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三章
深きから忍び寄るものたち その9
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ほの暗い迷宮の奥深くに、とある建物が存在する。石造りの壁が陰気な雰囲気を醸し出し、その中に《深きから忍び寄るものたち》の隠れ家が存在した。
意外なことにこの迷宮の中には建物があった。建物と言ってもそれは朽ちかけたものであり、言うなれば、倒壊した古代の神殿という形容が相応しかった。
石造りの壁は長い歳月によって風化し、荒廃していた。
建物の大部分が使えない状態であったが、そのわずかにある瓦礫の隙間から内部に入ることが出来た。中には部屋がいくつか存在し、それらの部屋が彼らの寝床であった。
そもそも、このフローズン・シャドウホールという迷宮には人工的な部分とそうでない部分がある。
いったい、どのような存在がどのような理由でこの迷宮を構築したのだろう。
そのキョウの隠れ家がある建物は人工的な通路を抜け、非人工的な大きな空間に建てられていたものだった。
アリアたち一行は、そこに連れてこられ、キョウと話をすることになった。
その部屋はそこそこの広さがあり、真ん中には大きな卓がある。その上では心地よい銅の燭台の明かりが、壁の影に微かな光を投げかけていた。
部屋の片隅には何かしらの荷物が雑に置かれている。
もしかしたら、冒険者から巻き上げた品物の数々かも知れなかった。
アリア、エリック、ランディはそれぞれ席に着いている。
《深きから忍び寄るものたち》側はキョウ一人だ。
ランディは先ほどキョウにひねられた肘が痛いのか、度々気にしている様子だった。
エリックは物珍しそうに辺りを見回している。
「見たところ、結構な数がいそうだけど、冒険者を襲うだけでたべていけるの?」
「二十人ほどだ。まあ、冒険者襲うだけでは食べてはいけないが、金品を街に行って食料に変える係がいたり、他にも襲われてしまった冒険者の死体から使えるものをいただいたり、まあ、色々と手広くやっている」
「早速だけど、この迷宮はおかしいということだけど、何がどうおかしいの? 街でも同じことを聞いたわ」
「あー…なんというか。そもそもがこの迷宮自体が変だ。どう変かと言われると難しいが。理屈に合わない事件が起きたりしている」
「キョウがさっぱりと要領を得ないことを口走る。
「さっき変な死体を見たわ。ここに相応しくない人の死体だったわ。もしかしてそういうこと?」
「そうだな。今のこの場所では珍しくないことだと思う」
あの狩人のことだ。あの狩人はとてもこの場の住人だとは思えない。たとえば、どこか他の地域に住んでいる者の格好をしていたりとかだった。
「ここ一ヶ月ほどで他から突如としてこのフローズン・シャドウホールにいきなり現れた人間はかなりいると思う。うちにもそういう連中は三人はいる。その内の一人は俺だ」
「えっ!?」
アリアは思わず、声を上げた。その後に困惑したような顔つきになった。
彼女の隣では真剣な表情でエリックがそれを聞いていた。街では見せなかった真剣な様子だった。
「じゃあ、ここにいきなりあなたは飛ばされてきたってことよね? 前はどこで何をしていたの?」
「…前は…まあ、旅をしていた。あんたらと同じような仕事をしていた。でもどこかの迷宮にはいなかったし、このフローズン・シャドウホールとはまったく離れた場所に俺はいたはずだ」
「飛ばされるときにどうだった? 何かその前兆というか原因みたいなものに心当たりはないかしら?」
「…それは」
言いかけたときだった。
「アニキーっ!?」
突如として部屋に飛び込んできた大柄な男がいた。
サンドルだった。
「お前はアニキと呼ぶなと言っただろう?」
そう言ったキョウはすでに傍らの曲刀を手にして立ち上がっていた。
「ダミアンのやろうが…!」
「なんか出たか? また漏らしたのか?」
「…食われちまった…!」
その大きな体格には似合わないような怯えた様子で彼はキョウに伝えていた。
意外なことにこの迷宮の中には建物があった。建物と言ってもそれは朽ちかけたものであり、言うなれば、倒壊した古代の神殿という形容が相応しかった。
石造りの壁は長い歳月によって風化し、荒廃していた。
建物の大部分が使えない状態であったが、そのわずかにある瓦礫の隙間から内部に入ることが出来た。中には部屋がいくつか存在し、それらの部屋が彼らの寝床であった。
そもそも、このフローズン・シャドウホールという迷宮には人工的な部分とそうでない部分がある。
いったい、どのような存在がどのような理由でこの迷宮を構築したのだろう。
そのキョウの隠れ家がある建物は人工的な通路を抜け、非人工的な大きな空間に建てられていたものだった。
アリアたち一行は、そこに連れてこられ、キョウと話をすることになった。
その部屋はそこそこの広さがあり、真ん中には大きな卓がある。その上では心地よい銅の燭台の明かりが、壁の影に微かな光を投げかけていた。
部屋の片隅には何かしらの荷物が雑に置かれている。
もしかしたら、冒険者から巻き上げた品物の数々かも知れなかった。
アリア、エリック、ランディはそれぞれ席に着いている。
《深きから忍び寄るものたち》側はキョウ一人だ。
ランディは先ほどキョウにひねられた肘が痛いのか、度々気にしている様子だった。
エリックは物珍しそうに辺りを見回している。
「見たところ、結構な数がいそうだけど、冒険者を襲うだけでたべていけるの?」
「二十人ほどだ。まあ、冒険者襲うだけでは食べてはいけないが、金品を街に行って食料に変える係がいたり、他にも襲われてしまった冒険者の死体から使えるものをいただいたり、まあ、色々と手広くやっている」
「早速だけど、この迷宮はおかしいということだけど、何がどうおかしいの? 街でも同じことを聞いたわ」
「あー…なんというか。そもそもがこの迷宮自体が変だ。どう変かと言われると難しいが。理屈に合わない事件が起きたりしている」
「キョウがさっぱりと要領を得ないことを口走る。
「さっき変な死体を見たわ。ここに相応しくない人の死体だったわ。もしかしてそういうこと?」
「そうだな。今のこの場所では珍しくないことだと思う」
あの狩人のことだ。あの狩人はとてもこの場の住人だとは思えない。たとえば、どこか他の地域に住んでいる者の格好をしていたりとかだった。
「ここ一ヶ月ほどで他から突如としてこのフローズン・シャドウホールにいきなり現れた人間はかなりいると思う。うちにもそういう連中は三人はいる。その内の一人は俺だ」
「えっ!?」
アリアは思わず、声を上げた。その後に困惑したような顔つきになった。
彼女の隣では真剣な表情でエリックがそれを聞いていた。街では見せなかった真剣な様子だった。
「じゃあ、ここにいきなりあなたは飛ばされてきたってことよね? 前はどこで何をしていたの?」
「…前は…まあ、旅をしていた。あんたらと同じような仕事をしていた。でもどこかの迷宮にはいなかったし、このフローズン・シャドウホールとはまったく離れた場所に俺はいたはずだ」
「飛ばされるときにどうだった? 何かその前兆というか原因みたいなものに心当たりはないかしら?」
「…それは」
言いかけたときだった。
「アニキーっ!?」
突如として部屋に飛び込んできた大柄な男がいた。
サンドルだった。
「お前はアニキと呼ぶなと言っただろう?」
そう言ったキョウはすでに傍らの曲刀を手にして立ち上がっていた。
「ダミアンのやろうが…!」
「なんか出たか? また漏らしたのか?」
「…食われちまった…!」
その大きな体格には似合わないような怯えた様子で彼はキョウに伝えていた。
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