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第12話 数の国
13 消えてゆく国
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どさり、という音とともに、るりなみは固い床の上に転げ落ちていた。
腰を打った痛みに、ぎゅっと目をつぶっていると──。
「るりなみ様?」
ゆいりの声が降ってきた。
そろそろと目を開けると、驚いたように目を見開いたゆいりに、見下ろされていた。
まわりを見回すと、そこは夜の王宮の一角、庭園沿いの渡り廊下だった。
そして世界は数字ではなく……るりなみのよく知る色や手触りや輪郭で、できていた。
「ゆめづき様に、前王陛下!」
るりなみの横に尻もちをついていた二人にも、ゆいりが驚きの声をかける。
まるで、るりなみたちが今ぱっと、なにもない場所から、いきなりゆいりの前に現れたかのように。
いや、そうなのかもしれない。
奥の塔のかずよみの部屋から、王都の街に出たときも、るりなみたちはそうやって移動したに違いない。
るりなみは、信じられないような考えを、口にしていた。
「ゆいりの音楽が、ゆいりの数の列になって……ゆいりのもとに導いてくれたんだよ、きっとそうだ……!」
そうつぶやくと、「きっとそうだ」という実感が湧いてきて、るりなみは安心と感動で泣きそうになってしまった。
ゆいりは、三人を助け起こそうにも、驚きのあまり動けない様子で、るりなみのつぶやきを聞いていた。
「るりなみ様、それはいったい……」
そのとき、言葉にあらわせないような奇声が、廊下中に響いた。
「けああああああっ、ふわあああああっ」
「父様!」
ゆめづきが、尻もちをついたまま叫ぶかずよみの肩に手をかけ、ゆさゆさと揺さぶる。
「父様、どうしたのですか、しっかり!」
「わ、私は……死んだのか……?」
叫ぶのをやめたかずよみは、そう言いながら、ゆっくりとあたりを見回す。
「死んでいません! 叫んだのもちゃんと聴こえていますよ」
ゆめづきが、ぱん、と肩に改めて勢いよく手をのせると──。
「数が……消えた……」
「え?」
ゆめづきと同時に、るりなみも「えっ」と声をあげていた。
かずよみはゆめづきの手を払い、四つん這いになって、床をぺたぺたと触ってたしかめはじめた。
「数は……どこへ行ったんだ……ここは、昔の世界なのか……?」
かずよみは、数でできている世界が、見えなくなってしまったようだった。
夜であるにも関わらず「まぶしい」「色の洪水だ」とうめきはじめる。
るりなみがあっけにとられているうちに、王宮のみんなが、ばたばたと集まってきた。
ゆいりをはじめとして、王宮の給仕係や衛兵たちが、いなくなった王子るりなみ、王女ゆめづき、そして前王を探していたのだった。
ゆいりの魔法で探しても、るりなみたちがどこにいるか、まったくわからなかったのだと……るりなみが、数の世界に迷いこんでいたことを話すと、ゆいりは目を丸くしながらも、納得したようにうなずいた。
「それではわからないはずですね、数の次元に迷いこまれていたのなら……」
みんなが、「数の世界が見えなくなった」と言いたてる前王と、ゆめづきを囲んで、驚いたり、話を聞き出したりしている横で、るりなみはぎゅっとゆいりに抱きしめられた。
「よかった……無事に戻ってこられて、本当によかった……」
隣でも「よかった、よかった」という声が響いていた。
その声はだんだんに「前王陛下、万歳!」「陛下のご帰還だ!」と盛りあがっていった。
みんなの歓声の中で、るりなみは言葉もなく、ゆいりの音楽に包まれていた。
* * *
腰を打った痛みに、ぎゅっと目をつぶっていると──。
「るりなみ様?」
ゆいりの声が降ってきた。
そろそろと目を開けると、驚いたように目を見開いたゆいりに、見下ろされていた。
まわりを見回すと、そこは夜の王宮の一角、庭園沿いの渡り廊下だった。
そして世界は数字ではなく……るりなみのよく知る色や手触りや輪郭で、できていた。
「ゆめづき様に、前王陛下!」
るりなみの横に尻もちをついていた二人にも、ゆいりが驚きの声をかける。
まるで、るりなみたちが今ぱっと、なにもない場所から、いきなりゆいりの前に現れたかのように。
いや、そうなのかもしれない。
奥の塔のかずよみの部屋から、王都の街に出たときも、るりなみたちはそうやって移動したに違いない。
るりなみは、信じられないような考えを、口にしていた。
「ゆいりの音楽が、ゆいりの数の列になって……ゆいりのもとに導いてくれたんだよ、きっとそうだ……!」
そうつぶやくと、「きっとそうだ」という実感が湧いてきて、るりなみは安心と感動で泣きそうになってしまった。
ゆいりは、三人を助け起こそうにも、驚きのあまり動けない様子で、るりなみのつぶやきを聞いていた。
「るりなみ様、それはいったい……」
そのとき、言葉にあらわせないような奇声が、廊下中に響いた。
「けああああああっ、ふわあああああっ」
「父様!」
ゆめづきが、尻もちをついたまま叫ぶかずよみの肩に手をかけ、ゆさゆさと揺さぶる。
「父様、どうしたのですか、しっかり!」
「わ、私は……死んだのか……?」
叫ぶのをやめたかずよみは、そう言いながら、ゆっくりとあたりを見回す。
「死んでいません! 叫んだのもちゃんと聴こえていますよ」
ゆめづきが、ぱん、と肩に改めて勢いよく手をのせると──。
「数が……消えた……」
「え?」
ゆめづきと同時に、るりなみも「えっ」と声をあげていた。
かずよみはゆめづきの手を払い、四つん這いになって、床をぺたぺたと触ってたしかめはじめた。
「数は……どこへ行ったんだ……ここは、昔の世界なのか……?」
かずよみは、数でできている世界が、見えなくなってしまったようだった。
夜であるにも関わらず「まぶしい」「色の洪水だ」とうめきはじめる。
るりなみがあっけにとられているうちに、王宮のみんなが、ばたばたと集まってきた。
ゆいりをはじめとして、王宮の給仕係や衛兵たちが、いなくなった王子るりなみ、王女ゆめづき、そして前王を探していたのだった。
ゆいりの魔法で探しても、るりなみたちがどこにいるか、まったくわからなかったのだと……るりなみが、数の世界に迷いこんでいたことを話すと、ゆいりは目を丸くしながらも、納得したようにうなずいた。
「それではわからないはずですね、数の次元に迷いこまれていたのなら……」
みんなが、「数の世界が見えなくなった」と言いたてる前王と、ゆめづきを囲んで、驚いたり、話を聞き出したりしている横で、るりなみはぎゅっとゆいりに抱きしめられた。
「よかった……無事に戻ってこられて、本当によかった……」
隣でも「よかった、よかった」という声が響いていた。
その声はだんだんに「前王陛下、万歳!」「陛下のご帰還だ!」と盛りあがっていった。
みんなの歓声の中で、るりなみは言葉もなく、ゆいりの音楽に包まれていた。
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