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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
1-3 Far from pleased〜 女近焦拾
しおりを挟むsideヒロ
先ほど駅向こうの警察署で盗難届けを出し、現在自宅へ向けトボで帰る僕。
ザス、ザス、ザス、ザス…
「ハァ~~~~~ぁぁ」
今は逃げる幸せもないよ。
盗難届の手続きでバスもない時間になった今、全てから置いてきぼりを食らった気分。
これは飲酒運転で帰ろうとした罰ですか?
ねぇ神様?
『ブゥゥーーーー…ーー…… 』
そんな反省も込めてタクシーはやめたのに、走り去る賃走の表示を目が追う。
にしてもこれは今月ワースト3に入る出来事だな…ふふふ。
ふふ?
ふふじゃないっ
疲弊した脳は僕より先に現実逃避。
ダメだ。
良い事っ
良い事を思い出して気分を変えようっ
無いっ
沈んで行く気持ちに抗おうとするけれど、僕の日常なんて夜のアスファルトみたいなもの。
「ぅぅう~~~っ」
クシャクシャクシャクシャ
髪と顔を乱暴に搔き撫でる。
数時間前の高揚感が嘘みたいな洛陽感。
時折唐突で理不尽な状況に怒りが湧くけれど、ガス欠寸前で沸かせていられない。
そんな心身を少しでも酷使しないように、最小限の動きと最低限の思考で足を動かして行く。
とぼとぼとぼとぼ…
とぼとぼとぼとぼとぼ……
もはやカタカナにする気力もない。
地面も嫌がりそうな惨めな足音は、墜落しガラクタと化した感情の垂れ流し。
((ウゥーーー~っ… ))
ボヤけた五感にも鳴り響く警察車両の音。
流れ星みたく遠ざかるその音に、原付の帰還をただただ願う。
……
…
30分ほど歩きやっとこさ見慣れた住宅地へ。
市内では割と栄えているこの辺りは単身者向けのマンションやアパートが建ち並び、そんな区画内の大通りから少し入った所にあるマイアパートメント(五階建て)。
「ふぅ~~… 」
あと、少~し。
とその前に…
僕は通り道にある大きな一軒家を眺め、塀に向かって近づいて行く。
「……て、あれ?ブル吉たちが居ない?」
僕がここを歩く時は大抵庭に出て来るピットブルたちが、この癒されたい今日に限って来ないとは…
フゴフゴ言いながらいつも舐めてくる二匹を思い出すと
"あそこのブルドックに〇〇さんの娘さんが噛まれそうになったらしいわよ"
"海外では噛み殺された人が沢山いるらしいってね"
"本当にっ⁉︎ 保健所はなんとかしてくれないかしら"
ご近所のおばさん連中による誹りまで思い出された。
まぁ大きいし見た目から怖いのは分かるけど…
また今度なブル吉。
と今夜は諦めて帰る。
そしてアパートのゴミ集積所の横で山盛りのゴミ袋たちの歓迎を受け、明日は可燃ゴミの日かと日常に思考を巡らした時
「うおっ⁉︎ 」ビクっ
急に視界に現れた人影に、仰け反るように立ち止まる。
もう0時過ぎだから怖ぇよ…
と思いつつも何故か目が離せない僕は、首は動かさずにチラ見する。
チラッ
子供?
チラッチラッ
……んや女の子か?
座ってるから近所の子かな?
まぁとりあえず関わらないのが無難だな…うん。
そう思い視線を切って足を動かした。
タン、タン、タン、タン、タン…
「ふぅっふぅっ、ふぅ」
カスカスの力を振り絞りたどり着いた三階。
スタスタスタスタスタスタ
ガチャ、『バタンっ』
やっと帰宅ぅ~~~~っ‼︎
水水っ
ドタドタドタ…
ボっガチャ、パタン
ゴクっゴクっゴクっ
「ぷっふぅ~~~っ」
冷蔵庫から取り出したコーラを立ったままラッパ飲み。
『ジュワーーーーーッ』
…ふぁぁぁぁ…
" ヒロ君そのうち太るよ?"
