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第一章 渦
2話:渦潮丸と少女
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担任に追い出された凪花はトボトボと歩いていた。言われた言葉の圧、クラスメイトの心の無い笑い声、心配する親友の顔、全てが凪花にとって辛い屈辱であった。
「――なんで私はあんな事を――」
すると、凪花の目から透けた雫が流れ、頬を伝いながら、地面へ雨のようにぽたぽたと落ちていく。凪花はランドセルの重さを感じていたからか、何か心の底の靄が晴れていないのか、走る気力が無かった。陽は天辺で煌めき輝く時刻、商店街は専業主婦や店で働く者が外を行き交う商店街で、小学生である筈の凪花が居るのは違和感があった。その違和感も凪花の心の靄を肥大させるものであった。すると、専業主婦達の声が凪花の耳に届く。
「ねぇ、噂になっている不審者ね。脱獄した性犯罪者なんだって」
「何それ、怖いわねぇ」
「しかも、強姦罪を犯したんだって」
「嫌ねぇ、うちの子が襲われなきゃ良いんだけど――」
それを聞いた凪花は、思い至る節があった。
(さっき感じた気配って――、いや、私の杞憂ですよね――。――犯罪を犯さなければ平和に暮らせるのに、何でそんな事をしてしまうのでしょうか)
そう思い、商店街を抜け出そうと、凪花はスタスタと歩いて行った。
凪花が行き着いた場所は住宅街である筈が、心做しか人気が無かった。凪花は少し不安と畏怖を覚えた。
「もしあの気配が此処でしたらどうしよう。誰も助けてくれないのに――」
そんな事を思っていた。その不安な妄想は現実の出来事へと接続してしまった。凪花はまたあの気配を感じた。凪花の感情は〈畏怖〉というものに満たされていった。
(あの気配がまた――もしかして、私を狙って――)
すると、凪花はその気配が感じる場所が後ろである事を察して振り向くと、向こうから囚人服を着た男性がこっちへと向かってくる。凪花はその囚人服を見た時、無意識に右側の道路へと走っていく。
(いや! 嫌だ! 何で私だけ! 何で!)
恐怖心と防衛本能に囚われていた凪花に振り向く事は出来なかった。〈もしかしたら自分の傍まで来ているかもしれない〉という不安から、憂鬱であったのにも関わらず、彼女は全力疾走で犯人から逃げる事に専念した。涙は後方へと飛んでいく。凪花の瞳はうるうると潤っていた。すると、幻聴が聞こえる。
『助けて欲しいか?』
(誰? 誰なの――?)
『そんな事はどうでも良い。お前さんの目の前にある山に逃げろ。俺は其処で待っている』
(山? 何で?)
『――取り敢えずお前さんを誘導せねばならんな。あの強姦魔にくれぐれも捕まるんじゃねえぞ』
すると、凪花から幻聴が去っていく。すると、凪花の目の前はいつの間にか山の前に居た。
(もしかしたら此処に行けば助かるかもしれない。ええい! 一か八か!)
凪花は山の中へ入っていった。
山の中は木々が生い茂り、苔が其処ら中に生えていた。凪花は自分自身の勘で山の中を駆け巡る。昨日は雨の日だったのか、地面が湿っていて、凪花は気を付けなければ転んでしまいそうな感覚に襲われる。然し、走る速度を落とせば捕まってしまうかもしれないという恐怖に駆られ、泥と化した地面の上で必死に凪花は山の中を走る。(お願いします。もう嫌な思いはしたくない)
すると、凪花は山奥へと行き着き、その山奥には巨岩が存在し、巨岩には錆びた打刀が刺さっていた。打刀の下にはその打刀のものであろう鞘が落ちていた。すると、あの幻聴がまた凪花の耳に響いた。
『その刀を持って戦え、凪花よ!』
すると、凪花は辺りを見渡す。まだ強姦魔は此処にはやって来ていなかった。凪花はすーっと近付き、革巻の錆びた打刀の柄を握る。すると、すんなりと凪花はその打刀を抜く事が出来た。然し、刃の部分は全て酸化還元反応という自然の摂理によって錆に侵食されていた。
「こ――こんなのでどう戦えって言うんですか。錆びてたら意味が――」
凪花が思い悩んでいると、強姦魔がやってくる。
(――これは一か八か、覚悟を決めて私の人生を賭けるしかない)
凪花はそう思うと、強姦魔に錆びた刀を突き付ける。強姦魔は凪花の行動にあまりのおかしさに嘲笑してしまう。
「ぎゃははははははははは! そんな錆びた刀で俺に勝てると思ってんのか、この馬鹿娘!」
(――自分が大人で私が子どもだからって、――刀が錆びているからって! 嗤わないでください!)
