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三章
深きから忍び寄るものたち その1
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目の前には大きな《古代の遺物》が存在していた。
それはまるで大きな磁石のような形をしていた。
彼はその巨大な装置に、まるで敢然と立ち向かうかのようであった。
手には剣。軽めながらも鎧を身につけていた。
鎧の上からはもらい物ながら青い外衣をまとっている。
正直なところ、赤や橙色などの色が好みであったが、まあ、偉い人から下賜されたものなので、文句を言うくらいにとどめていた。
彼が手にしていた意匠の入ったそれなりに刃渡りのある剣を振りかぶったときだった。
突如として装置が光った。
彼自身はちんけな不意打ちだと舌打ちしたが、眩しいものは眩しい。
一瞬怯んだ隙にその磁石の針が、まるで時計の針のようにグルグルと猛烈な速度で回り出した。
傍らには仲間たちがいた。
彼らもまた彼と同じようにそのまばゆさに視力を奪われていた。
皆の足が止まっていた。
そして、彼自身の記憶はそこで途絶えた。
彼女の姿も見失った。
なにかに自分の意識が溶けていく感覚があり、そして、すべてが終わったかのような感覚に陥った。
「キョウ…キョウ、起きなよ!」
唐突に女性の声がした。
目を開ける前に彼は「うん…?」と返事をする。
眠気はまだ残っていたが、直後に鮮明になった意識の中で自分の状況を察して、ゆっくりながら身を起こした。
徐々に視界が戻ってくる。
眠りの世界から現世に戻ってきたことを認識し、彼は目を一度擦った。
その場所はほの暗く、頼りない明かりが点されているだけだった。石の壁は湿り気を帯び、時折、水滴がしたたり落ちる音が響いた。そこは足元はぬかるんでおり、歩くたびに足音が響くような場所だった。
「ここはなんだか不気味だな」とキョウと呼ばれた青年は口にした。
「あんた今さら何言ってんのさ! 寝ぼけないでよ!」
傍らにいた同じ歳くらいの女性に抗議された。
ちなみに別段可愛いわけでもなく、美人と言うこともない。
キョウがこの『穴』の中で生業としている《深きから忍び寄るものたち》の仲間の一人だった。
「どこでもかしこでも寝ないでよね!? あんたは私たちの頭なんだから!」
つまりは頭目が寝てしまえば、全体に迷惑がかかるということで怒られているらしかった。
傍らにはもう一人仲間の男がいた。
キョウが手を伸ばすと、彼は水袋を差し出す。
キョウはそれを一気に飲み干すと、何を言うでもなく立ち上がった。
キョウたちはこの『穴』にやってくる冒険者を襲い生計を立てていた。
ただ相手も冒険者と言うだけあって中々に腕が立つ。
キョウたち《深きから忍び寄るものたち》は、そのほとんどが冒険者たちの返り討ちに遭う。このフローズン・シャドウホールには魔物たちもいて、中々に彼らが生き残れる可能性は低かった。
ではなにゆえそんな危険を冒してまでダンジョンに住み着くかというのは、ここでしか生きられない事情をそれぞれが抱えているからだった。
キョウは腕が立った。
最初ここにやってきた経緯は分からない。
なにか自分の記憶があやふやで過去を思い出そうとしても思い出しきれないのだ。
そして、時間の経過と共に記憶は風化してどうでも良いものになっていった。
今では人並み外れた戦う力で強引に金品食料を奪い、なんとか生きていた。
そうこうしているうちに仲間がどんどんできて、今は20人ほどの集団になっていた。
「で、本日は誰ともまだ遭遇していないわけだが、辺りに人気はないか?」
「今日は全然この辺り人は通らないですぜ」
その一言に舌打ちし、キョウはその鋭い眼光を光らせた。
「場所を変えるか。人がこないんじゃ商売あがったりだからな」
もしかしたら、地上では警告が出回っているのかも知れない。
警戒されているために人が来ないのかも知れない。
ここ数日はこの辺りで何組かの冒険者から頂き物をしたからだった。
「行くぞ」とキョウが声をかけると、手下たちはバラバラと準備をして彼に続く。
