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六章
アリアと名付けられた少女とアリアと名付けられた女性 その6
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この冷たい空気感の迷宮よりもなおも冷たい心を持つ存在。
いや、心なんか最初からなかったのかも知れない。
とっくの昔に《古代の遺産》にその心や思考を食い荒らされていたのだろう。
もうハッキリと魔女と化したセリアは半身を起こした状態で《光撃の杖》の頭の部分をアリアたちに向けていた。
一気に間合いを詰めて何かしらを企んでいたキョウは、その間合いを詰めただけに留まっていた。
「てめえっ!」
あからさまな怒りがその顔に出るキョウ。
そんな彼を目の当たりにして、セリアはふっとした笑みを口元に浮かべた。
「『時空のコンパス』も出せず、貴様にもかなわず…。もうこうなればお前の仲間を道ずれにするしかない…というわけじゃ…」
「なんて往生際の悪い…!」
憎々しげにエリックは言う。
「…にしても相変わらず甘いことよ。ここであの仲間たちを見捨てるか…それともこの娘を諦めれば良いだけのことではないか、ん?」
小馬鹿にでもするような口調でセリアは言い、そして、立ち上がる。
「まだ分からぬか? お前では私を倒すことは出来ぬ! 何しろこの娘を無事に助けることに固執しているからじゃ。それを証拠にお前は素手ではないか? 娘の身など関係ない。このクロノスフィアを破壊するだけならば、お前は何かしらの得物を手にしていたはず。だが、お前はそれをしていない。つまりは私を倒すことは出来ない…というわけじゃな?」
ジリジリとキョウの気持ちを締め付けるかのようにセリアは言った。
確かに彼女の言うとおり欲張りすぎかも知れない。
キョウからしてみれば、自分たちなどは見捨ててもおかしくない関係に留まっている。まだ出会って間もない冒険者よりも自身の深い知人を大切にしてもなんら不思議ではなかった。
でもそれをしない。
おかしいと言えばそれまでだが、それがこのキョウという人間の人間たらしめる性質なのかも知れなかった。
「人間とはおかしな生き物よ。自分ではないものに命をかけようとするとはな」
杖の頭の部分に光が集う。
「なっ!?」
そこにいた皆が驚いた表情。
まさか撃つのか。だがしかし、撃ってしまえばもうアリアたちを人質とすることは出来ない。
いや、だが、セリア自身を人質としていると考えるならば、撃ってくる可能性は。
とそこまでアリアは考えた時だった。
杖の頭の部分から光球は離れていた。
「こいつ…!」
キョウが一つ叫んでいた。
アリアは思わず目をつむっていた。
誰かが地面を蹴る音がして、その直後、光の球は何かに当たって炸裂し、とてつもない光量の明かりをまき散らした。
「キョウっ!」
アリアが甲高い悲鳴を上げた。
アリアたちの前にキョウは身を躍らせていた。
彼は彼女たちをかばったのだ。
やけにゆっくりとした動作でキョウが目の前で倒れた気がした。
そのまま彼はアリアたちに背中を向けたまま動かなくなった。
「…ああ…!」
なにを言って良いのか分からない。
ただアリアの口からはそんな言葉が漏れただけだった。
また仲間を失った。
どうして自分をかばってみんな死んでいくのだろう。
悲しみのあとに、またしても胃の奥からこみ上げてくるものを感じた。
「死んだか…」
ただそれだけをセリアは言っていた。
またあの冷たい表情のまま、すっかりと動かなくなったキョウにセリアは近づいていくのだった。
いや、心なんか最初からなかったのかも知れない。
とっくの昔に《古代の遺産》にその心や思考を食い荒らされていたのだろう。
もうハッキリと魔女と化したセリアは半身を起こした状態で《光撃の杖》の頭の部分をアリアたちに向けていた。
一気に間合いを詰めて何かしらを企んでいたキョウは、その間合いを詰めただけに留まっていた。
「てめえっ!」
あからさまな怒りがその顔に出るキョウ。
そんな彼を目の当たりにして、セリアはふっとした笑みを口元に浮かべた。
「『時空のコンパス』も出せず、貴様にもかなわず…。もうこうなればお前の仲間を道ずれにするしかない…というわけじゃ…」
「なんて往生際の悪い…!」
憎々しげにエリックは言う。
「…にしても相変わらず甘いことよ。ここであの仲間たちを見捨てるか…それともこの娘を諦めれば良いだけのことではないか、ん?」
小馬鹿にでもするような口調でセリアは言い、そして、立ち上がる。
「まだ分からぬか? お前では私を倒すことは出来ぬ! 何しろこの娘を無事に助けることに固執しているからじゃ。それを証拠にお前は素手ではないか? 娘の身など関係ない。このクロノスフィアを破壊するだけならば、お前は何かしらの得物を手にしていたはず。だが、お前はそれをしていない。つまりは私を倒すことは出来ない…というわけじゃな?」
ジリジリとキョウの気持ちを締め付けるかのようにセリアは言った。
確かに彼女の言うとおり欲張りすぎかも知れない。
キョウからしてみれば、自分たちなどは見捨ててもおかしくない関係に留まっている。まだ出会って間もない冒険者よりも自身の深い知人を大切にしてもなんら不思議ではなかった。
でもそれをしない。
おかしいと言えばそれまでだが、それがこのキョウという人間の人間たらしめる性質なのかも知れなかった。
「人間とはおかしな生き物よ。自分ではないものに命をかけようとするとはな」
杖の頭の部分に光が集う。
「なっ!?」
そこにいた皆が驚いた表情。
まさか撃つのか。だがしかし、撃ってしまえばもうアリアたちを人質とすることは出来ない。
いや、だが、セリア自身を人質としていると考えるならば、撃ってくる可能性は。
とそこまでアリアは考えた時だった。
杖の頭の部分から光球は離れていた。
「こいつ…!」
キョウが一つ叫んでいた。
アリアは思わず目をつむっていた。
誰かが地面を蹴る音がして、その直後、光の球は何かに当たって炸裂し、とてつもない光量の明かりをまき散らした。
「キョウっ!」
アリアが甲高い悲鳴を上げた。
アリアたちの前にキョウは身を躍らせていた。
彼は彼女たちをかばったのだ。
やけにゆっくりとした動作でキョウが目の前で倒れた気がした。
そのまま彼はアリアたちに背中を向けたまま動かなくなった。
「…ああ…!」
なにを言って良いのか分からない。
ただアリアの口からはそんな言葉が漏れただけだった。
また仲間を失った。
どうして自分をかばってみんな死んでいくのだろう。
悲しみのあとに、またしても胃の奥からこみ上げてくるものを感じた。
「死んだか…」
ただそれだけをセリアは言っていた。
またあの冷たい表情のまま、すっかりと動かなくなったキョウにセリアは近づいていくのだった。
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