凪花はそんな嘲笑に内心に腹を立てたが、その感情は刹那として薄れていった。刀から男性の声がする。
『この日を! 待ち続けたぞ! フハハハハハハハ!』
すると、さっきまで錆で覆われていた刀が急に輝きを生み出すと、刀から錆が消えていた。そして、刃には渦を描く荒波のような刃文が刻まれていた。
「これって、あの――!」
「な、何で! どういう事だよクソ野郎! 何で錆が無くなってんだよぉ!」
すると、渦潮丸は凪花に向かって言う。
『久しぶりだな、弥生凪花よ。我が刀を探す事が出来るとは、流石は我が部下の子孫だ』
「も、もしかして――! 貴方が――!」
『嗚呼、もしかするとそうかもな』
すると、強姦魔は常備していたナイフを凪花に向ける。
「これ以上近付くと、傷付きますよ! 情状酌量の余地です、もう追わないでください!」
「この雌ガキ! 刀を持とうがお前は子どもだ! 俺に勝てると思うなよ!」
すると、渦潮丸は溜息を吐いて言う。
『此奴は一体何だ。まあいい、此奴で我を試してみろ』
「え!? でも――、人間相手には――」
『まあ後で分かる』
そうこうしている内に強姦魔は凪花に襲い掛かる。
「その刀持てないように腕切り落としてやるよぉ!」
『まずは此奴の攻撃を防げ』
すると、凪花は反射的にそのナイフの刃を刀で弾き飛ばしていた。
「は? 俺のナイフがどうして負けるんだよ」
『刀というものが分かっていないみたいだな。――全く、戦も無いつまんない世の中だな。まあ良い、此奴の体躯を切れ』
「え!? 人を斬れって事ですか!? そんな事――!」
『そんなに穢れたいのか?』
「それは――」
『じゃあ斬るんだな』
「で、でも!」
『――めんどくせぇ奴だな』
すると、凪花は無意識に身体を操られる感覚に陥る。凪花の身体が徐々に強姦魔の方へと向かっていく。
「や、やってやろうじゃねえか! 後悔してやるよガキ!」
然し、強姦魔は凪花が躊躇していた間にナイフを拾っていた。ナイフを持つ手は震えていた。それでも、凪花は絶望と恐怖でいっぱいだった。そして、凪花が目を瞑った時、〈ザシュッ!〉という刃物が物を斬る音がすると、ジョバババァーと液体が流れる音と共に強姦魔の叫び声が凪花の耳に響く。凪花が目を開くと、渦潮丸は強姦魔の傷から螺旋を描くように血を巻き取っていく。強姦魔は断末魔の叫びが凪花の鼓膜に響いていく。
「うぎゃあああがああああああああぁあああ! だずげでぐれぇえええええええええ! 血が! 俺の血があぁああああ!」
そして、強姦魔はそんな言葉を叫ぶと、ドサッと地面へ倒れ、人の形をした肉の塊と化した。凪花は起きた事全てに動揺を隠せなかった。
「こ、殺しちゃった。私が――人を――殺しちゃった――。どうしよう、私まだ小学生なのに――まだ人生長いのに――捕まっちゃう――」
『人を殺した? 馬鹿言うな』
そんな浅はかな言葉を吐く渦潮丸に対して、凪花は怒りを見せた。
「何を言ってるんですか! 人を殺したんですよ! ――皆から迫害される。私、犯罪者になっちゃったんだ」
『ぐふ、ガハハハハハハハハハハハハハ!』
「な、何を笑っているんですか! 笑い事じゃないですよ! 人を殺しちゃったんですよ! 私が貴方で――人を! 誰かに見られたら――」
『よく見ておれ、こいつが変わっていくようすをな』
すると、ぐにゅぐにゅと強姦魔の肉体が変化すると、其処には悪そうな顔をする鬼が居た。
「な、何ですか? これ――」
