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四章
別離と出会い その10
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「親父さん。今日もご苦労様」
そう言って、三杯目のエール酒を運んできたのは、この「肉の宮殿」の主人であるバーノンだった。この時間帯になると、一気に店は暇になった。
いつもバーノンは取り巻きがいなくなるこの時間を見計らってリーランドに話しかけてくる。
「今日もブレイトハートの話かい?」
そう切り出すと、リーランドは「うむ」と短く返事した。
「ブレイトハートは俺みたいな飯屋でも知っているくらいの英雄だからな。それにしても凄いよな。そんな英雄と一緒に旅をしていたんだから」
「まあ、色々と大変だったがな」
何にしろ、癖が強い人物だ。
確かにこうして思い出として語る分には楽しげなところもある。商売柄、面白おかしく話してしまうこともある。しかしながら、一緒に旅をした時は毎日がハラハラしっぱなしだった。
「最後に戦った相手はどんな魔物だったんだ? あれだけ強かったやつを消してしまったんだから、相当にでかくて強い魔物なんじゃないのか?」
「ああ。強いというか。あれはな。魔物ではない。《古代の遺物》だよ。かなりその辺りの説明が面倒なんで、あえて『魔物』とみんなには説明したがな…」
「《古代の遺物》? 《レビアスの灯火》や《セレスの宝石》みたいなやつかい?」
バーノンが比較的有名な《古代の遺物》の名前を出してきた。
これらはよく詩人が題材にしているものなので、知っている者たちも多かった。
「そういった類いのものだ。名前を《クロノスフィア》という…」
「クロノスフィア…?」
「ああ。時間と空間を操ることが出来る《古代の遺物》だ。ブレイトハートはそれを追っていた。そして、その《古代の遺物》を追い詰めたが、相手の能力によってか、その存在を消されてしまった」
「ひぇー…。そんなものが存在するのか」
簡単にも悲鳴にも似たようなすっとんきょうな声を出すバーノン。
この世には誰がどんな目的で残したのか、そういった危険きわまりない道具が古代から存在している。
それらを《古代の遺物》と呼んで人間たちは危険視していた。
「でも時間と空間を操るってのはどんなことなんだ?」
「俺にもよく分からん。ブレイトハートやその仲間たちは、色々と知っていたようだったが。たとえば、この今持ってきたエール酒の酒杯を三年後の未来に飛ばしたりとか、あるいは三年前に飛ばしたりといったことも出来たらしい」
その他にも色々と出来たようだ。過去にその場であった事件を再現したりといったこともできたようだ。
「でもそのヤバイ《古代の遺物》は一緒に消えてしまったんだろう? ならもうこの世に存在しないんじゃないのか?」
「そうとも限らないさ。なぜならば、その《クロノスフィア》にはある特殊な能力があったんだからな…」
「特殊な能力…?」
「これ以上は俺も説明はされたがよく分からなかった。ただ時間や空間を直接操るのではなく、何か別な手段で間接的に操っているらしい。《クロノスフィア》はその制御を行う《古代の遺物》という話だった」
そこまで話すと、バーノンはやはり難しい顔をした。
困ったような表情をして、頭をポリポリと掻いていた。
賢者デリウス・クロウンリーフ。
かのブレイトハートに随従していた学者から説明を受けた話である。
そう言って、三杯目のエール酒を運んできたのは、この「肉の宮殿」の主人であるバーノンだった。この時間帯になると、一気に店は暇になった。
いつもバーノンは取り巻きがいなくなるこの時間を見計らってリーランドに話しかけてくる。
「今日もブレイトハートの話かい?」
そう切り出すと、リーランドは「うむ」と短く返事した。
「ブレイトハートは俺みたいな飯屋でも知っているくらいの英雄だからな。それにしても凄いよな。そんな英雄と一緒に旅をしていたんだから」
「まあ、色々と大変だったがな」
何にしろ、癖が強い人物だ。
確かにこうして思い出として語る分には楽しげなところもある。商売柄、面白おかしく話してしまうこともある。しかしながら、一緒に旅をした時は毎日がハラハラしっぱなしだった。
「最後に戦った相手はどんな魔物だったんだ? あれだけ強かったやつを消してしまったんだから、相当にでかくて強い魔物なんじゃないのか?」
「ああ。強いというか。あれはな。魔物ではない。《古代の遺物》だよ。かなりその辺りの説明が面倒なんで、あえて『魔物』とみんなには説明したがな…」
「《古代の遺物》? 《レビアスの灯火》や《セレスの宝石》みたいなやつかい?」
バーノンが比較的有名な《古代の遺物》の名前を出してきた。
これらはよく詩人が題材にしているものなので、知っている者たちも多かった。
「そういった類いのものだ。名前を《クロノスフィア》という…」
「クロノスフィア…?」
「ああ。時間と空間を操ることが出来る《古代の遺物》だ。ブレイトハートはそれを追っていた。そして、その《古代の遺物》を追い詰めたが、相手の能力によってか、その存在を消されてしまった」
「ひぇー…。そんなものが存在するのか」
簡単にも悲鳴にも似たようなすっとんきょうな声を出すバーノン。
この世には誰がどんな目的で残したのか、そういった危険きわまりない道具が古代から存在している。
それらを《古代の遺物》と呼んで人間たちは危険視していた。
「でも時間と空間を操るってのはどんなことなんだ?」
「俺にもよく分からん。ブレイトハートやその仲間たちは、色々と知っていたようだったが。たとえば、この今持ってきたエール酒の酒杯を三年後の未来に飛ばしたりとか、あるいは三年前に飛ばしたりといったことも出来たらしい」
その他にも色々と出来たようだ。過去にその場であった事件を再現したりといったこともできたようだ。
「でもそのヤバイ《古代の遺物》は一緒に消えてしまったんだろう? ならもうこの世に存在しないんじゃないのか?」
「そうとも限らないさ。なぜならば、その《クロノスフィア》にはある特殊な能力があったんだからな…」
「特殊な能力…?」
「これ以上は俺も説明はされたがよく分からなかった。ただ時間や空間を直接操るのではなく、何か別な手段で間接的に操っているらしい。《クロノスフィア》はその制御を行う《古代の遺物》という話だった」
そこまで話すと、バーノンはやはり難しい顔をした。
困ったような表情をして、頭をポリポリと掻いていた。
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かのブレイトハートに随従していた学者から説明を受けた話である。
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