RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-1 人生の縁収率

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三ヶ月程前
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『ガシッ‼︎ 』
痛…ヒッ⁉︎

「ほら、誰だか言えっ」

粗雑に髪を引っ張られる痛みよりも、首筋を這う硬くて冷たい感触が私の全身を走る。

「…ぁ…っ、…… 」

身体が強張って言葉にならない。
お父様の指示で塩田の見回りに来ただけなのに何でこんな事に…

「ちっ、コイツは……何たら部長のスクーゾってのの娘だ。顔くらいは知ってんだろ?」

「…お前達、今更こんな事をしてどうする気だ?」

怪訝な表情を浮かべたクライオス副団長は、100人近い犯罪労働者達にそう言った。

「どうもこうもねぇッっ。たしかに俺らは罪を犯したけど……にしても酷ぇだろっ?あんまりじゃねぇかっっ」

「…フゥーー…何を言っているんだ?」

副団長リーグスがそう言って部下の人達を見るけれど、彼等も一様に首を振る。

「ザっケンじゃねぇぇェえっ」

…っ

「そうだふざけんなァっ」「俺達だって生きてるんだぞっ」「今まで真面目にやって来ただろうがぁぁっ」

私を掴む男が喉を引き千切らんばかりに叫ぶと、同じく犯罪労働者の男達は怒声を上げた。


「一つ、確かなのは… 」ザ、ザ、ザ…

「おいテメぇっ近づい… 」

「人質… 」ザザザンッーー『シュパッ』

え???

「…てっカ⁉︎ …カ… 」

「は重罪だ」

三歩…いえ四歩?
7mくらいの距離を一瞬で近付いた副団長リーグスが、知らぬ間に抜いた剣を一閃。

『ピっピピっ』

そして何かが降って来たと思った直後、掴まれていた髪が緩んで落ちる。

ドシャっ‼︎

「護衛を二人残し各自敵を討てッ」ダタタッ

そう言った副団長リーグスが空いている左手を後ろから前へ動かし私を追い越すと

「「「「「「「ハッ‼︎‼︎ 」」」」」」」

部下の衛士レィヴ達も一斉に走り出す。

でも多勢に無勢過ぎ…

「クソがぁぁーーっ」「ブッ殺せぇえ」「おぉぉオオっ」「やっちまえェッ」
「このやっギャぁぁーー… 」
「あがァァ… 」
ドタ、ドタ…

「ななな…っ、なんだよコイツはっ⁉︎ 無茶苦茶過ぎるぞおいぃ」

背後から上がる声に振り返った瞬間

ー√ 痛ッ‼︎

咄嗟に首筋に指先を当てる。
するとヌルと嫌な感触がした。

私は怨みがましい気持ちから足下へと視線を移す。

「…~っ… …~~… 」ビクンっ

まだ生きてる…

倒れた男は目を剥いたまま痙攣し、首から溢れ出る血が地面を黒く濡らしている。

「伏せろッ‼︎ 」
『ヒュヒュンヒュンッ‼︎ 』

ひィィ~~っ⁉︎ ザッ

『ヒュヒュヒュヒュンヒュンッ』

もう嫌ぁ~~っ

副団長リーグスの声で私も伏せる。

「ギャっ⁉︎ 」「何でっ、俺らごとグァァっ」
「うわァっ痛ぇっ」

『ガシッ‼︎ 』わぁ⁉︎
「人質確保ォっ」

私は無理矢理引っ張り起こされる。


ザザっザっザっ…
「……ん~~~、ん、ん、ってオイオイ、衛士レィヴは全員無事かよクソ」

「テメェら何しやがるっ‼︎ 」

怒鳴る犯罪労働者。

「いや、お前ら殺られそうだったから助太刀したんだろ?矢なんて敵にだけ当てれんし」

そう言って奥から出て来た男の背後には、武装した20人程の男達がいた。

「くそがっ、俺は降りるぜっ」「逃げたって捕まんぞっ」「おぉ、俺はとことんやってやる」
「ウルセーっやってられるかよクソっ」「逃げるぞっ」「けどっ… 」

「逃げたい奴は好きにすりゃいいぜぇ、ご苦労さん」

逃げ始める犯罪労働者と覚悟を決めた犯罪労働者とで場が混乱する中、新たに現れた男は気の抜けた返事で返した。


「アンタ俺達の周りから離れるなよ」
「は、ハイっ」

って退却しないの?

