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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-11 ハナシタクナイズレてる2人

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sideヒロ

何処までも伸びる点線に沿ってゆったりと流れている車列を、カチカチと少しだけ忙しない音を鳴らし滑り抜けて行く僕ら。

「~♪ ~~~♪ 」

ハンドルを握りながら歌を口ずさむシロの様子は今までのいつもと何ら変わらなくて、それがまた僕の中でチグハグさを醸す。

黒いスモークの貼られた窓越しに流れていく見慣れた通りと建物。
歩いているのは誰も知らない人達だけど、それがしっくりくる街の風景を眺めながら、僕の心は落ち着きを取り戻していった。


『ブォォーーーーン』

途中いくつかあるなかなか変わらない交差点。今日はそれらをタイミングよく走り抜け、少しもイライラする事なくスムーズに走って行く。

そして家を出て約15分、待ち合わせている蓮ちゃんの会社の駐車場に無事に到着した。



『バタン』

シロが車から降りると蓮ちゃんの車からも人が降りてきた。

サングラスにニット帽を被ったその人は、僕が乗ってるシロの車の後部座席に乗り込んで来た。

ガチャ
「とりあえず10分くらい2人で話したら?その後好きな所に送って行くから」
「待ってシロ、蓮ちゃんにお礼を言いたいんだけど」

「いや、蓮ちゃんは何も知らないしここにも来ていない。だからそんな必要はないよ」
『バタンっ』

シロは素気無くそう言って離れていった。

「……っ……… 」

シロ経由で犯罪の片棒担がせて、上手く行ったからお礼を言わせてってのもないか。
それに僕の口だけで言う感謝なんて、僕の自己満足なだけで蓮ちゃんにとっては何の価値もない。

蓮ちゃんはシロのためにシロとの関係性で引き受けてくれただけであり、むしろシロを巻き込んだ僕に内心怒ってるのかも…


「…どこに行くの?」

墜ちかけた思考を中断しミレに話しかける。

「…………… 」

ミレは僕の顔を見た後、視線を前に向けた。

「…行く所はあるの?」

「………ある。…多分、大丈夫」

前を向いたまま答える彼女。

「それどこ?あっち?あっち?」

内容が伝わるよう指を差して尋ねる。

「…ヒロのところ、の、上の方?そっちの水、大きい水のある方」

上ってことは山側の方か、ミレが襲われたのが東小坂だから方向は合ってる。

ってことは目的地は海沿いなのか?
確か車で2時間くらい行けばその先にマリーナがあったけど。

「分かった、シロに頼んでみるね」

ミレは頷きを返す。

その後はお互い話すこともなく沈黙が続いた。



『ガチャ』
「…もう良い?」

15分程で戻って来たシロは、運転席のドアの隙間からニヤリと笑って言った。

いや、沈黙が超気不味かったから10分も要らなかったよ。
とは言えず頷くと、シロはそのまま車に乗り込んだ。

『バタン』
「…で?何処に行けばいい?」

バックミラー越しに僕を見るシロ。

「なんか東小坂の海沿いらしいから、その先のマリーナなのかな?…と思う」

「そっか。………そうするともう1~2時間後の日没前後だな。あの辺りは場所によってはサーファーとかも居るし、少し被る時間帯くらいが目立たなくて良いかもね」

シロは少し考えてからそう言った。

「うん、…任せるよ」

僕が言うなりシロは電話を掛けた。

「あぁ御月今いい?あのさ、1時間後動ける?……ホント?じゃ車で海沿いの国道を東小坂越えるとこまで二往復してくれる?………うんうんそう…で、その後三回目は先のマリーナまで走ってくれる?……うん、うん、そそ、んで警察とか覆面とか居たら直ぐ折り返しして?……うんそだね。じゃ悪いけど頼むね、お疲れ~」

そして話し終えるとこっちに振り向いて…

「って事で、何もなければ2時間に出発ね。それからこれ、ほいっ」
ドサっ

シロは助手席にあったリュックを投げ渡して来た。

「目的も旅程も分かんないからさ、食糧と水5日分に傘と簡単な着替え。あとはロープに懐中電灯、簡易救急セットetcなんかが入ってる。要らなきゃ適当に処分してくれればいいから」

はは…これだよ。
いつも通りのシロクオリティ。
脱帽だよホント。

「他に何か要る?まだ時間あるから今のうちに用意出来るけど?」

そう言われた僕はリュックを開け1つずつミレに教えていき、最後に他に何か必要な物があるかと確認する。
けどミレは首を横に振った。

「シロ、色々ありがとう。ドンドン借りが増えるばっかだけどさ、返すから……ちゃんと」
「はいよ~、楽しみに待ってまーーす」

僕の言葉にシロは茶化した返事をした。

その後少しの時間だけど僕らはそのまま仮眠を取ることにした。




1時間半後


((ブルルルルルルルル、ブルルルルルルルル))

シロの携帯が鳴った。

「お疲れ様~……うん、うん、そっか。うん、んじゃマリーナ向かってまた何かあれば折り返しお願いね~、はーい」

シロは電話を切ると軽く伸びをした。

「ふぅ……パトカーとは一度すれ違ったみたいだけど特に検問とかも無いみたい。ぼちぼち向かおっか?」

僕は無言で頷いた。




『ブオォォーーーォォン』

20分後、峠を滑らかに下り終え海岸沿いの国道に出た。

久し振りに見る日没前の海の色は薄暗く重く、深い水底に引き込まれるかのような得体の知れない不安を掻き立てて来て、僕は対向車のヘッドライトから避けるように腰を落とした。

