RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

文字の大きさ
上 下
30 / 101
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-28 嗚呼林打弓部〔P2〕

しおりを挟む
sideシロ

…… …




薄っすらとした白い熱が睫毛の隙間に触れると、眠りの浅さから直ぐに気が付く。


『ザザァーーーー…ザザァーーーーァァ…』


「……ン……あぁ」スト

手に握るナイフに気が付きそれを置き、そして寝転んだまま軽く伸びをしつつ腕時計を見る。

夜明けは5時過ぎってところか。
あっちとの時差と言うのか時間の差異はほとんど無さそうか。


『ザザァーーーー…ザザァーーーーァァ…』

一晩中聴いていたさざ波の音は気にならなくなった?

「ふぅーーー~… 」コキッパキッ

それからゆっくりと身体を起こし、首や腰を回しながら脳を目覚めさせる。

やっぱこんだけ着込んだまま寝るのはかなりストレスだな。
昨夜は風呂も入ってないし。
しかも地面だし。

薄手の防刃ベストとガードを付けた上から着るモノトーンの迷彩上下には、当然寝心地などと言う快適さは求め様もない。

けどヘルメットはやめて正解だった。
これで更に首まで辛かったらマジでホームシックだよ。



トポっトポっバシャバシャバシャっ
「ふぅーーっ」

濾過機能付のペットボトルから零す水で顔を洗う。
この水は昨日周囲を調べたおりに汲んだ森の湧水で、寝る前に少量飲んでみたけど今のところ吐き気腹痛等は無し。

シャコシャコシャコシャコ…

トポトポっガラガラガラガラ…ベシャ
「ハァーーーーっすっきり」

歯磨きも終え次は朝食。


シャカシャカシャカシャカっ

もぐもぐもぐもぐ…ゴクゴクっ
もぐもぐもぐもぐ…ゴクゴクっ

うん、何千回食っても美味いな。

一晩のホームレスで受けたダメージを癒やすプロテインとバナナは最強。

「…フ」

だけど朝日に照らされ漏れ出るのは自嘲の息。

それは同時に痛感した当たり前の日常の有難みだった。





「ぃよっと」ガサっ

リュックを背負い斜め掛けしたクロスボウは身体の前へ。

んじゃ今日の予定は平原を半日程進んでみるかな。

自転車に跨りつつコンパスを確認すると、GSから出た正面方向に当たる森の切れ目は北西を指している。
向こうのGSの入口は南東方向だったから異世界こっちでは方位がほぼ真逆か…
何か法則性はあるのか?
鏡合わせにはとても見えないけど。

いやそれは後回しだな。
情報が少しもない以上いくら考えても無駄だしそんな余裕もない。

自転車で普通に走ると大体時速10~13kmだから、辺りを警戒しつつだから10kmとして……先ずは3時間くらいを目安に行ってみるか。


「さってと、上手く合流出来るかねぇ」

そう独りごちながらペダルに体重を乗せた。





ジャリシャリシャリカッカッシューーーー…

30分と掛からずに右手の森は終わり、右方は見渡す限りの平原が広がっている。

シャリシャリジャーーーーーー…

オレは時折そっちを確認しつつ多分踏みならされたであろう草の少ない左手の森沿いを走り続けている。

けどなぁ…
あまりに一本道過ぎてホントにこっちで良いのか逆に心配になる。
つっても当ては一切無いんだから先ずは行けるだけ行ってみるしかない。

って冒険ぽいっ


オレはナビも何もないこの不便な筈の環境に、初めてやるゲームの世界に入った時みたいな湧き立ちを覚えた。



……




ゴクゴクゴクゴクゴクっ
「ふぅ… 」

出発から2度目の休憩。

「………、………、お……… 」

あれはカバか?サイ?

移動中たまに見かける動物は記憶の物よりやや大きい気がしたけど、計測可能距離2kmを超えた遠方では実寸不明。

それに進路上にいるのならまだしも、ワザワザ止まったり近付いたりして確かめるようなバカをする気はない。
明らかに見たことない形状の動物もいたし。

とにかくゾンビのいる世界に迷い込んだくらいの気で安全を第一に先を急ぐのみ。



……




ジャーーーーーーーーーー…ジィィっ…

何かしらの収穫を…と走り続けて4時間近く。



周囲の確認をしつつ見る先は、まだまだ森と平原が延々と続く。

ゴクっゴクゴクっ
「ふぅ… 」

今日はここまで…だな。

カッカシッカシッ…

そう言い聞かせ向きを変える。



ジャリシャリシャリカッカッシューーーー…

正直ヒロ君の安否ことは気に掛かる。
だからこうして引き返している今も "もう少し進もう" と言ってくる自分も居て…

けど油断=即、死。

取り返しのつかない場面と言うのは予測や認識の外から一瞬で訪れてしまう。
人の力では抗えない何かとはそう言うもの。

けどここに来てなきゃ何をしてた?
ヒロ君の事を心配しつつ仕事?昼寝?