これだけ歩いたんだから太ってたまるかっ
二口目三口目と喉を刺激する爽快な炭酸と、爽やかな甘みが五臓と六腑に染み渡る。
正に現代のポーションとはこれ。
「グっ、ゲェェぇっ…ふぅ~~」
よっし、糖分が脳を起こしてくれた。
とりあえず疲れたけど汗掻いたしシャワーだ。
……
…
10分後
「はぁーーーーーっ」ギッシィ
シャワーから出た僕は全身で沈み込むようにベッドに転がる。
ヤバ、ダメだ。
眠い………
…
… …
…
…ぅうん
今…何時…だ…?
掴み見た枕元の携帯は1時間後を表示。
明日は遅番だから10時起き…か。
はぁ~、面倒だけど先にゴミ出ししとかないとね。
ガサっガサガサっ
ガチャ
ふた袋のゴミを握ってドアから出る。
スタスタスタスタ…
三階の通路を歩きながらさっきのところを見ると
あれっ?まだいる。
……てか大丈夫か?
タンタンタンタン…
" 家出少女 "
タンタンタンタンタンっ
階段を降りながら、ついさっきシロと話した会話が蘇る。
スタスタスタスタ…
ん~~、まさかね…
階段を降りてゴミ捨て場に近づいて行き
よっと…『ガサっ』
ゴミを放り捨てる。
スタスタスタスタ…
「………… 」
戻りつつも気になる僕だけど、特に視線も感じなかったからそのまま部屋へ戻った。
さっ歯ぁ磨いて寝よっと。
シャコシャコシャコシャコ
ガラガラガラガラ、ペっ
「ふぅ~~… 」
酒の味は消えたけど、鏡に映る僕の目はまだ少し赤い。
ギシィっ
電気を消してベッドへ入る。
原付君、早く帰って来てくれよ?
そう願いつつ目を瞑った。
・
・
・
・
・
・
…はぁ、ダメだ。
やっぱ気になる。
警察?…はもう行ったっての。
児相?う~ん…なんも分からないのに大事にするのも嫌だなぁ。
それに申し訳ないけど今から動く気力はない。
あぁもうっ
とりあえず菓子パンとお茶だけでも持ってくか。
まだ居たらだけど。
" 少女限定で近付いてくのが?"
「…チっ」
さっきから預言者かあの野郎め~
まんまとフラグを回収してやんよ。
『バサァァ~っ』
自らを奮い立たせるよう布団を跳ね除けて、買い置きしてあるクリームパンと緑茶を手に取り部屋を出る。
タンタンタンタンタン…
「ふぅーー… 」
なんとなくドキドキしながら降りる階段。
そして建物から離れ彼女の方へ。
ザスザスザス…
居るね…
彼女は同じ場所に座っていた。
「……………… 」
さて、目の前?までは来てみたものの、向こうからしたら僕も怪しいよなぁ…時間も時間だし。
視界に入って2mくらい離れたところで気付いてくれたらそっと置くか。
うんそうしよ。
野良ネコ方式だ。
スタ、スタ、スタ…
っ⁉︎
ゆっくりと近付いて行ったけど、3m辺りで明らかに警戒される。
まぁそりゃそうか…
めっちゃ睨んでる?
高校生?いや大学生?
とりあえず視線が合ったので、両手のお茶とパンを地面に置き、ジェスチャーでどうぞと伝える。
「…………… 」
無反応…
ですよね~
まぁね、うんうん想定内想定内。
僕はサッと踵を返して帰る。
スタ、スタ、スタタっタっタっタっタっ
「…っ…ッ」
居た堪れなさで早まる足。
ぬウォおぉ…
なんだこの独り善がりな恥ずかしさはっ
タンタンタンタンタンタンタンっ
ガチャ、『バタンっ』
「フゥフゥっフゥフゥっ、はぁ… 」
とりあえずやる事はやった。
あくまで善意の範囲で。
「はぁァ~~っ」
寝よ寝よ。
ギシィっ
目は覚めちゃたけどさ…
…
… …
…
『コンコンコン』ドキッ⁉︎
僕の耳にスルリと忍び込んだその音は、微睡みかけた脳をすれ違いざまに蹴り起こし…
「……っ… 」
そして無遠慮に心臓までも鷲掴む。
ドクっドクっドクっ
ドクっドクっドクっ
ドクっドクっドクっ
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