上 下
126 / 126
第13話 夢を結う

13 桜色の約束の日[第2部 最終話]

しおりを挟む
 春の王都おうとに、うららかなしている。

 とおりの一角いっかく三日みかづき看板かんばんのさげられた食堂しょくどうの中で──、


 るりなみは椅子いすにのぼって、紙のおび天井てんじょう近くのかべかざりつけようと手をばしていた。

 紙の帯は、まるや三角や四角、あるいはもっと複雑ふくざつかたちに切られた紙をむすび合わせたもので、それぞれのへんには、どういう意味いみがあるのか、いくつかの数字が書かれている。

「もう、かずよみ様。お誕生たんじょうおめでとう、って書いてください、とたのんだんですよ?」

 そばでは、るりなみの世話せわがかりのみつみが、おど衣装いしょうつつみ、るりなみを見守りながら、となり人物じんぶつに話しかけていた。

 そこにしゃきりと立つのは、学者がくしゃ姿すがたをした前王ぜんおうかずかみ……いや、かずよみだった。

「書いてあるではないか。まぁ、しかし、一般いっぱんたみには理解りかいできないかもしれないな」
「なんてこと! すっかり昔ながらのたかしゃ陛下へいかもどられて……ぼけちゃっていたときのほうが、おかわいらしかったですよ」

 ちゃすように前王に語りかけるみつみ。

 その言葉を聞き、隣の机で書きものをしていた男が顔をあげた。
 こう服装ふくそうをした、あめかみだ。

「みつみ。そなたが、前の前の王のだいから、王たちのそばにつかえていた……というのは本当なのか?」

 みつみは、るりなみたちには信じられないような長寿ちょうじゅの「妖精ようせい」の生まれである、という話だった。
 彼女は踊るような足りで、あめかみのそばに近づいて言った。

うそか本当か、今となっては私の記憶きおくでしか、証明しょうめいできませんけどねぇ」
「ほう。では、かずよみの前の王の話、聞かせてくれないか?」

 おやすいごようです、とみつみが答えてれいをすると、なんだなんだ、なんだって……と店内てんないの者たちが集まってきた。
 るりなみにもなじみの、王宮おうきゅうのみんなだった。

 そんなふうに、わいわいとするうちに、やがて時がやってきて──。



 約束やくそくの時間ぴったりに、店のとびらひらいた。

 さくら色のかみの少女が、はにかみながら姿すがたをあらわす。
 その手にはすでにいっぱいに、花束はなたばおくものつつみがかかえられていた。

 今日、十一歳になった、この誕生たんじょうかい主役しゅやく──王女ゆめづきの登場とうじょうだった。


「お誕生日おめでとう!」

 みんなのおいわいの声と、花びらのようなかみ吹雪ふぶきった。


 奥の席で静かに楽器がっきいていたゆいりも、うれしそうに顔をあげた。

 ちらり、と、るりなみとゆいりの視線しせんが合った。

 二人は、友達みたいに笑い合って……、春の誕生会の中にけこんでいった。


   *   *   *


 長い冬が明けて、ユイユメ王国に、春の風がめぐっています。

 その風は王国のだれのもとへもき、時には夢のような冒険をもたらして、また季節きせつの向こうへ流れていくのでしょう──。



第13話 夢をう * おわり *

『ユイユメこくゆめがたり』第2部 * おしまい *
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

キナコ
2023.08.18 キナコ
ネタバレ含む
星乃すばる
2023.08.21 星乃すばる

キナコさん、夢中になって読んでくださっているとは……なんと嬉しいメッセージでしょう、ありがとうございます!

灯りを護るるりなみは、普段より毅然としていますね。風の子は、のちのお話にも登場しますので、また新たなやりとりを楽しんでいただけたらと思います〜!

物語と出会っていただき、感謝です。続きもお楽しみいただけたら嬉しいです☆

解除
8759
2023.08.18 8759

すごくよかったです〜!
読んでいて、優しいパステルカラーの情景が浮かんでくるような、そんなお話でした。
文章がとてもきれいで、まるで詩を読んでいるような気持ちになりました。
児童書・童話ジャンルのお話ですが、大人が読んでも楽しめると思います!
素敵なお話を投稿してくださって、ありがとうございました^_^

星乃すばる
2023.08.21 星乃すばる

8759さま、素敵な感想をありがとうございます!

パステルカラー大好き人の作者が映し取るうちに、ユイユメ王国もパステル世界になってしまったのかもしれません……。第1部を書いていた頃は、散文詩文学に傾倒していたので、「詩を読んでいるよう」という感想は当時の私に届けてあげたいです、ありがとうございます!

十歳の頃にも大人の自分がいたし、大人になってからも八歳とか十歳の自分がいるし……という心境で書いています。最後までいろいろ楽しんでいただけたら幸いです*

解除
キナコ
2023.08.17 キナコ

とても読みやすい作品です。電子書籍は、初体験でドキドキしていましたが、作品の面白さに惹きつけられて読み進んでいます。用事があるのでちょっと休憩します。
ありがとうございました♪

星乃すばる
2023.08.18 星乃すばる

キナコさま、感想のメッセージをありがとうございます!

はじめて読んでいただくデジタル媒体の作品になれたこと、読みやすい、面白いと感じていただけたこと、とても光栄です……*

お忙しい中、本当にありがとうございます。
8月のお祭りの更新期間中、お付き合いいただけましたら嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。