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六章
アリアと名付けられた少女とアリアと名付けられた女性 その4
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「ハーッハハハハハっ! ざまーねぇなこいつ!」
非常に高らかかつ、侮蔑的な意味合いを込めた笑い声が迷宮内に響き渡った。
その笑い声の大きさたるや、この迷宮を作った何者がですら椅子から転げ落ちてしまいそうなくらいの声量だった。
たった今、クロノスフィアとしての本性をあらわにしたセリアが召還した『時空のコンパス』は一瞬で破壊された。
案外それはもろく、エリックの長剣の刺突だけで、あえなく砕け散っていたのだ。
「お前はすぐにこいつ頼みだからな! それは前の戦いで学習済みだ! しかもコンパスを召還するのは時間がかかる。こっちは三人だぜ? 一人は動けないにしてもな!」
明らかに優位性はこちら側にあると言うことだ。
「しかもその《光撃の杖》は範囲を絞れば威力は大きくなるが、反対に範囲を広げれば、ほとんど相手を傷つけることは出来ねぇ! 手の内全部、以前に晒しちまったお前には勝ち目はないぜ! つーか今度は飛ばされねぇし、逃がしもしねえ!」
宣言するように言って、あくまで無手勝流でキョウは構えていた。
「くっ! おのれぇっ!」
憎々しげに言う。セリアはギリギリと歯ぎしりしそうな表情であった。
◆◇◆
本日もその店、《肉の宮殿》には多くの客がいた。
とは言っても、それは店の客であると同時にいつもの午後から始まるパウゼッタ商会の主人であるリーランドの話を聞きたい彼の客でもあった。
「…ブレイトハートってのはな。どういう家に生まれたと思う?」
彼はいつもの調子で聴衆たちに問いかける。
「やっぱり騎士…とかなんじゃないのか?」
「そういえばあんまりブレイトハートの出自って聞かないよな?」
皆は顔を合わせて思い思いを口にしていた。
「ブレイトハートの家は武術の大家なのさ。彼は各国騎士たちにも指導をしていた名のある武術家の息子なのさ。戦場ではありとあらゆる状況が騎士たちを襲う。もしかしたらなんらかの理由で素手で戦う羽目になることもある。ブレイトハートの父親はそんなときに対処する術を教える役割の人だった」
「へぇー…」
「…まあ、兵法家とでも言うべきかな? 素手で相手の武器を奪うなんてお手の物だぞ。ほら、あのアルカディア王女が閉じ込められていた塔かな? あの衛兵なんか次々と素手で倒していたからな」
「えっ? オヤジさんあの時いたのかよ!」
「ああ。その時に単身で相手の武器を奪っては倒し、奪っては倒し…。まるで、手品かなにかを見せられているような感じだった」
「そういえば、その時の話って詩とかにもなってないわよね? そんなに凄いのにどうしてなの?」
一人の女性が問うたる
確かにその部分ははしょられている。
ただ、伝承では「ブレイトハートは王女を助けた」という感じでさらりと流されている。
リーランドはそれを聞いてからからと笑っていた。そして、そのあとでこう言った。
「それは簡単な話だよ、お嬢さん。本当のことを話してもあまりに嘘くさいから誰も詩に出来なかったんだ。そういったことがあいつにはたくさんある」
話としてそれが事実であっても、中々に信じがたいことはある。それを話してしまえばかえって胡散臭くなる。一つが胡散臭くなると全部がそう見えてくるのだ。そして、そうなってしまえば、ブレイトハートが実に凄い人物であっても、詩人たちにはまったく価値のない存在になり得てしまうからだ。
「それになブレイトハートってのは素手だけじゃない。なんでも使う」
「なんでも? でも言われてみたら確かに話を聞いても詩を聴いても、ブレイトハートっていつも違う武器を使っている気がするな?」
「そう。まあ、本来勇者や英雄は星の数ほどいるが、同じ武器をずっと使い続けているものは実はごくわずかだ。常に相手や状況に合わせて異なる道具を使う。まあ、同じものですべて対処するのも凄いが、的確に相手になにが有効かを見極めるのもまた凄いことだ。ブレイトハートはその点が卓越していた」
「つまりはどういうこと?」
「ああ。つまりはなんでも使うということだよ。そう…。あいつは本当に何でも使う。たとえばここで戦いが始まったなら、ここにある卓から皿から、はたまたこの肉がこびりついている骨まで使う男だったのだよ…」
リーランドはそこまで言うと、わずかに目を細めていた。
◆◇◆
《光撃の杖》の光球が発せられた。
キョウはいつの間にか手にしていた手頃な大きさの石つぶてをその光球に向かって投げると、光球はあえなく石に当たって砕け散った。
凄まじい光が生まれるが、その瞬間、キョウは自らの目に腕を当てて光が目に入らないように対処していた。
やがて光が収まると、セリアは杖でじかにキョウを殴ろうとした。
しかし、彼はそれを身を低くして避けると、そのまま彼女の軽い身体に当て身を食らわせたのだった。