「アンタの護衛に付いていた第9隊のヤツらが負傷しているからな。そいつらを連れて退くよりも一気に蹴散らした方が早いし確実さ」

私の無言の訴えに気付いた衛士レィヴが自信満々に答えた。
理解した私は一人だけ前を突き進む副団長リーグスを見ると、彼は少しも怯むことなく後方の新手へと駆けていた。


「ハハハ、評判通り」

だけど先頭の男は不遜な感じに待ち構え、そして2人が交錯する瞬間

っ…

突然飛び出した人影が副団長リーグスを挟み込む。

ー『シュッ』ー『ヒュッ』

左右の挟撃っ

えっ⁉︎ 跳んだっ

クライオス副団長は傾けた身体で右側の袈裟斬りを逸らしつつ、左の横薙ぎを片足で横回転する様に跳んで躱した。

ザンッ
ー『ヒュンッ』
「殺ったァ‼︎ 」

けど危っ

『ギィィンッ‼︎ 』

着地した瞬間を斜め後ろから切りつけられた筈なのに、副団長リーグスの剣が頭の上でそれを阻んだ。

「ッっだよ、このタイミングを見もせず片手で防ぐんか」
『ギィィ…ギギ… 』
ヒュ
ブシャ
「クっ…ソ、噂通りの化け物、か…よっ」
ドタンっ

頭の上の剣を中心に副団長リーグスが回転すると、スルリと滑る様に野盗の脇を切り裂いた。

「ゼレットぉおっ、テメェっ」
『ギギィッ‼︎ 」

「ゼレット大丈夫かっ?」
「グぅぅぅ…これが大丈、夫に見える…か?」
「おい、早くゼレットを連れて行けっ」

斬られた男は担がれるようにして運ばれる。

「俺のこの…ザマを見ろ。冷静に…なれよっ、退けグっ… 」

「早く加勢し『ガキン、ギンッ』しろッ」

副団長リーグスに激しく攻め立てられる男が必死に叫ぶ。

「クソ、ジョウゴかガラの旦那でも居ればテメェらもよォォっ」ダダッ

呼ばれたもう一人が叫んで走り出す。

『ギンっ』『ガッ』「後ろだっ」
「ぐぁぁあぁっ」「ブッ殺せぇーーーっ」
「オラァァつ」ブシャァッ
「しまっ、ギャァ~~っ」

飛び交う声とぶつかり合う音。

ねぇ…
何でこんなことに巻き込まれてるの?


最悪の気分で見上げる頭上には、渦巻く様な重たい雲がいくつも佇んでいた。




ーーー
同時刻
ーーー



「逃すなァァーーッ」
「誰かその女を捕まえろぉーーーーっ」

後ろに続く隊の部下達が必死に叫ぶがしかし、ヤツは通りの人々をすり抜ける様に走り抜ける。

((え?)) ((何だ何だっ))
((団の衛士レィヴだっ))

それに街の人間は振り返るだけで動こうとはしない。

まぁ仕方がないが。

ダダッダッダタタッ
「ハァハァッ邪魔だ退けぇェっ退くんだっ、道を開けろォっ」

「うわっ⁉︎ 」「キャァっ」

ダタッダタッタタタッ
「ハァッハァッハァッ… 」

ん?

