フローズン・シャドウホールの狂気

バナナチップボーイ

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三章

深きから忍び寄るものたち その3

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狭い部屋の中で、彼らの動きは制限されている。
レオンたち一行を縛り上げたキョウたちは自分たちが住処アジトにしている一角へとやってきていた。
この場所は小部屋になっていて、奥は行き止まりになっている。
壁には薄暗い灯りが垂れ下がり、微かな光を投影していた。
しかし、それは鮮明なものとは言えず、ただの輪郭を浮かび上がらせる程度だった。
冒険者たちの表情は暗い。
まあ、この後に何をされるか分からないということを踏まえれば、当たり前と言えよう。
特に二人いる女性の表情は男二人よりも暗い。
この後自分たちがどのような辱めを受けるのかを想像しているのかも知れなかった。
縛り上げた彼らの周囲を《深きから忍び寄るものたちディープストーカー》総出で囲んでいる状態だった。
彼らのリーダーであるレオンは時折身体をよじっている。
なんとか戒めから逃れようとしているが、キョウたちとて素人ではない。
縄は頑丈に結ばれていて、彼らが動いてもまったくびくともしなかった。
キョウがレオンに近づき、彼だけの猿ぐつわを外す。
「おい…おれたちをどうするつもりだ? 奴隷商人に売るつもりか?」
その投げかけられた言葉にキョウは失笑した。
「お兄さんえげつないこと言うね? 《深きから忍び寄るものたちディープストーカー》の素質あるよ」
「ふざけるな! 俺たちは奴隷なんかにはならない。こうなったらこの場で殺せ!」
つばを飛ばしながらレオンは言う。
意外に激しい性格らしい。
その言葉にキョウは肩をすくめる。
まあ、彼の言うとおりかも知れない。
もしも、ここでキョウたちが彼らの身ぐるみを剥がし、奴隷として売りさばいたとしたら、彼らのこれからの余生は悲惨きわまるだろう。
何かの手違いで、そういった人生を送るものたちはたくさんいる。
いやな話だが、この世界はそういうところだった。
「…アニキ、そっちの女の子は俺にくださいよ! もう我慢できねぇよ!」
「ああっ!? お前は静かにしてろ! それから股間を押さえながら言うな! あんまりびびらすと、こないだのダミアンみたいにお漏らししたらどうする?」
「親分ひどいっす。あれはおっかない魔物が出たからじゃないですか」
ダミアンがひっそりと抗議する。
漏らしたことは否定しない。
「アニキ…俺は女の子より、この男がいいっす」
「お前は俺のことをアニキと呼ぶな! 勘違いされるだろう」
ひときわ体格の良い仲間のサンドルが言う。彼は気はいいのだが、女よりは男が好きだった。ちなみにキョウは女の子が好きである。
「とりあえず、まずは金を出せ。金額はお前ら全員の持ち金の半分だ」
「なんだと?」
「それから食料も半分おいていけ。武器は頭目リーダーのお前の剣だけは勘弁してやる。他のやつらは…そうだな…おい!」
キョウが合図すると、彼の仲間の一人が前に出る。そして、レオンたちの身体をまさぐり始めた。
身体を触られて、リリアは「うー…!」と軽く悲鳴を上げながら大粒の涙をこぼした。
もう怖くてたまらないといった表情だ。
「親分、こいつらろくな装備していないですぜ!」
「…まあそうだろうな」
彼らが駆け出しなのは見るだけで分かる。それは先ほど襲ったときの動きを見てもである。
こういった手合いは最低限の装備しかない。
なにせ、冒険に使う備品はそんなに安いものではなかった。
「まあ、結論から言うと、解放してやる。だけど、俺らみたいに優しいのばかりじゃないからな。今後は気をつけるんだな」
「また逃がすんですか? せめて女の子は…」
未練がましくセバスが言う。股間を押さえるのはやめていたが、リリアに対する執着があるのは目線からでも明かだった。
「お前は俺が前に描いてやった絵で我慢しろ」
「えー…あれ、下手くそじゃないですか!?」
「じゃあ、お前自身が女の子にもてるように努力しろ」
むちゃくちゃに聞こえるが正論である。
それを言われてしまい、さすがにセバスも黙ってしまう。
「おい、お兄ちゃん。一つだけ教えといてやる」
レオンに向き直りキョウは言った。
なんだか、自分たちの命が助かりそうな流れになっている。しかし、どうしてこの一団は自分たちを助けるのかということに疑問を抱いているのだろう。
「…さっきの続きだ。俺たちはこれからお前らを解放する。お前達から奪うのはさっき言ったとおりだ。武器も防具も手は付けない。これなら帰り際に襲われても大丈夫だろう。金が半分もあれば、生業は続けられるだろう。ここは地上から近い。食料も半分もあれば無事に帰れるだろう。もう俺たちに捕まるな。そして、さっき言ったとおり、俺たち以外に捕まるな。捕まったらお前らは本当に奴隷にされて売られるだけだ」
その言葉に無言のレオンたち。
リリアだけはまだ嗚咽を漏らしている様子だった。
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