胃の辺りにキョウの拳がめり込む。
セリアはその美しい顔をひどく醜く歪ませながら吹っ飛んでいった。
非常に高らかかつ、侮蔑的な意味合いを込めた笑い声が迷宮内に響き渡った。
その笑い声の大きさたるや、この迷宮を作った何者がですら椅子から転げ落ちてしまいそうなくらいの声量だった。
たった今、クロノスフィアとしての本性をあらわにしたセリアが召還した『時空のコンパス』は一瞬で破壊された。
案外それはもろく、エリックの長剣の刺突だけで、あえなく砕け散っていたのだ。
「お前はすぐにこいつ頼みだからな! それは前の戦いで学習済みだ! しかもコンパスを召還するのは時間がかかる。こっちは三人だぜ? 一人は動けないにしてもな!」
明らかに優位性はこちら側にあると言うことだ。
「しかもその《光撃の杖》は範囲を絞れば威力は大きくなるが、反対に範囲を広げれば、ほとんど相手を傷つけることは出来ねぇ! 手の内全部、以前に晒しちまったお前には勝ち目はないぜ! つーか今度は飛ばされねぇし、逃がしもしねえ!」
宣言するように言って、あくまで無手勝流でキョウは構えていた。
「くっ! おのれぇっ!」
憎々しげに言う。セリアはギリギリと歯ぎしりしそうな表情であった。
◆◇◆
本日もその店、《肉の宮殿》には多くの客がいた。
とは言っても、それは店の客であると同時にいつもの午後から始まるパウゼッタ商会の主人であるリーランドの話を聞きたい彼の客でもあった。
「…ブレイトハートってのはな。どういう家に生まれたと思う?」
彼はいつもの調子で聴衆たちに問いかける。
「やっぱり騎士…とかなんじゃないのか?」
「そういえばあんまりブレイトハートの出自って聞かないよな?」
皆は顔を合わせて思い思いを口にしていた。
「ブレイトハートの家は武術の大家なのさ。彼は各国騎士たちにも指導をしていた名のある武術家の息子なのさ。戦場ではありとあらゆる状況が騎士たちを襲う。もしかしたらなんらかの理由で素手で戦う羽目になることもある。ブレイトハートの父親はそんなときに対処する術を教える役割の人だった」
「へぇー…」
「…まあ、兵法家とでも言うべきかな? 素手で相手の武器を奪うなんてお手の物だぞ。ほら、あのアルカディア王女が閉じ込められていた塔かな? あの衛兵なんか次々と素手で倒していたからな」
「えっ? オヤジさんあの時いたのかよ!」
「ああ。その時に単身で相手の武器を奪っては倒し、奪っては倒し…。まるで、手品かなにかを見せられているような感じだった」
「そういえば、その時の話って詩とかにもなってないわよね? そんなに凄いのにどうしてなの?」
一人の女性が問うたる
確かにその部分ははしょられている。
ただ、伝承では「ブレイトハートは王女を助けた」という感じでさらりと流されている。
リーランドはそれを聞いてからからと笑っていた。そして、そのあとでこう言った。
「それは簡単な話だよ、お嬢さん。本当のことを話してもあまりに嘘くさいから誰も詩に出来なかったんだ。そういったことがあいつにはたくさんある」
話としてそれが事実であっても、中々に信じがたいことはある。それを話してしまえばかえって胡散臭くなる。一つが胡散臭くなると全部がそう見えてくるのだ。そして、そうなってしまえば、ブレイトハートが実に凄い人物であっても、詩人たちにはまったく価値のない存在になり得てしまうからだ。
「それになブレイトハートってのは素手だけじゃない。なんでも使う」
「なんでも? でも言われてみたら確かに話を聞いても詩を聴いても、ブレイトハートっていつも違う武器を使っている気がするな?」
「そう。まあ、本来勇者や英雄は星の数ほどいるが、同じ武器をずっと使い続けているものは実はごくわずかだ。常に相手や状況に合わせて異なる道具を使う。まあ、同じものですべて対処するのも凄いが、的確に相手になにが有効かを見極めるのもまた凄いことだ。ブレイトハートはその点が卓越していた」
「つまりはどういうこと?」
「ああ。つまりはなんでも使うということだよ。そう…。あいつは本当に何でも使う。たとえばここで戦いが始まったなら、ここにある卓から皿から、はたまたこの肉がこびりついている骨まで使う男だったのだよ…」
リーランドはそこまで言うと、わずかに目を細めていた。
◆◇◆
《光撃の杖》の光球が発せられた。
キョウはいつの間にか手にしていた手頃な大きさの石つぶてをその光球に向かって投げると、光球はあえなく石に当たって砕け散った。
凄まじい光が生まれるが、その瞬間、キョウは自らの目に腕を当てて光が目に入らないように対処していた。
やがて光が収まると、セリアは杖でじかにキョウを殴ろうとした。
しかし、彼はそれを身を低くして避けると、そのまま彼女の軽い身体に当て身を食らわせたのだった。
胃の辺りにキョウの拳がめり込む。
セリアはその美しい顔をひどく醜く歪ませながら吹っ飛んでいった。
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