『此奴は悪鬼だよ』
それを聞いた凪花は動揺する。
「あ、悪鬼!? 此れ悪鬼なんですか!?」
『鬼の末裔であるお前なら分かるだろ、お前は彼奴から何かを感じただろ? あれは悪事を働く妖怪にしか出ない気配だ』
「じゃあ――、あの異様な気配は妖怪から出る悪意ですか?」
『まあそういう事だ。そして、それを感じ取る者は妖魔を討つ者としての素質がある』
「――私には、退魔師としての素質が――」
『話が早くて助かるな。まあ経験も積めばどんな強敵も倒せるようになるだろ』
「――でも、私にはそんな勇気がありません」
それを聞いた渦潮丸は溜息を吐くと、凪花にこう言った。
『良いか、もしお前さんの大事な人が妖怪に襲われたらどうする?』
「――それは」
凪花は思い留まった。凪花には大事な妹が居る。大事な妹を守る為ならどうなっても良いと思っていた。そんな妹が妖怪に襲われていたら、凪花は身を挺して守るだろう。然し、〈それが無力な自分には太刀打ちできない相手だったら〉と考えた凪花は拒む事が出来なかった。
『助けたいだろ? だが、経験も無い腕も上達していないお前さんにその妖怪に立ち向かえるのか?』
「――無理です」
『――それもそうか、ただの一般人が妖怪に勝てるわけないもんな。じゃあお前さんに訊こう。特訓して退魔師になって人々を救うか、それとも無力な娘の儘大事な人を見殺しにして妖怪に嬲られ殺されるか――』
凪花は固唾を飲んで、人生を懸けて決心した。
「私は――退魔師になって人々を救います!」
すると、渦潮丸は愉快そうに笑った。
『フハハハハハ! そうだな! その度胸だ! 気に入ったぞ! 弥生凪花!』
こうして、凪花の英雄譚が幕を開けた――。
「――なんで私はあんな事を――」
すると、凪花の目から透けた雫が流れ、頬を伝いながら、地面へ雨のようにぽたぽたと落ちていく。凪花はランドセルの重さを感じていたからか、何か心の底の靄が晴れていないのか、走る気力が無かった。陽は天辺で煌めき輝く時刻、商店街は専業主婦や店で働く者が外を行き交う商店街で、小学生である筈の凪花が居るのは違和感があった。その違和感も凪花の心の靄を肥大させるものであった。すると、専業主婦達の声が凪花の耳に届く。
「ねぇ、噂になっている不審者ね。脱獄した性犯罪者なんだって」
「何それ、怖いわねぇ」
「しかも、強姦罪を犯したんだって」
「嫌ねぇ、うちの子が襲われなきゃ良いんだけど――」
それを聞いた凪花は、思い至る節があった。
(さっき感じた気配って――、いや、私の杞憂ですよね――。――犯罪を犯さなければ平和に暮らせるのに、何でそんな事をしてしまうのでしょうか)
そう思い、商店街を抜け出そうと、凪花はスタスタと歩いて行った。
凪花が行き着いた場所は住宅街である筈が、心做しか人気が無かった。凪花は少し不安と畏怖を覚えた。
「もしあの気配が此処でしたらどうしよう。誰も助けてくれないのに――」
そんな事を思っていた。その不安な妄想は現実の出来事へと接続してしまった。凪花はまたあの気配を感じた。凪花の感情は〈畏怖〉というものに満たされていった。
(あの気配がまた――もしかして、私を狙って――)
すると、凪花はその気配が感じる場所が後ろである事を察して振り向くと、向こうから囚人服を着た男性がこっちへと向かってくる。凪花はその囚人服を見た時、無意識に右側の道路へと走っていく。
(いや! 嫌だ! 何で私だけ! 何で!)