「フ… 」

でもオレはこっちに来た。
心配の種に手が届く場所に。

なら欲張るな。

GPSで詳細な地図が見られる海外ですら場所によっては踏み入っちゃいけない所がある。

ここはどこだ?
あっちの方は?

進む方向すら分かっていないオレにとってこの世界はそれ以上の場所なはず。

だから一歩ずつ。

確かめながら進むのが最善の最大限だ。



……





『ザザァーーーー…ザザァーーーーァァ…』

ジャーーーーーー…ジジィ。

「なんとか無事に帰還…っと」ザっ…

グっグっグィっグっグっグ…

流石に足が怠いと感じ疲労した脚を曲げ伸ばし。

それから慎重にまわりを警戒しつつ食事に入る。


もぐもぐもぐもぐ…

カレーパン美味っ
やっぱカレーはライスよりパンだよ。

「ゴクっゴクっ…ふぅ… 」


けど明日はどうするかな。

パリっもぐもぐもぐもぐ…

手巻きも美味いけど、米を食うとやっぱあったかい味噌汁が欲しくなるな。

視線の先にあるGSを見て、"一旦帰るか" という考えが浮かぶ。

"30分強" と言うマンションまでの時間と共に。



……




キリキリキリキリキリキリ…

『シュゥッーードスッ』
うん。

斜陽に当てられながら射つクロスボウは昨日よりも装填から発射がスムーズになり精度も上がった。

キリキリキリキリキリキリ…

『バシュッーードッ』
よし。


部屋に戻ると言う選択肢は直ぐに捨てた。


キリキリキリキリキリキリ…

『シュゥッーードッ』
「…フゥ~… 」


それは思いを鈍らせる。


キリキリキリキリキリキリ…

『ビシュッーードッ』
「……… 」


この武器を用意した覚悟を。
やり遂げる為の意志を。


キリキリキリキリキリキリ…

『シュゥッーードッ』



こうして未踏地域での2日目が暮れていった。




……




翌朝。



『ザザァーーーー…ザザァーーーーァァ…』


「…はぁ」

そろそろ起きるか。

陽もすっかり空へと上がった頃にのんびり起床。

今日からは野宿を挟み3日程進んでみることに決めたため、退避場所GSもあるこの場所で眠れるだけ眠ることにした。

けど時間はまだ8時。
2回目となると野宿も少しは慣れたけど、身体の状態はひたすら萎えて眠れない。

そしていつも通り朝の支度に掛かる。






「っし行くか」

カシっカシっカシっ…

今日心掛けることはペース配分。
昨日も無理をしたつもりは無かったけど、往復7時間弱はそれなりに消耗した。

幸い今朝の感じから疲れは残ってはいなさそうだけど、それでも今日から2~3日漕ぎ進むことを考えれば疲労の蓄積は免れないはず。


カシっカシっジャーーーーーーーー…

だから昨日より気持ちペースを落とす。

この場所ではパフォーマンスの低下が命に関わる可能性があるから。

そう言い聞かせて逸る気持ちに蓋をする。



……


3時間後。



ジャーーーーーーーー…カシっカシっ



…ん⁉︎

昨日進んだ地点に着く手前、進行方向の彼方に動く物を捉えた気がした。

『ジジィィッ』

直ぐに木の側へ寄り隠れる様に身を潜ませ、そして双眼鏡で確認をする。



((~~…ん、ん、ん))

対象が2km以上離れていてボヤける中、ピントを調整し目を凝らす。

けど多分…人だよなぁアレ。



((ん、ん、ん~… ))

誰だ?

少しずつ近付いてくる小さな人影。



誰だ…

誰だ~……って「あの子か?っぽいぞ⁉︎ 」

思わず口に出た安堵の喜びは双眼鏡を動かして、一緒であろうヒロ君を探す。



「………、……、…… 」

が居ない~~…ぞ。

何でだ?
追い掛けられてる?…感じでもない。
けどこっちに向かって走って来てる。



どう言う状況だ?

とは言え直接確認するしか手はない…か。


オレは最後にもう一度周囲に危険が無いことを確かめてから、身に付けた装備と共に彼女の元へと急ぎ向かった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...