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六章
アリアと名付けられた少女とアリアと名付けられた女性 その1
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深淵のような闇が支配する迷宮の通路。それは古代の巨人が徒党を組んで歩いても差し支えないほどの幅を持っていた。
だが、そこは陰鬱とした空気が絶えず漂っている。
そこでアリアは腹部を蹴られて転倒し、今も身を起こせずにいた。
セリアが近づいていた。
いや、彼女はセリアではないのかも知れない。
なにかと出会い、あの怯えたような表情をする彼女も愁いを帯びたような表情をする彼女も、もはや微塵も存在していないように感じた。
ただ杖を持ち、冷酷かつ軽薄そうな表情で近づいてきたセリアは、残忍な魂を持つ魔女のようですらあった。
アリアの胸ぐらを掴み、先ほどと同じように、にやりとした笑みを浮かべると、手にしていた杖を顎の辺りに突きつけてきた。
「…この杖はな《光撃の杖》という杖だ。先ほどは光を発しただけだ。しかし、使い方では貴様の頭を吹き飛ばすことも出来るという代物じゃ…」
まるで老婆のような口調でセリアは言う。
もう完全におかしい。おかしくなっている。
どうしてこんなことが起きているのかなとばもう分からなかった。
ただ自分は死の一歩手前にいるようだ。
そのことを悟ったが、アリアは混乱の成果、何かをすることは出来なかった。
「お前の頭を吹き飛ばして、その頭のなくなった胴体から血をすすってやろう…くくく…」
杖の先端が光を帯び始める。
アリアはぎゅっと目をつむった。
「おいおい! そこのお前、俺様のアリアを使って遊んでんじゃねーぞ…」
低い声で人を食った言葉。
闇の中から突如として聞こえた言葉にセリアは向き直る。
きっと表情を歪めてその果てしなく深い闇の方角へと視線を向けた。
輪郭があらわになる。
すでに抜き身の曲刀を手にしているキョウとエリックがゆっくりと闇の中から現れた。
セリアは一つ舌打ちをしてキョウに目がけて光の球を放つ。
アリアの頭を吹き飛ばせると豪語していた威力だ。
しかし、キョウはなんとそれを横に飛んで避けた。
光球は予定を変更し、キョウのはるか後ろで爆発した。
凄まじい音と光の広がりが辺りを昼よりもまだ明るくした。
確かにあんなものを食らったら頭が吹き飛ぶ。
いや、全身で受けてしまえば、全身がなくなるだろう。
その威力にアリアは軽い戦慄を覚えた。
「ふぅー…。通路の幅が狭かったら危なかったぜ」
「相変わらず減らず口を…!」
「…おれはそんな悪い使い方を教えた覚えはないぜ…!」
キョウはそんなことを言って、曲刀を地面に突き刺した。
もしかしたら二人は知り合いなのだろうか。
アリアは身を起こしながらそんなことを考える。
「大丈夫か?」
エリックが足早に駆け寄ってきてアリアの身を起こした。
「エリック…ランディが死んだわ…!」
「そのようだな…」
傍らの凄惨な中間の死骸をエリックは見た。
今までに見たことがないほどに真剣な顔つきだったように見える。
「気をつけて…! あの娘は…キョウを助けないと!」
彼女と対峙しているキョウの姿を見据えて、アリアは四肢に力を入れて立とうとした。
しかし、身体に力が入らない。
立ちかけたところで力尽きたようにまたその場に崩れ落ちた。
「…任せるんだキョウに…」
エリックの言葉に「でも!」とアリアは反論しようとした。
「彼に任せよう。彼なら大丈夫…だって彼は…!」
エリックは一瞬だけ優しそうな笑みを見せた。
見ていると安心できる微笑みだった。
確かに彼のこの微笑みならば、多くの女性を虜に出来るのかも知れない。
アリアはそれ以上はなにも言わなかった。
ただ、今はこの二人に任せようと思うのだった。
だが、そこは陰鬱とした空気が絶えず漂っている。
そこでアリアは腹部を蹴られて転倒し、今も身を起こせずにいた。
セリアが近づいていた。
いや、彼女はセリアではないのかも知れない。
なにかと出会い、あの怯えたような表情をする彼女も愁いを帯びたような表情をする彼女も、もはや微塵も存在していないように感じた。
ただ杖を持ち、冷酷かつ軽薄そうな表情で近づいてきたセリアは、残忍な魂を持つ魔女のようですらあった。
アリアの胸ぐらを掴み、先ほどと同じように、にやりとした笑みを浮かべると、手にしていた杖を顎の辺りに突きつけてきた。
「…この杖はな《光撃の杖》という杖だ。先ほどは光を発しただけだ。しかし、使い方では貴様の頭を吹き飛ばすことも出来るという代物じゃ…」
まるで老婆のような口調でセリアは言う。
もう完全におかしい。おかしくなっている。
どうしてこんなことが起きているのかなとばもう分からなかった。
ただ自分は死の一歩手前にいるようだ。
そのことを悟ったが、アリアは混乱の成果、何かをすることは出来なかった。
「お前の頭を吹き飛ばして、その頭のなくなった胴体から血をすすってやろう…くくく…」
杖の先端が光を帯び始める。
アリアはぎゅっと目をつむった。
「おいおい! そこのお前、俺様のアリアを使って遊んでんじゃねーぞ…」
低い声で人を食った言葉。
闇の中から突如として聞こえた言葉にセリアは向き直る。
きっと表情を歪めてその果てしなく深い闇の方角へと視線を向けた。
輪郭があらわになる。
すでに抜き身の曲刀を手にしているキョウとエリックがゆっくりと闇の中から現れた。
セリアは一つ舌打ちをしてキョウに目がけて光の球を放つ。
アリアの頭を吹き飛ばせると豪語していた威力だ。
しかし、キョウはなんとそれを横に飛んで避けた。
光球は予定を変更し、キョウのはるか後ろで爆発した。
凄まじい音と光の広がりが辺りを昼よりもまだ明るくした。
確かにあんなものを食らったら頭が吹き飛ぶ。
いや、全身で受けてしまえば、全身がなくなるだろう。
その威力にアリアは軽い戦慄を覚えた。
「ふぅー…。通路の幅が狭かったら危なかったぜ」
「相変わらず減らず口を…!」
「…おれはそんな悪い使い方を教えた覚えはないぜ…!」
キョウはそんなことを言って、曲刀を地面に突き刺した。
もしかしたら二人は知り合いなのだろうか。
アリアは身を起こしながらそんなことを考える。
「大丈夫か?」
エリックが足早に駆け寄ってきてアリアの身を起こした。
「エリック…ランディが死んだわ…!」
「そのようだな…」
傍らの凄惨な中間の死骸をエリックは見た。
今までに見たことがないほどに真剣な顔つきだったように見える。
「気をつけて…! あの娘は…キョウを助けないと!」
彼女と対峙しているキョウの姿を見据えて、アリアは四肢に力を入れて立とうとした。
しかし、身体に力が入らない。
立ちかけたところで力尽きたようにまたその場に崩れ落ちた。
「…任せるんだキョウに…」
エリックの言葉に「でも!」とアリアは反論しようとした。
「彼に任せよう。彼なら大丈夫…だって彼は…!」
エリックは一瞬だけ優しそうな笑みを見せた。
見ていると安心できる微笑みだった。
確かに彼のこの微笑みならば、多くの女性を虜に出来るのかも知れない。
アリアはそれ以上はなにも言わなかった。
ただ、今はこの二人に任せようと思うのだった。
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