「なんもなさそうだね~、平和平和」

穏やかな口調とは裏腹に、シロの目はバックミラーをしきりに見ていた。

『ブォンブォォーーーーーン』



やがて東小坂に入って程なくした頃、ミレが身を乗り出すように窓の外を気にしだした。

首を右左と忙しく動かしている。

「「……… 」」

バックミラーでシロと目が合った僕は頷きを返した。

目的地が近いのかも知れない。



それから更に10分ほど経ったとき

「あっ⁉︎ 」

ミレが声を出して僕の袖を引っ張った。

「シロっ、この辺りで停められる?」
「オッケ、ちょっと待ってね」

シロは前を向いたままですぐに返事をくれた。



カっチ、カっチ、カっチ…
『ブォォー~~ン……キッ… 』

シロは500mほど走った先の食事処の駐車場に車を停めてくれた。

日曜定休か。
珍しいな…


ガチャ、タタ…

ミレが車から降りたので僕も続けて降りる。

『バタン』

そしてミレはフラフラと国道の方に歩いて行き、道路を横断しようとしている?

なんでこんな所で…
マリーナはまだ先なのに。

慌てて追いかけた僕は車に轢かれないよう腕を掴み、一応顔を隠そうとパーカーのフードを被せた。
されるがままの彼女は海の方をずっと見たまま。

振り返るとシロはエンジンをかけたまま運転席のすぐ横に立ってこっちを見ている。

そして車の列が途切れた所で道路を渡ると、ミレはガードレールの向こうを覗きながらマリーナとは逆方向へ歩いて行く。

「シロぉっ」

僕が声を掛けるとシロは頷き、エンジンを止めてから小走りで少し後ろについて来てくれた。



ザァーーっサザァーーーーンっザパァっ…

波の打ち付ける音を聞きながらミレのペースでゆっくりと歩いている。

『ブワァァーー~っ』

時折吹き付ける強い海風が身体を僅かに押し返す。



振り返ると車を停めた場所からは500m以上は戻っていて、陽が落ちた水平線の向こうでは僅かに雲が薄明るい。
けど、こっちはもう足元の影も分からない暗さ。

そのためミレが海に落ちないよう、僕はそちらばかりを気にしていた。

ダタっタっタっ
「ヒロ君っ」

突然僕らを追い越したシロは、目の前で両手を広げながら後ろ歩き。
よく見ると瞳を道路側に動かしている。

((パトカー))

シロは小さく囁いた。
僕は咄嗟にミレと肩を組んで、シロに合わせて歩きながら談笑してる雰囲気を装う。

((ドクっドクっドクっドクっドクっドクっ… ))

『ブゥゥーー~~っ』

数秒後、パトカーが視界に入りそして通り過ぎた。

僕は後向きのシロの表情を見続けると、シロは後向きで軽くスキップしてる風なまま、厳しい目つきで後方を見た数秒後

「行ったね、大丈夫そうだよ。けど振り向かないで」

と。

「ふぅーー~… 」

ここまで来て捕まって堪るかっての。

そんな風に強がりつつ肩に回した手を下ろすと、右腕そこには薄っすらと残る彼女の体温を感じた。

身体を吹き付ける風よりも余程鮮明で、でも一秒毎に弱々しく無くなっていく…

「…っ」

何か言わなきゃって心は逸るけど、焦るだけの感情では何も言葉カタチにしてくれない。




それから3分程歩いた所でミレがおもむろにガードレールを跨いだ。

あっ…

僕も慌てて後を追って跨いだ。


『ザザンっザッパァンっザッパァーーーっ… 』

ザっザっザザっザ…

草むらを少し降りて行くと、ここも海面まで3m程の岩礁地帯が海沿いにずっと続いており、所々岩場が海へ突き出ている。


ザっザっザっザ…

ミレは下を向いたまま岩場の先へと歩いて行く。

なに?ここが待ち合わせ場所?
いやナイでしょ。
何かを取りに来た?

「ミレッ」

そんな事よりも海に落ちないか心配な僕は声を掛ける。

するとミレは立ち止まり、そしてゆっくりと振り返った。

ミレの背が薄暗い海なせいで目を凝らす。

「「……………… 」」

するとフードの中のミレは微笑んでいた。


ザっザザっザっザ…

直後、ミレはまた岩場の縁に向き直り、その下へと降りて行く。

えっ下っ⁇⁈

「ちょっと待ってミレっ」
ザっザっザっ…

僕は小走りで崖の縁につき下を覗く。

階段状になった崖を降り進むミレ。
その先には荒々しい海が広がるだけで船も人も無かった。

「どう言うつもりだろね」

追いついたシロが隣で言う通り何も分からない。
けど、それを考えるよりも先に後を追う。


ザっタっザっタっザっザザっ…

2m程先にある彼女の背中…

『『バッシァッンっザッパァンっサザァーーーっ… 』』

激しい波音。
岩肌を叩く細かな水飛沫しぶきが肌に触れる。

海面との際に立ち海中を見ているミレの視線の先は、所々岩礁の先端が海から顔を出しているみたいだけど、波が被さり消える程度で足場になる感じではない。


一体ミレはどうしたんだろうか?

そんな疑問からふと崖上のシロへ振り返ったとき

((チャプジャブッ))

背中から音がして咄嗟に振り返るっ

「…………えっ⁉︎ …なに?落ち…た、の?」

数秒前までそこにあったミレの背中が消えていた。

僕は頭の中が真っ白になり、何がなんだか分からなくなったけど

「ミレェェエッ‼︎ 」
ダタザンっ…

僕は彼女の名前を叫ぶと同時に海へ飛ぶっ

「ちがっ、ちょ、ま… 」


海に落ちる瞬間後ろから叫んだシロの声が、風を切る僕の耳に微かに残った…






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