恐怖心と防衛本能に囚われていた凪花に振り向く事は出来なかった。〈もしかしたら自分の傍まで来ているかもしれない〉という不安から、憂鬱であったのにも関わらず、彼女は全力疾走で犯人から逃げる事に専念した。涙は後方へと飛んでいく。凪花の瞳はうるうると潤っていた。すると、幻聴が聞こえる。
『助けて欲しいか?』
(誰? 誰なの――?)
『そんな事はどうでも良い。お前さんの目の前にある山に逃げろ。俺は其処で待っている』
(山? 何で?)
『――取り敢えずお前さんを誘導せねばならんな。あの強姦魔にくれぐれも捕まるんじゃねえぞ』
すると、凪花から幻聴が去っていく。すると、凪花の目の前はいつの間にか山の前に居た。
(もしかしたら此処に行けば助かるかもしれない。ええい! 一か八か!)
凪花は山の中へ入っていった。
山の中は木々が生い茂り、苔が其処ら中に生えていた。凪花は自分自身の勘で山の中を駆け巡る。昨日は雨の日だったのか、地面が湿っていて、凪花は気を付けなければ転んでしまいそうな感覚に襲われる。然し、走る速度を落とせば捕まってしまうかもしれないという恐怖に駆られ、泥と化した地面の上で必死に凪花は山の中を走る。(お願いします。もう嫌な思いはしたくない)
すると、凪花は山奥へと行き着き、その山奥には巨岩が存在し、巨岩には錆びた打刀が刺さっていた。打刀の下にはその打刀のものであろう鞘が落ちていた。すると、あの幻聴がまた凪花の耳に響いた。
『その刀を持って戦え、凪花よ!』
すると、凪花は辺りを見渡す。まだ強姦魔は此処にはやって来ていなかった。凪花はすーっと近付き、革巻の錆びた打刀の柄を握る。すると、すんなりと凪花はその打刀を抜く事が出来た。然し、刃の部分は全て酸化還元反応という自然の摂理によって錆に侵食されていた。
「こ――こんなのでどう戦えって言うんですか。錆びてたら意味が――」
凪花が思い悩んでいると、強姦魔がやってくる。
(――これは一か八か、覚悟を決めて私の人生を賭けるしかない)
凪花はそう思うと、強姦魔に錆びた刀を突き付ける。強姦魔は凪花の行動にあまりのおかしさに嘲笑してしまう。
「ぎゃははははははははは! そんな錆びた刀で俺に勝てると思ってんのか、この馬鹿娘!」
(――自分が大人で私が子どもだからって、――刀が錆びているからって! 嗤わないでください!)
凪花はそんな嘲笑に内心に腹を立てたが、その感情は刹那として薄れていった。刀から男性の声がする。
『この日を! 待ち続けたぞ! フハハハハハハハ!』
すると、さっきまで錆で覆われていた刀が急に輝きを生み出すと、刀から錆が消えていた。そして、刃には渦を描く荒波のような刃文が刻まれていた。
「これって、あの――!」
「な、何で! どういう事だよクソ野郎! 何で錆が無くなってんだよぉ!」
すると、渦潮丸は凪花に向かって言う。
『久しぶりだな、弥生凪花よ。我が刀を探す事が出来るとは、流石は我が部下の子孫だ』
「も、もしかして――! 貴方が――!」
『嗚呼、もしかするとそうかもな』
すると、強姦魔は常備していたナイフを凪花に向ける。
「これ以上近付くと、傷付きますよ! 情状酌量の余地です、もう追わないでください!」
「この雌ガキ! 刀を持とうがお前は子どもだ! 俺に勝てると思うなよ!」
すると、渦潮丸は溜息を吐いて言う。
『此奴は一体何だ。まあいい、此奴で我を試してみろ』
「え!? でも――、人間相手には――」
『まあ後で分かる』
そうこうしている内に強姦魔は凪花に襲い掛かる。
「その刀持てないように腕切り落としてやるよぉ!」
『まずは此奴の攻撃を防げ』
すると、凪花は反射的にそのナイフの刃を刀で弾き飛ばしていた。
「は? 俺のナイフがどうして負けるんだよ」