あれは…

「そこの守兵エィカーァーーーーっ、その女を捕まえるんだァーーーー」

騒ぎで駆け付けたらしい守兵エィカー3人に叫ぶ。

「グぁッ⁉︎ 」ドタぁ…
「このッ」「ちょっと待て… 」

が、1人は蹴り飛ばされ他は足止めにもならない。

このままでは…

ダタッダタタタッ
「ハァハァッハァッハァッ… 」

俺は街の門兵へと報せる警笛を手に取る。

ー√ ズキ…

だけど追い掛けているあの背中を見ていると、必死に逃げ回っていた子供の頃を思い出した。

ダッタタタッダタッ
「ハァハァハァッ、ハァ… 」

なのに今はこんな大人数で女1人捕まえようだなんて、トリアが見たらきっと怒るだろうな。

それにしても…

タタッザっザっザス…ザ…
「ハァハァっハァハァハァっ…ハハっ」

凄まじい早さだ。

警笛を握る手を下ろすと同時に力が抜け、そのままゆっくりと脚も止まる。

「ハァハァっ、副隊長?」
「ハァハァ…追わないので?」

それを見て息を荒げ続く部下達が不思議がる。

「…彼女を捕らえたとして、誰かが幸せになれると思うか?」

「「「「「……… 」」」」」

「あぁ…いや悪い、お前達はこのまま引き続き追ってくれ。俺は別に確認する事がある」

「「「「「ハッ」」」」」
ザダタタタッ

走り去る部下達を背に、歩き出すこの足はまた重くなる。








ーーーー
日本某所
ーーーー


sideヒロ

「スゴくなかった?」
「うん、つか主演の肉体美っ」
「「「分かるぅーーっ」」」

かしましい声がそこかしこで湧き立つ柔らかな深緑の絨毯を抜け、溢れる人波に流されながら映画館を出た僕は、興奮冷めやらぬままビルの巨大スクリーンを振り返る。


「…久し振りに映画館に来たけどさ、やっぱイイね、臨場感が全然違うよ」

「その割に普通だね?イマイチだった?」

大通りを行き交う車が動きを止め、聞き慣れた電子音と共に人の群れが交差する。

「いや面白かったよ、アクション凄かったし。でもあんま現実離れしてると入り込めなくなんだね。シロがあんなに好きだった漫画やアニメを観なくなったのが少し分かった」

半歩前で人混みをすり抜けていく背中にそう答えると

「大人になったじゃん?」

目深に被った帽子のツバ越しに、シロの涼しげな瞳が細まった。

「まぁね、僕も歳を取ったよ」

「けどこの映画の戦闘シーンの半分以上はリアルだからね、限界超えた人間の動きって凄いよ」

「流石に半分以上はないでしょ。人の頭まで飛び越えで壁を駆け上がるとかさ」
「まぁ後半はそうだろうけど、最初のアクションから跳躍は完全生みたいよ?まぁ世の中にはオレらの想像の枠を三つくらいハミ出す超人が居るんだよ。あ、ちょっとATM行って来るから待ってて」
「オッケ」

キャップの後ろから垂れる結んだ髪を揺らし、シロは小走りでコンビニへと向かった。

出不精のシロがワザワザ出向いた理由がそこであり、この映画の出演者たちは全員がアスリート兼格闘家兼俳優。
どの業界も時代と共にドンドン洗練されますなぁ…


「飯なんにする?」「あ~っと、もうすぐ着きますんでっ」

ハーパンの大学生たちにネクタイが踊るほど足早なサラリーマン。

「…んでさ~」「アハハっウソぉ?」

でもって次は小綺麗な格好の女の子ら。

本格的に点り始めた色取り取りの誘蛾灯ネオンと、食欲をそそる燻された香りに誘われて、様々な人種が飲食街へと吸い寄せられる。

良いね、この雰囲気。
顔も知らない同士なんだけど、僕も含め皆んなが持つこの開放感が。


「……、………、……… 」

けどなぁ、最近治安が悪いんだよなぁこの辺。
先々月もリンチ殺人があったばっかだし…


「……、…っ⁉︎」

あれは…

僕でも知ってる劇薬指定人物ニッキ。
殺人未遂で捕まったって噂だったけど、何でもう出て来てんの?


「ふぅーーー… 」

気にするな、僕は空気。
つかシロ早よ。

ザ、ザ…
「なぁお前、さっきからこっち見てたよな?」
「へ?」

突然かけられた声に視線を上げると、見たこともない金髪ツンツン頭の武闘派ぽっちゃりさんが、タトゥーびっしりの腕に血管を浮かべ僕を見下ろしていた。









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