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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
1-26 試近責〜 Divide
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side御月
「…知っていてシロさんにカマをかけるような事言ったんです」
止まらなかった。
止めることが出来なかった。
オレの中で澱むこのモヤモヤを、どうしてもこのまま仕舞っては置けなくて。
「………カマ?カマを掛ける…って?…あぁ、そう言うことね。つまり実際には浮いた金の事をオレが正直に話すかどうか試したってことか… 」
シロさんの理解と共に押し寄せる後悔の波。
「…っ」
結局オレは何を求めていたんだ?
分からない。
仮にシロさんが想像に沿っていたとしても特別落胆もしない。
それだけでシロさんを尊敬する気持ちに変わりようはないし、店も…今の自分も好きだ。
なのに…こんな試す様な事を。
従順な部下が…
従順?
オレが?
突然の違和感に混乱する。
今までメチャクチャをして来たつもりは無いけど、でも奥底まで他人に従った憶えは無い。
なのに今のオレは間違いなく従順だ。
何故ならそれはしたくてそうしているから。
「ん~、多少複雑な気分ではあるけど… 」
ただこの人に認められたくて、この人の想像を超えてやろうと日々を過ごして来たってのに…
「…まぁいいんじゃない?」
ホント何やってんだよオレは……クソっ
「…えっ?」
まぁいい?
「いやさ、だって御月君が真偽を知りたかったって事でしょ?気持ちの良いことじゃないって分かった上でも。って事は確認作業は必要だったってことであって、もっと平たく言えばオレを信用し切れていなかったってこと。だからさ、それはそのまま受け止めないとダメだよね」
「いやっ違ッ…だって… 」
シロさんは受け入れた。
なのにオレの感情は否定された気持ちでいっぱいになった。
だってオレはこんなにもシロさんを信用も信頼もしてるのだから。
「でもやっぱりそうなんだよ。それかまだ信用を得るには時間が短か過ぎた…か。それに相手のことを確かめる、見極めるってのは常にする大事なことでしょ?親子だろうとその為人が損なわれれば関係性は壊れて行くんだからさ」
オレは自分の過去を思い出し反論が出来ない。
「んでオレは正直に話したつまりだけどどう?聞いた話とは違った?」
「…いえ、聞いてた以上に詳しく話してくれました」
「うん。それで何がいけなかったの?」
シロさんは優しくそう聞いてくれる。
「いえ、いけない事は何もない…です。むしろ想像を裏切られたと言うか、なんかよく分からなくて。それでなんでこんな事したんだろうとか頭がぐちゃぐちゃになって… 」
「……うん、それで?」
「だって皆んな嘘をつくじゃないですか?自分を良く見せるために話しも盛るし陰口も言う。…それが普通じゃないですかっ。だから、だからいつも完璧なシロさんにもそう言う部分があるはずだって………すみませんっ」
頭の中と言うか…
胸の内と言うのか…
オレは自分の中に在る言い様の無い気持ち悪さを言葉にして吐き出した。
「ぷっ…ふふふっ、そうだね、それが普通だと思うよ。オレだって正直隠そうかとか黙っていようかとか迷う時はあるしね」
けどシロさんはオレの深刻さとは対照的な態度で答えた。そして
「…ただオレはそう言う事をすると自分が自分じゃなくなる気がするんだよね。こうしてる今も人って変化をし続けるし。だから現実を捻じ曲げて都合の良い自分を取り繕ってもさ、それは他人から見た姿とは違っちゃうでしょ?裸の王様じゃないけどさ、それが一番格好悪くない?失敗なんてするのが人間なんだよ。自分で言うと開き直りみたいでダサいけどさ」
そう言って肩を竦めて微笑んだシロさんは
「それにオレらは仕事仲間でもあるでしょ?だからこそある面では家族や友達以上の信用信頼を積み重ねていかなきゃいけない。だからお互いをシビアに評価する事も必要で当たり前なことなんだからさ………気にすんなヨッ」『トンっ』
最後にふざけた言い方でオレに肩パンをした。
「……はい、ありがとう…ございます」
少しだけジンとした痛みを感じつつ、オレはそんな返ししか出来なかった。
「まぁそんな感じでこれからも頑張ろうよ。そんじゃオレは行くから」
そう言ってシロさんはいつもと変わらない様子で店を出て行った。
「…………… 」
思う所が無いわけない。
でも言葉は勿論のことシロさんの目、抑揚、動きとどれを取ってもマイナスな感情を感じなかった。
いや寧ろ前向きな感じ…
「…こんな人も、居るんだな」
まだ動きたがらないオレ身体から、最初に溢れ出たのは不可思議さ。
……
…
家に帰り諸々を済ませ寝る時間になる。
『ピッ』
電気を消しベッドに入るとすぐ、頭を埋め尽くしてる昼の出来事に浸された。
「ふっ…くくくっ」
すると思わず笑いがこみ上げる。
あの時オレスゲェテンパってたよな。
かなりダサいと言うかキモいヤツだった…
「あはははっ…ハァ~~~… 」
感情的な自分を思い出し笑いが溢れ、そして一気に力が抜けて気持ちが軽くなる。
いや、力じゃないな。
オレを取り囲んでいた有刺鉄線の様なナ二か…
それは自分を守るためのモノであると同時に自分も動けなくなると言うどうしようもない枷。
それを認識した上でシロさんは手を引いてくれた。
あの人…
仕事以外でも面倒事に携わってるもんなぁ。
"どうしてシロさんがそこまでするんですか?"
