっ』

更に30人程の第9隊の衛士レィヴが増援に来た。

陽動は順調だけど…

「悪い、遅くなった」
「いや問題ねぇよ。で?ホラお前らどうすんだよ。身代わらねぇんならミレイン殺っちまうぜ?もうすぐ来るお母ーたまの目の前で」
「待てよ」

高圧的なモサイの喋りを遮る力強い声。

「モサイ。その身代わりの話し、本気なんだよな?」

ポリポリポリ…
「………なぁんだよ第4の暴れん坊、急にしゃしゃってんじゃねーよ。女を守るキャラじゃねーだろぉがお前は」
「男とか女とか関係ねぇ。単純に俺より強くて賢いこの人は、これからのイグアレムスにとって必要な人ってだけだ。だからサッサと答えろ」

「はぁーーーー…マジで冷めるぜ~~。俺はお前みてぇなのも嫌いだわ」
「ハッ、嬉しいこと言うな。俺もだよ」

そう言って笑うマハトだけど目は真剣。

「無駄死にだな。…まぁ良いぜ、好きにしろや」
「分かった。だがモサイ、約束は必ず守れよ。必ず…な 」

「チっ… 」

そう言って睨みつけられたモサイが嫌そうに目を逸らすと、マハトは地面に落ちている短剣の方へと歩いた。

「マハト… 」「……、…… 」
「お前…  」

狼狽える3人。

「よっと、オラァァァアッツ」

ちょ…

「待ってマハトォッ‼︎ 」
「ッ⁉︎ …ぉ… 」

「アンタバカッ、何イキナリやろうとしてんのよっっ」
「え?いや、もう約束は取付けましたし… 」

ザっザっザっ…
「もうちょっとあるでしょ?なんか遺言的な最期の台詞とかっ」

「…遺言?」

駆け寄る私にマハトの視線はくうを泳ぐ。

はぁ…
なんかよく分からない流れになったけど時間は稼げたしまぁ良いわ。

「……ってマハト貴方っ」

「あぁコレね……ハハ、先っぽ刺さったみたいっす」

そう言って笑うマハトの腹部は血が滲んでいた。

「おいマハト動くなっ」
「ッ…大袈裟だってアロン。俺の腹筋なら直に血も止まるからよ」

アロンは取り出した包帯をマハトに巻く。

「おいおいおいおい何だよそりゃ?テメェらだけは命尊しお涙頂戴かぁ?ザッケンナァァっ‼︎ 」

クソバカブサイクキモサイは唾を飛びちらせる程に激昂。

「「「「「「「「……… 」」」」」」」」

「こっちはもう何人も殺られてんだから帳尻が合わねぇだろがあっアァン?あぁ~~イライラすんぜぇ~…ってことでミレイン、お前はやっぱ死刑な?まぁ抵抗したきゃ勝手にしろ。どっちみちお前の家族もすぐ逝くからよ」

気色悪っ
最悪の場合でもお前だけは殺してやるわ。


「アロン… 」
「あぁ、分かった」

睨み返す私の横で、頷き合うマハトとアロン。

「ミレインさんを殺すって言うのなら、俺とマハトはそれを阻止する」
「アロンっ」

「ほぉ~~~ん…んで?俺が人質を殺せば良いわけだ」
「そうだ、好きにしろ」
「ちょっとアロ『ガシッ‼︎ 』

アロンを止めようとした私はマハトに掴まれる。

「ミレインさん。今回の事、貴女が1人で背負うことはねぇんすよ」
「マハト… 」

「反乱を起こされたってのに俺らは何も出来なかったんだ。だからやりますよ、今。どうせ死ぬつもりだったんだ」

「そーかいそーかい分かったぜ。じゃ逆らったお前らの責任は第4第6の隊長副隊長に取ってもらうとするわ。あと他は?上の席を空けたい奴は遠慮なく出て来いよ」

モサイはそう言って他の衛士レィヴらに手招いた。


「「「「「「「「……っ」」」」」」」」

「ほら早くしろよ。早くしないと締め切っちまうぜ?」

モサイは太々しく睨みを利かす。

((マハトアロン、実は今私の仲間が皆んなを解放たすけに行ってるの))
「えっ、マジ((シィ ))『ドフッ‼︎ 』うゴォ…ぉ、痛ぇ… 」

あ…
思わず癖で腹を殴っちゃった。

突然声を上げたマハトが呻くのを見て、すぐ前のアロンは驚きを押さえ込んだ。

「はーーーい、じゃ終了なぁ~~~」

((だからもう少し…時間を稼ぎたいの))
((……んじゃ素手こっちで抵抗し続けますか))
((ちょっと待てマハト。知っての通り俺はお前ほど腕力に自信が無いぞ?))

