RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-34 Acquittal or Dead〜 ツメハカライ

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sideヒロ

作戦会議後に軽めの食事を終えた今、僕たちは今夜の作戦を待つばかり。

さっきも少しだけクロスボウの練習に励んだけど、その結果はシロよりも5mほどマイナスした感じの精度にとどまった。

「ふぅー~… 」

器用さには割と自信がある方なんだけど、相変わらずヤツは何でも出来る。

あとは…


ザっザっザっザっザ…

少し離れた木に背を預けるシロに近寄る。

「隣良い?」
「聞く必要あんの?」

ザ…
「……シロ、あの… 」
「オレは射てるよ。動物でもまぁ大丈夫だったし…それにらなきゃられるからね、マジで」

座ってすぐの僕の言葉に被せたシロは、なんでか自嘲にも取れる笑みを浮かべた。

"やらなきゃやられる"

その言葉からあの時突き付けられた剣を思い出した。

「知っての通りオレって被害妄想男じゃん?常に後悔と反省の環状線をループして回ってるし。だから最悪の状況と最悪の結果ばかりを考える。この癖は一生治んないんだよ」

「…シロは昔からゾンビとかパニックホラー系とか好きだもんね」
「ハハッ、そうそう。だからいつもこうなったらどうするかとか、取り返しのつかない状況にならない為にはどこでどうするべきなのかって常に線を引く。さっきの検証結果で得たアドバンテージだってさ、もっともっと調べたら穴があるのかも?何か別のデメリットがあるのかも?…なんて事も考えちゃってるよ」

シロは胡座から片膝を立て、そこに乗せた腕に顎を置く。

「…オレ達はここではさ、知り合いどころか戸籍も人権もない。ってことはだよ?もしも捕まれば良くて奴隷でさ、おそらくは殺される…と思う。オレはそう考えるよ。だから、ね?」

そう言ったシロの横顔は無表情だった。

ううんこれは違う。
コイツはいつも無表情だけど、いつものそれとは明らかに異なった無の相貌。

「ヒロ君はミレとその家族、生きてれば助けるんでしょ?ならその相手は敵なんだよ全部」

生きてれば…か。

ゴクリ…

そうだ、その通りだ。

「そんでさ、もしだけど… 」

シロはそこで一旦止めると、大きく息を吐き出してから言う。

「…もしヒロ君が先に死んだらさ、その時点でオレは作戦ほっぽり出して全力で逃げ帰るからね」

「……?」







はえっ⁉︎⁇

一瞬シロが何を言ったのか理解出来ず驚いた。
けど良く考えなくてもシロは無関係だもんな…とすぐに僕は納得した。

「だからね?あの子を守るのも自分を守るのもさ、ヒロ君自身が死ぬ気でやらないと詰むよ?何かのタイミングに一瞬で」

「…ぅっ、……うん」

その視線を受けて今更ながら思い知った。

シロが来て確実にこの状況が好転し始めていて、そしていつも通り計画的に行動をするシロと動けば良いって…いや、乗っかれば良いくらい思っていたのかも。

「……………… 」

僕は今、正にそれを見抜かれて釘を刺された。

甘さと覚悟の低さのど真ん中に…


「誰かを助ける状況ってのは大概切羽詰まってんじゃん?そんな状況で綺麗に丸く納めるなんてのはほぼほぼ無理なんだよ。ましてや今回は人の命がダイレクトに掛かってる。そんな状況ではさ、こっちの思いや都合なんか1ミリも汲み取ることない現実が押し寄せる。唐突に、何の前触れもなく。そしてやり直しは大概きかない」

そう言ってこっちを向いたシロのその目は、感情を孕んでいない特有の冷たさを見せた。

「だから慎重過ぎなくらいで丁度いい。神経質なくらいでスタートライン。いい?オレ達が圧倒的に不利なのは何一つ変わっていないからね。何一つだよ?オーケー?」

そう言って最後にシロは笑った。

僕は強く、そして深く頷くと…

「さてと、それじゃボチっと用意しますかね?」
パンパンパン

そう言ってケツハタきながらシロが立ち上がった。






「もうすぐ一時か… 」

シロが下見に行くと言って約2時間。

"下見は何よりも見つからない事が第一だからさ、前科のあるヒロ君は大人しく待っててよね。ヒロ君がオレよりも正確な情報を拾い集れるってんなら連れてっても良いけど?"

そこまで言うアイツなら大丈夫だよね。

「…………… 」

少し離れたところで同じように待っているミレも下見には同行しようとした。
けど…

"目立つ陽動を買って出るお前が家族の命が掛かっているこの状況で潜入するのか?ならそのまま1人で助けて来いよ"

と、容赦無い言葉で黙らされた。
シロはホントに女の子にも厳しい。


「あっ… 」
「きた?」

…ザ…


ザ…ザっザ…


「うん来たよ」

そう言うとミレは張り詰めた表情をやっと緩めた。

ふっ…

「何?」
「いや何もないよ」

拗ねてなかったんだね?なんて言えない。


ザっタっタっザ……カシャ
「…ハァハァ、ハァ~~ァっ…と、ただいま」

「…おかえり」
「ってどしたの先輩。どっか体調悪くなった?」

シロの顔を見たら申し訳なくて、自分の無力さに少し嫌気がさした。

「ううん大丈夫。無事で良かった」
「そ?じゃ良い情報と悪い情報、どっちから聞きたい?」

やたらとテンションの高いシロに、どう言うことかと袖をツンツン引くミレ。

「………… 」

確かに恰好良いけど今の気分的には全然ノレない。

「……定番のやつだけどノリが悪いので先に行きます。えーまず敵の現状と配置ですが、ちょっと地図に書くね」
『シャ、シャシャっ、シャシャ… 』

「この辺りはちょっと分かんなかったけど、多分疎らだと思う」
『シャシャっシャっ、シャーーーー… 』
「それからずっとこの言われた通りのルートで大通りまで問題ナシ」

ミレは地面を睨み付ける様に見る。

「街の雰囲気はどんなだった?」
「一言で言えばメッチャ暗い。真夜中とは言えこの大通り以外はほぼ闇だよ」
「確かに出入りの門とポツポツとした櫓は見えるけど、街自体の灯りは全然ないもんね」

ここから眺める静かな街の雰囲気は、とても何万人もの人が暮らしているって感じじゃない。

「けどぉ~それが良い」
「潜入するにはね」

「…フ、そそ。しかも留置場は高めの壁だけで見張り台もなかったよ。だからヒロ君も陽動組で決定ね。敵も聞いてたよりかなり少なかったし」
「いやっ…、でも… 」

僕はどうするべきか分からずミレを見る。

「××っ、××××ッ(なんでっ、早過ぎるッ) 」

「…ミレ?」
「ぁ、ごめん……っ、でも早い、フラエ…早い」

焦りを隠せないミレは手を口元に当てている。

でもあの時遅くても2週間って言ってて、山越えに8日って言ってたから……確かに早いのか。

「フラエってミレが伝えに行こうとしていた所だよね?」
「そう…… 」

そう言ってミレは答えたけど、苛立ちからか目線は地図に向けたまま。

「なぁミレ、お前は何しにここに来たんだ?」

「…っ⁉︎ 」

ハッとしたミレは顔を上げた後下唇を噛んだ。


そうだ、その通りだ。

僕は…僕たちはミレの家族を必ず助け出す。
その為にここまで来たんだ。








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