"じゃあそこまでしなかったとしてさ、何が得られるの?"
"得られないかもしれないですけど…損はしないで済みます"
"物質的な損ならいつか取り戻せるよ。御月、他人が嫌がる事だからこそ代え難い何かがそこから得られるんだよ。今のオレにとって生きるってのはそう言う事だから"
あの人は憐れみも慰めも窘めも厭わない。
でもそれはあの人自身の生き方から産まれているあの人だけの連動力。
「…………… 」
運が良かったな、オレ…
そう思うとふと気付く。
この出会いは元嫁と別れたからだなと。
言いたくないけどあん時は辛かった。
あの喪失感はきっと一生忘れられはしない。
だけど…
「ふぅーっ」
だけどそんなあいつのお陰で今がある。
全然したくないけどさ、ちょっとくらいなら感謝しても良いかもな。
ムカツクあのクソ女にも。
そんな風に思えたあの日から、本当の意味で自分の過去を乗り越えることが出来たオレは、それから程なくして部屋も引き払い店の近くへ引っ越した。
ーーーー…パサっ
「……………もう3年目か」
シロさんと仕事を始めてから何もかもが変わったよなぁ…
けど、くくっ
相変わらず本っト変な人だよ。
『カチャ』
「いらっしゃいませ~」
さっ仕事だ仕事。
「…知っていてシロさんにカマをかけるような事言ったんです」
止まらなかった。
止めることが出来なかった。
オレの中で澱むこのモヤモヤを、どうしてもこのまま仕舞っては置けなくて。
「………カマ?カマを掛ける…って?…あぁ、そう言うことね。つまり実際には浮いた金の事をオレが正直に話すかどうか試したってことか… 」
シロさんの理解と共に押し寄せる後悔の波。
「…っ」
結局オレは何を求めていたんだ?
分からない。
仮にシロさんが想像に沿っていたとしても特別落胆もしない。
それだけでシロさんを尊敬する気持ちに変わりようはないし、店も…今の自分も好きだ。
なのに…こんな試す様な事を。
従順な部下が…
従順?
オレが?
突然の違和感に混乱する。
今までメチャクチャをして来たつもりは無いけど、でも奥底まで他人に従った憶えは無い。
なのに今のオレは間違いなく従順だ。
何故ならそれはしたくてそうしているから。
「ん~、多少複雑な気分ではあるけど… 」
ただこの人に認められたくて、この人の想像を超えてやろうと日々を過ごして来たってのに…
「…まぁいいんじゃない?」
ホント何やってんだよオレは……クソっ
「…えっ?」
まぁいい?
