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二章
グリーンヘイブン その1
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グリーンヘイブンの街は冒険者御用達の建物が立ち並ぶ活気のある町だった。
商店や宿屋が軒を連ね、多くの人々が出入りしていた。
そして、そこから離れると、周囲は自然に覆われ、美しい景色が広がっているという街だ。
今、アリアたちはそんな街の主たる通りにいた。
その通りは「ファンタジーウェイ」と呼ばれている。
ここは未知なる冒険の世界に赴くために、冒険者たちが集まり、アイテムや情報を交換する場所である。いわば冒険の世界に旅立つ最初の場所であることから「幻想へと続く道」といつからか呼ばれるようになった。
宿などが並ぶ区域を通り過ぎると、鍛冶屋や武器屋、衣料品店などが建ち並んでいる。
そして、それぞれが冒険者たちに必要不可欠なアイテムや装備品を販売している。
アリアたち一行は宿の手配を済ませ、フローズン・シャドウホールに挑むために必要な装備品を揃えるために、この通りを訪れたのだった。
「結構賑わっているな…」
ぼそりとした声色でランディが言った。
エリックはまるで子供のように、辺りをきょろきょろと見渡していた。
通りに多く掲げられている個性的な文様や意匠の看板に目を奪われているらしかった。
時折、鍛冶屋から聞こえてくるであろう熱心な職人たちの作業音がアリアたちの耳を打つ。
実に様々な冒険者向けの店が立ち並んでいた。
彼らは、そんな店の一つである「黒猫冒険物語 パウゼッタ商会」という看板の前で立ち止まった。
店自体はこじんまりとしている。だが、看板には可愛らしい猫の絵が描いてあり、それがアリアの目を引いたのだ。
アリアが店に入ろうとすると、他の二人もそれに従った。
店の中は整頓されており、雑然としてた感じではない。冒険者向けの品物は様々なものが一通り揃っており、品揃えも問題はなさそうだ。
しかし、店員の姿が見えない。
「あのー…」
アリアが店の奥に向かって声をかけた。
すると奥から店員とおぼしき小柄な女性が静かに現れた。
黒髪に細い瞳が印象的で、一見すると、おとなしそうに見える。
確かに猫っぽい感じがする。
アリアも良く猫っぽいと言われるが、この15歳ほどの年若い店員はそれとはまた違った雰囲気で猫っぽさを感じさせる。
言うなれば、確かに「黒猫冒険物語 パウゼッタ商会」の名前の通り、黒猫ちゃんみたいな感じと言えば良いだろうか。
「実は…」
「…シャドウホールですか?」
アリアが言葉をかけようとしたところ、それを遮るような形で彼女は聞き返してきた。
恐らくはそういった冒険者しかいないのだろう。
だからこそ聞くまでもない。
つまり彼女の言葉はそういう意味合いがある。
そして、それはまったくもってその通りだった。
「装備を見たいの。わたしたち本日、外から来たわ。事情がよく分からないから色々と教えてくれると助かるんだけど…」
「わかりました。シャドウホールは非常に危険です。数多くの冒険者たちが命を落としてきたダンジョンです。探索する場合は協力者としっかりとした準備が必要です。まずは…」
そういうが早いか、彼女は即座にいくつかの品物を持ってきた。
大人しそうな印象だが、仕事は早いらしい。
「店員さん、小柄で美人だな。体重も軽そうだからそのまま持って帰って騎士団長のお土産にするかな」
「お前さんの性格ほどは軽くないんじゃないの? それに騎士団長が喜ぶって、シルバートーンの騎士団の誇りってのは、身につけてる装備より軽いのか?」
軽口に対して辛辣な物言いをするランディにエリックは思わず肩をすくめる。
「…それに身の軽さほどから考えられないくらい出来る娘だ。あの娘なら『穴』のことも色々と知っていそうだな」
ランディが言う『穴』とはフローズン・シャドウホールのことに他ならない。