「お待たせ~。そんじゃ自分勝手なお前らは3人だけで逝ってくれや」

『ザザっザザっザザっザザっ』

そう言って口火を切るモサイに従って、装備を整えた第9隊の50人が前に出て来た。

「相手が第9隊なら遠慮は…ッゥ」
「「マハトっ」」

「…大丈夫、あと…少しでしょ?」

脂汗でびっしょりのマハトが笑う。

ーーー『ドスッ‼︎ 』
「グゥっ⁉︎ 」

突如放たれたヒロの矢が敵の肩に刺さる。

「矢だ気を付けろっ」


ーー『ガスッ』

続けて放たれる二の矢は警戒した敵の盾に防がれた。

でもこの牽制は助かる。

「アロン、貴方はマハトを護って。後ろには私と仲間が極力行かせないから」

「ちょっと待て、俺はやれるぜ?」
「…分かりました」

アロンはそう言って強引にマハトを押さえる。


フゥーーー~…

風は止んでいる。

"自爆には気を付けろよ"


今なら…


私がそう思った直後


ヒュィーーーーー…
『『『ドドォォォオオーーーーーーンッ‼︎‼︎ 』』』

時、人、空気。
その何もかもを無視した轟音が、街を包み込む闇夜の空を引き裂いた。


ー~っ…シロッ

そして一拍おいてまた

ヒュィーーーーーー…
『『『ドドォォォオオーーーーーーンッ‼︎‼︎ 』』』

やってくれたッ

「なななっ…なんで集合報が鳴りやがるっ⁉︎ 」

夜空に狼狽えるクソバカブサイク。

『ザザ… 』
「アロンっ踏み… 」

「ミレインさんッ 」

そう言ったマハトは既に腰を落とし両手を重ねていた。

「「………… 」」

腹の傷を見て一瞬迷ったけど…行くッ

「フゥッッ」

吐き出す息と同時に腕を後ろへ投げ出し

『ズジャァッ‼︎ 』

爪先は地面をつかみ抉るように蹴りつけて加速ッ

『ダダタタッグンッ』

そしてマハトの両手に足を乗せ

「~~ッうぉらぁァァアッ‼︎ 」ーーーー

そのまま後方へカチ上げられる。


「「「「「「「っンなぁ~…⁉︎⁈ 」」」」」」」


ーーーー『ブワァァァッ~~~… 』

「………は?」

4mを超える高さまで跳んだ私は塀の上のアホヅラと目が合う。

その瞬間両腕を広げ手に握りしめていたスプレーに目一杯指を押し込むっ

「思い知れェーーーェッ‼︎ 」
『ブシュシュシュゥゥゥゥーーーーーーーーッ』

「うブァぁぁっ⁉︎ 」

遮蔽物のない跳び上がった空中から噴射された液体は、ブサイクとその部下達へ降り掛かった。

ーーー『ズダンッ‼︎ 』ーザァァァっ

敵前衛の隙間に着地した私は、瞬時に目鼻を押さえそこから後退。

「ンなっ⁉︎ なんだっ?こりゃギャァーーッ」
「うわっ、痛えっ⁉︎」「なんだっ目が開かっゴホッゴホッ」バタンっゴロゴロ…
「痛えっ毒かっ⁉︎ 」「こんな強烈な…ゴホォっ」バタっ
「ゴホっ、あぐぁぁあっ」ゴロゴロ…

苦しみ噎せた大半が地面を転げまわり、それを見る私の目鼻までもがビリビリとする。

「マハトッアロンッ、味方を後退させろっ」

「りょっ了解っ、お前ら離れろぉッ」
「後退だぁっ」

ザザザっザっザザっザザっ

慌てた2人の指示に従って、大半の衛士レィヴ達がこちらに下がって来た。


『ヒュンヒュヒュンっ‼︎ 』

私は込み上げる思いで剣を握り突き上げる

「あの集合報は人質解放の合図だッ‼︎ 」


「「「「「「「「…ーー~ッ」」」」」」」」

「現時点より我らは任務に復帰、これより反乱兵の鎮圧に移るッ。衛士レィヴは2列方陣で敵を取り囲めぇぇえッ‼︎ 」


「「「「「「「「「ゥゥオオォォゥウッ‼︎‼︎ 」」」」」」」」」

ザザッザザッザッザザッザッザッザザザッ

「抵抗するんじゃねぇっ」「オラァ」
「貴様らよくもッ」

マハトとアロンをはじめとする衛士レィヴ30数名が私の号令に力強く応え、倒れ苦しむモサイ達第9隊を即座に取り囲み制圧する。



汗と埃に塗れて必死に走った…

惨めに追い詰められ大海に飛び込んだ…

誰も知らない場所に逃げてどうでも良くなった…


戻って来ても死のうかと覚悟した。



ギュウウゥゥ……ゥッ…
「………っ…くぅっ…… 」


散々な日々の中で溢れた万感の思い…


私…は……私はァァっ…


その全てをひっくり返してやった熱 ×


「ー~…ーー~ッ」


痺れる程に全身を打ち震わせる歓喜



やり遂げたんだァァァーーーーッっ



血肉骨までをも沸騰させる飛び散るくらいの解ッ放感ッッ‼︎‼︎






マハト(25) 186cm

第2砦街ドーズ第4衛騎士隊4席。
*容貌
彫りの深い割と端正な顔立ちだが三白眼で目付きが悪く頭髪もボサボサ。
*性格
強さを追求するナチュラル漢気マン。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

処理中です...