「いやさ、だって御月君が真偽を知りたかったって事でしょ?気持ちの良いことじゃないって分かった上でも。って事は確認作業は必要だったってことであって、もっと平たく言えばオレを信用し切れていなかったってこと。だからさ、それはそのまま受け止めないとダメだよね」
「いやっ違ッ…だって… 」
シロさんは受け入れた。
なのにオレの感情は否定された気持ちでいっぱいになった。
だってオレはこんなにもシロさんを信用も信頼もしてるのだから。
「でもやっぱりそうなんだよ。それかまだ信用を得るには時間が短か過ぎた…か。それに相手のことを確かめる、見極めるってのは常にする大事なことでしょ?親子だろうとその為人が損なわれれば関係性は壊れて行くんだからさ」
オレは自分の過去を思い出し反論が出来ない。
「んでオレは正直に話したつまりだけどどう?聞いた話とは違った?」
「…いえ、聞いてた以上に詳しく話してくれました」
「うん。それで何がいけなかったの?」
シロさんは優しくそう聞いてくれる。
「いえ、いけない事は何もない…です。むしろ想像を裏切られたと言うか、なんかよく分からなくて。それでなんでこんな事したんだろうとか頭がぐちゃぐちゃになって… 」
「……うん、それで?」
「だって皆んな嘘をつくじゃないですか?自分を良く見せるために話しも盛るし陰口も言う。…それが普通じゃないですかっ。だから、だからいつも完璧なシロさんにもそう言う部分があるはずだって………すみませんっ」
頭の中と言うか…
胸の内と言うのか…
オレは自分の中に在る言い様の無い気持ち悪さを言葉にして吐き出した。
「ぷっ…ふふふっ、そうだね、それが普通だと思うよ。オレだって正直隠そうかとか黙っていようかとか迷う時はあるしね」
けどシロさんはオレの深刻さとは対照的な態度で答えた。そして
「…ただオレはそう言う事をすると自分が自分じゃなくなる気がするんだよね。こうしてる今も人って変化をし続けるし。だから現実を捻じ曲げて都合の良い自分を取り繕ってもさ、それは他人から見た姿とは違っちゃうでしょ?裸の王様じゃないけどさ、それが一番格好悪くない?失敗なんてするのが人間なんだよ。自分で言うと開き直りみたいでダサいけどさ」
そう言って肩を竦めて微笑んだシロさんは
「それにオレらは仕事仲間でもあるでしょ?だからこそある面では家族や友達以上の信用信頼を積み重ねていかなきゃいけない。だからお互いをシビアに評価する事も必要で当たり前なことなんだからさ………気にすんなヨッ」『トンっ』
最後にふざけた言い方でオレに肩パンをした。
「……はい、ありがとう…ございます」
少しだけジンとした痛みを感じつつ、オレはそんな返ししか出来なかった。
「まぁそんな感じでこれからも頑張ろうよ。そんじゃオレは行くから」
そう言ってシロさんはいつもと変わらない様子で店を出て行った。
「…………… 」
思う所が無いわけない。
でも言葉は勿論のことシロさんの目、抑揚、動きとどれを取ってもマイナスな感情を感じなかった。
いや寧ろ前向きな感じ…
「…こんな人も、居るんだな」
まだ動きたがらないオレ身体から、最初に溢れ出たのは不可思議さ。
……
…
家に帰り諸々を済ませ寝る時間になる。
『ピッ』
電気を消しベッドに入るとすぐ、頭を埋め尽くしてる昼の出来事に浸された。
「ふっ…くくくっ」
すると思わず笑いがこみ上げる。
あの時オレスゲェテンパってたよな。
かなりダサいと言うかキモいヤツだった…
「あはははっ…ハァ~~~… 」
感情的な自分を思い出し笑いが溢れ、そして一気に力が抜けて気持ちが軽くなる。
いや、力じゃないな。
オレを取り囲んでいた有刺鉄線の様なナ二か…
それは自分を守るためのモノであると同時に自分も動けなくなると言うどうしようもない枷。
それを認識した上でシロさんは手を引いてくれた。
あの人…
仕事以外でも面倒事に携わってるもんなぁ。
"どうしてシロさんがそこまでするんですか?"
"じゃあそこまでしなかったとしてさ、何が得られるの?"
"得られないかもしれないですけど…損はしないで済みます"
"物質的な損ならいつか取り戻せるよ。御月、他人が嫌がる事だからこそ代え難い何かがそこから得られるんだよ。今のオレにとって生きるってのはそう言う事だから"
あの人は憐れみも慰めも窘めも厭わない。
でもそれはあの人自身の生き方から産まれているあの人だけの連動力。
「…………… 」
運が良かったな、オレ…
そう思うとふと気付く。
この出会いは元嫁と別れたからだなと。
言いたくないけどあん時は辛かった。
あの喪失感はきっと一生忘れられはしない。
だけど…
「ふぅーっ」
だけどそんなあいつのお陰で今がある。
全然したくないけどさ、ちょっとくらいなら感謝しても良いかもな。
ムカツクあのクソ女にも。
そんな風に思えたあの日から、本当の意味で自分の過去を乗り越えることが出来たオレは、それから程なくして部屋も引き払い店の近くへ引っ越した。
ーーーー…パサっ
「……………もう3年目か」
シロさんと仕事を始めてから何もかもが変わったよなぁ…
けど、くくっ
相変わらず本っト変な人だよ。
『カチャ』
「いらっしゃいませ~」
さっ仕事だ仕事。
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