確かに彼の言うとおり、彼女は様々なことを知っているのかも知れなかった。
商店や宿屋が軒を連ね、多くの人々が出入りしていた。
そして、そこから離れると、周囲は自然に覆われ、美しい景色が広がっているという街だ。
今、アリアたちはそんな街の主たる通りにいた。
その通りは「ファンタジーウェイ」と呼ばれている。
ここは未知なる冒険の世界に赴くために、冒険者たちが集まり、アイテムや情報を交換する場所である。いわば冒険の世界に旅立つ最初の場所であることから「幻想へと続く道」といつからか呼ばれるようになった。
宿などが並ぶ区域を通り過ぎると、鍛冶屋や武器屋、衣料品店などが建ち並んでいる。
そして、それぞれが冒険者たちに必要不可欠なアイテムや装備品を販売している。
アリアたち一行は宿の手配を済ませ、フローズン・シャドウホールに挑むために必要な装備品を揃えるために、この通りを訪れたのだった。
「結構賑わっているな…」
ぼそりとした声色でランディが言った。
エリックはまるで子供のように、辺りをきょろきょろと見渡していた。
通りに多く掲げられている個性的な文様や意匠の看板に目を奪われているらしかった。
時折、鍛冶屋から聞こえてくるであろう熱心な職人たちの作業音がアリアたちの耳を打つ。
実に様々な冒険者向けの店が立ち並んでいた。
彼らは、そんな店の一つである「黒猫冒険物語 パウゼッタ商会」という看板の前で立ち止まった。
店自体はこじんまりとしている。だが、看板には可愛らしい猫の絵が描いてあり、それがアリアの目を引いたのだ。
アリアが店に入ろうとすると、他の二人もそれに従った。
店の中は整頓されており、雑然としてた感じではない。冒険者向けの品物は様々なものが一通り揃っており、品揃えも問題はなさそうだ。
しかし、店員の姿が見えない。
「あのー…」
アリアが店の奥に向かって声をかけた。
すると奥から店員とおぼしき小柄な女性が静かに現れた。
黒髪に細い瞳が印象的で、一見すると、おとなしそうに見える。
確かに猫っぽい感じがする。
アリアも良く猫っぽいと言われるが、この15歳ほどの年若い店員はそれとはまた違った雰囲気で猫っぽさを感じさせる。
言うなれば、確かに「黒猫冒険物語 パウゼッタ商会」の名前の通り、黒猫ちゃんみたいな感じと言えば良いだろうか。
「実は…」
「…シャドウホールですか?」
アリアが言葉をかけようとしたところ、それを遮るような形で彼女は聞き返してきた。
恐らくはそういった冒険者しかいないのだろう。
だからこそ聞くまでもない。
つまり彼女の言葉はそういう意味合いがある。
そして、それはまったくもってその通りだった。
「装備を見たいの。わたしたち本日、外から来たわ。事情がよく分からないから色々と教えてくれると助かるんだけど…」
「わかりました。シャドウホールは非常に危険です。数多くの冒険者たちが命を落としてきたダンジョンです。探索する場合は協力者としっかりとした準備が必要です。まずは…」
そういうが早いか、彼女は即座にいくつかの品物を持ってきた。
大人しそうな印象だが、仕事は早いらしい。
「店員さん、小柄で美人だな。体重も軽そうだからそのまま持って帰って騎士団長のお土産にするかな」
「お前さんの性格ほどは軽くないんじゃないの? それに騎士団長が喜ぶって、シルバートーンの騎士団の誇りってのは、身につけてる装備より軽いのか?」
軽口に対して辛辣な物言いをするランディにエリックは思わず肩をすくめる。
「…それに身の軽さほどから考えられないくらい出来る娘だ。あの娘なら『穴』のことも色々と知っていそうだな」
ランディが言う『穴』とはフローズン・シャドウホールのことに他ならない。
確かに彼の言うとおり、彼女は様々なことを知っているのかも知れなかった。
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