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第13話 夢を結う
13 桜色の約束の日[第2部 最終話]
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春の王都に、うららかな陽が差している。
通りの一角、三日月の看板のさげられた食堂の中で──、
るりなみは椅子にのぼって、紙の帯を天井近くの壁に飾りつけようと手を伸ばしていた。
紙の帯は、丸や三角や四角、あるいはもっと複雑な形に切られた紙を結び合わせたもので、それぞれの紙片には、どういう意味があるのか、いくつかの数字が書かれている。
「もう、かずよみ様。お誕生日おめでとう、って書いてください、と頼んだんですよ?」
そばでは、るりなみの世話係のみつみが、踊り子の衣装に身を包み、るりなみを見守りながら、隣の人物に話しかけていた。
そこにしゃきりと立つのは、学者の姿をした前王かずかみ……いや、かずよみだった。
「書いてあるではないか。まぁ、しかし、一般の民には理解できないかもしれないな」
「なんてこと! すっかり昔ながらの高飛車な陛下に戻られて……ぼけちゃっていたときのほうが、おかわいらしかったですよ」
茶化すように前王に語りかけるみつみ。
その言葉を聞き、隣の机で書きものをしていた男が顔をあげた。
飛行士の服装をした、あめかみだ。
「みつみ。そなたが、前の前の王の代から、王たちのそばに仕えていた……というのは本当なのか?」
みつみは、るりなみたちには信じられないような長寿の「妖精」の生まれである、という話だった。
彼女は踊るような足取りで、あめかみのそばに近づいて言った。
「嘘か本当か、今となっては私の記憶でしか、証明できませんけどねぇ」
「ほう。では、かずよみの前の王の話、聞かせてくれないか?」
お安いご用です、とみつみが答えて礼をすると、なんだなんだ、なんだって……と店内の者たちが集まってきた。
るりなみにもなじみの、王宮のみんなだった。
そんなふうに、わいわいとするうちに、やがて時がやってきて──。
約束の時間ぴったりに、店の扉が開いた。
桜色の髪の少女が、はにかみながら姿をあらわす。
その手にはすでにいっぱいに、花束や贈り物の包みが抱えられていた。
今日、十一歳になった、この誕生会の主役──王女ゆめづきの登場だった。
「お誕生日おめでとう!」
みんなのお祝いの声と、花びらのような紙吹雪が舞った。
奥の席で静かに楽器を弾いていたゆいりも、嬉しそうに顔をあげた。
ちらり、と、るりなみとゆいりの視線が合った。
二人は、友達みたいに笑い合って……、春の誕生会の中に溶けこんでいった。
* * *
長い冬が明けて、ユイユメ王国に、春の風がめぐっています。
その風は王国の誰のもとへも吹き、時には夢のような冒険をもたらして、また季節の向こうへ流れていくのでしょう──。
第13話 夢を結う * おわり *
『ユイユメ国ゆめがたり』第2部 * おしまい *
通りの一角、三日月の看板のさげられた食堂の中で──、
るりなみは椅子にのぼって、紙の帯を天井近くの壁に飾りつけようと手を伸ばしていた。
紙の帯は、丸や三角や四角、あるいはもっと複雑な形に切られた紙を結び合わせたもので、それぞれの紙片には、どういう意味があるのか、いくつかの数字が書かれている。
「もう、かずよみ様。お誕生日おめでとう、って書いてください、と頼んだんですよ?」
そばでは、るりなみの世話係のみつみが、踊り子の衣装に身を包み、るりなみを見守りながら、隣の人物に話しかけていた。
そこにしゃきりと立つのは、学者の姿をした前王かずかみ……いや、かずよみだった。
「書いてあるではないか。まぁ、しかし、一般の民には理解できないかもしれないな」
「なんてこと! すっかり昔ながらの高飛車な陛下に戻られて……ぼけちゃっていたときのほうが、おかわいらしかったですよ」
茶化すように前王に語りかけるみつみ。
その言葉を聞き、隣の机で書きものをしていた男が顔をあげた。
飛行士の服装をした、あめかみだ。
「みつみ。そなたが、前の前の王の代から、王たちのそばに仕えていた……というのは本当なのか?」
みつみは、るりなみたちには信じられないような長寿の「妖精」の生まれである、という話だった。
彼女は踊るような足取りで、あめかみのそばに近づいて言った。
「嘘か本当か、今となっては私の記憶でしか、証明できませんけどねぇ」
「ほう。では、かずよみの前の王の話、聞かせてくれないか?」
お安いご用です、とみつみが答えて礼をすると、なんだなんだ、なんだって……と店内の者たちが集まってきた。
るりなみにもなじみの、王宮のみんなだった。
そんなふうに、わいわいとするうちに、やがて時がやってきて──。
約束の時間ぴったりに、店の扉が開いた。
桜色の髪の少女が、はにかみながら姿をあらわす。
その手にはすでにいっぱいに、花束や贈り物の包みが抱えられていた。
今日、十一歳になった、この誕生会の主役──王女ゆめづきの登場だった。
「お誕生日おめでとう!」
みんなのお祝いの声と、花びらのような紙吹雪が舞った。
奥の席で静かに楽器を弾いていたゆいりも、嬉しそうに顔をあげた。
ちらり、と、るりなみとゆいりの視線が合った。
二人は、友達みたいに笑い合って……、春の誕生会の中に溶けこんでいった。
* * *
長い冬が明けて、ユイユメ王国に、春の風がめぐっています。
その風は王国の誰のもとへも吹き、時には夢のような冒険をもたらして、また季節の向こうへ流れていくのでしょう──。
第13話 夢を結う * おわり *
『ユイユメ国ゆめがたり』第2部 * おしまい *
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物語と出会っていただき、感謝です。続きもお楽しみいただけたら嬉しいです☆
すごくよかったです〜!
読んでいて、優しいパステルカラーの情景が浮かんでくるような、そんなお話でした。
文章がとてもきれいで、まるで詩を読んでいるような気持ちになりました。
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素敵なお話を投稿してくださって、ありがとうございました^_^
8759さま、素敵な感想をありがとうございます!
パステルカラー大好き人の作者が映し取るうちに、ユイユメ王国もパステル世界になってしまったのかもしれません……。第1部を書いていた頃は、散文詩文学に傾倒していたので、「詩を読んでいるよう」という感想は当時の私に届けてあげたいです、ありがとうございます!
十歳の頃にも大人の自分がいたし、大人になってからも八歳とか十歳の自分がいるし……という心境で書いています。最後までいろいろ楽しんでいただけたら幸いです*
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