地下とは思えないほどに広がる広大な空間に、石柱がそびえ立っている。
何かの建造物が壊れた後があり、そこそこの人数が展開できる場所でのできごとだった。
それはまるで大きな磁石のような形をしていた。
彼はその巨大な装置に、まるで敢然と立ち向かうかのようであった。
手には剣。軽めながらも鎧を身につけていた。
鎧の上からはもらい物ながら青い外衣をまとっている。
正直なところ、赤や橙色などの色が好みであったが、まあ、偉い人から下賜されたものなので、文句を言うくらいにとどめていた。
彼が手にしていた意匠の入ったそれなりに刃渡りのある剣を振りかぶったときだった。
突如として装置が光った。
彼自身はちんけな不意打ちだと舌打ちしたが、眩しいものは眩しい。
一瞬怯んだ隙にその磁石の針が、まるで時計の針のようにグルグルと猛烈な速度で回り出した。
傍らには仲間たちがいた。
彼らもまた彼と同じようにそのまばゆさに視力を奪われていた。
皆の足が止まっていた。
そして、彼自身の記憶はそこで途絶えた。
彼女の姿も見失った。
なにかに自分の意識が溶けていく感覚があり、そして、すべてが終わったかのような感覚に陥った。
「キョウ…キョウ、起きなよ!」
唐突に女性の声がした。
目を開ける前に彼は「うん…?」と返事をする。
眠気はまだ残っていたが、直後に鮮明になった意識の中で自分の状況を察して、ゆっくりながら身を起こした。
徐々に視界が戻ってくる。
眠りの世界から現世に戻ってきたことを認識し、彼は目を一度擦った。
その場所はほの暗く、頼りない明かりが点されているだけだった。石の壁は湿り気を帯び、時折、水滴がしたたり落ちる音が響いた。そこは足元はぬかるんでおり、歩くたびに足音が響くような場所だった。
「ここはなんだか不気味だな」とキョウと呼ばれた青年は口にした。
「あんた今さら何言ってんのさ! 寝ぼけないでよ!」
傍らにいた同じ歳くらいの女性に抗議された。
ちなみに別段可愛いわけでもなく、美人と言うこともない。
キョウがこの『穴』の中で生業としている《深きから忍び寄るものたち》の仲間の一人だった。
「どこでもかしこでも寝ないでよね!? あんたは私たちの頭なんだから!」
つまりは頭目が寝てしまえば、全体に迷惑がかかるということで怒られているらしかった。
傍らにはもう一人仲間の男がいた。
キョウが手を伸ばすと、彼は水袋を差し出す。
キョウはそれを一気に飲み干すと、何を言うでもなく立ち上がった。
キョウたちはこの『穴』にやってくる冒険者を襲い生計を立てていた。
ただ相手も冒険者と言うだけあって中々に腕が立つ。
キョウたち《深きから忍び寄るものたち》は、そのほとんどが冒険者たちの返り討ちに遭う。このフローズン・シャドウホールには魔物たちもいて、中々に彼らが生き残れる可能性は低かった。
ではなにゆえそんな危険を冒してまでダンジョンに住み着くかというのは、ここでしか生きられない事情をそれぞれが抱えているからだった。
キョウは腕が立った。
最初ここにやってきた経緯は分からない。
なにか自分の記憶があやふやで過去を思い出そうとしても思い出しきれないのだ。
そして、時間の経過と共に記憶は風化してどうでも良いものになっていった。
今では人並み外れた戦う力で強引に金品食料を奪い、なんとか生きていた。
そうこうしているうちに仲間がどんどんできて、今は20人ほどの集団になっていた。
「で、本日は誰ともまだ遭遇していないわけだが、辺りに人気はないか?」
「今日は全然この辺り人は通らないですぜ」
その一言に舌打ちし、キョウはその鋭い眼光を光らせた。
「場所を変えるか。人がこないんじゃ商売あがったりだからな」
もしかしたら、地上では警告が出回っているのかも知れない。
警戒されているために人が来ないのかも知れない。
ここ数日はこの辺りで何組かの冒険者から頂き物をしたからだった。
「行くぞ」とキョウが声をかけると、手下たちはバラバラと準備をして彼に続く。
地下とは思えないほどに広がる広大な空間に、石柱がそびえ立っている。
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