『刀というものが分かっていないみたいだな。――全く、戦も無いつまんない世の中だな。まあ良い、此奴の体躯を切れ』
「え!? 人を斬れって事ですか!? そんな事――!」
『そんなに穢れたいのか?』
「それは――」
『じゃあ斬るんだな』
「で、でも!」
『――めんどくせぇ奴だな』
すると、凪花は無意識に身体を操られる感覚に陥る。凪花の身体が徐々に強姦魔の方へと向かっていく。
「や、やってやろうじゃねえか! 後悔してやるよガキ!」
然し、強姦魔は凪花が躊躇していた間にナイフを拾っていた。ナイフを持つ手は震えていた。それでも、凪花は絶望と恐怖でいっぱいだった。そして、凪花が目を瞑った時、〈ザシュッ!〉という刃物が物を斬る音がすると、ジョバババァーと液体が流れる音と共に強姦魔の叫び声が凪花の耳に響く。凪花が目を開くと、渦潮丸は強姦魔の傷から螺旋を描くように血を巻き取っていく。強姦魔は断末魔の叫びが凪花の鼓膜に響いていく。
「うぎゃあああがああああああああぁあああ! だずげでぐれぇえええええええええ! 血が! 俺の血があぁああああ!」
そして、強姦魔はそんな言葉を叫ぶと、ドサッと地面へ倒れ、人の形をした肉の塊と化した。凪花は起きた事全てに動揺を隠せなかった。
「こ、殺しちゃった。私が――人を――殺しちゃった――。どうしよう、私まだ小学生なのに――まだ人生長いのに――捕まっちゃう――」
『人を殺した? 馬鹿言うな』
そんな浅はかな言葉を吐く渦潮丸に対して、凪花は怒りを見せた。
「何を言ってるんですか! 人を殺したんですよ! ――皆から迫害される。私、犯罪者になっちゃったんだ」
『ぐふ、ガハハハハハハハハハハハハハ!』
「な、何を笑っているんですか! 笑い事じゃないですよ! 人を殺しちゃったんですよ! 私が貴方で――人を! 誰かに見られたら――」
『よく見ておれ、こいつが変わっていくようすをな』
すると、ぐにゅぐにゅと強姦魔の肉体が変化すると、其処には悪そうな顔をする鬼が居た。
「な、何ですか? これ――」
『此奴は悪鬼だよ』
それを聞いた凪花は動揺する。
「あ、悪鬼!? 此れ悪鬼なんですか!?」
『鬼の末裔であるお前なら分かるだろ、お前は彼奴から何かを感じただろ? あれは悪事を働く妖怪にしか出ない気配だ』
「じゃあ――、あの異様な気配は妖怪から出る悪意ですか?」
『まあそういう事だ。そして、それを感じ取る者は妖魔を討つ者としての素質がある』
「――私には、退魔師としての素質が――」
『話が早くて助かるな。まあ経験も積めばどんな強敵も倒せるようになるだろ』
「――でも、私にはそんな勇気がありません」
それを聞いた渦潮丸は溜息を吐くと、凪花にこう言った。
『良いか、もしお前さんの大事な人が妖怪に襲われたらどうする?』
「――それは」
凪花は思い留まった。凪花には大事な妹が居る。大事な妹を守る為ならどうなっても良いと思っていた。そんな妹が妖怪に襲われていたら、凪花は身を挺して守るだろう。然し、〈それが無力な自分には太刀打ちできない相手だったら〉と考えた凪花は拒む事が出来なかった。
『助けたいだろ? だが、経験も無い腕も上達していないお前さんにその妖怪に立ち向かえるのか?』
「――無理です」
『――それもそうか、ただの一般人が妖怪に勝てるわけないもんな。じゃあお前さんに訊こう。特訓して退魔師になって人々を救うか、それとも無力な娘の儘大事な人を見殺しにして妖怪に嬲られ殺されるか――』
凪花は固唾を飲んで、人生を懸けて決心した。
「私は――退魔師になって人々を救います!」
すると、渦潮丸は愉快そうに笑った。
『フハハハハハ! そうだな! その度胸だ! 気に入ったぞ! 弥生凪花!』
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