上 下
93 / 126
第11話 風の航海

5 ふたつめの宝物

しおりを挟む
 水のおびは、東のとうへとびていった。

 らせん階段かいだんをのぼっていった船がまったのは、ゆいりの部屋のすぐ下の、階段のおどだった。

 色とりどりのガラスがはめられた窓をとおった光が、ゆかに色を踊らせている。
 そのいろどられた光のもとに、また、絵本えほんえがかれるような宝箱たからばこかれていた。

 水の帯をみちび音楽おんがくかなでていたのは、これもまた先ほど見たのと同じ、銀の竪琴たてごとだった。

 竪琴はすらりと、上のかいに見えるゆいりの部屋の前に立っていた。
 ひとりでにげんをかき鳴らしていた竪琴は、興味きょうみ津々しんしんに近づいていった風の子の目の前で、ゆらりと音の波にけていくように、かき消えてしまった。

 るりなみは、宝箱に手を伸ばす。

 その中には、星形ほしがた砂糖さとう菓子がしのような玉がころころとめられ、真ん中におさめられた宝物たからものを守っていた。

 そこに横たわっていたのは、望遠ぼうえんきょうだった。

 るりなみはそのつつを手に取って、中をのぞいてみた──。

 すると、踊り場の床をらす光のような、きらきらといろどゆたかな世界が広がった。

 色の海が回りながら、パズルのピースのように組まれて、六角形ろっかっけいが、七角形ななかっけい八角形はちかっけいが……数えきれないような多角形たかっけいが、星形にもなり、立体りったいてきにもなって、えがかれていく。

 望遠鏡だと思ったのに、これはまんきょうなんだ。

 るりなみがそう思ったとたん、その万華鏡の世界にぱっと光がすようにして、なにかが見えた。

 かがみの中に一瞬いっしゅんひらめいたその景色けしきは、はっきりとは見えなかったが……青空の下で手をつないでいる、るりなみとゆめづきの姿すがただった気がした。

 でもそれはすぐに消えて、万華鏡のいろどりの世界があらわれる。

 なんだろう、と首をかしげながら、るりなみは筒を顔から離し、目をまたたく。
 その足もとで、宝箱が消えていった。

素敵すてきおくものだな」

 消えていく宝箱と、その上で、まだ次の行き先を決めずにぷかぷか浮かぶ船を見ながら、風の子がしみじみと言った。

「え、これは……贈り物なのかな」

 るりなみは、左手にたずさえたしんばんと、右手に持った望遠鏡を、改めて見つめる。
 風の子は、そんなるりなみを興味きょうみぶかそうに見つめている。

「だって、そうだろ? 人間は、まわりくどいわたかたをするもんだなぁ、って俺様おれさまはびっくりしているぞ」
「そ、そうなのかな? 朝から、みんな、だれも、いなくって……」

 言葉にまるるりなみの前で、風の子はこまってほほをかくようなしぐさをした。

「うーん、これは言わないほうがいいことなのか、俺様にはわからないが……るりなみの家族や友達なら、今、るりなみからかくれて、誕生たんじょうかい用意よういをしているぞ」
「えっ」

 思わず「贈り物」を取り落としそうになりながら、るりなみは声をあげる。

「え、えええええっ」
「やっぱり、言っちゃいけなかったのか」
「いや、ええと、その……どこで、じゃなくて、ええと……僕は、聞いちゃいけないんだね」

 どきどき、とむねが上へ上へねるようにたかる。

 それを押さえるように、宝物をかかえた両手を胸の前で合わせるるりなみを見て、風の子が神妙しんみょうな顔で言った。

「るりなみを一度はさびしくさせてから、どっきりおどろかせたくて、隠れて準備じゅんびをしているみたいだが……人間って、いろいろすれちがいを起こして、大変だな」

 そうしているうちに、るりなみたちの周りで、音符おんぷ宿やどした水球すいきゅうたちが、リズムに乗るようにねはじめた。

 またどこかから流れてくる、かすかな音楽を追って、音符が並びかわり、水の玉たちがおびになってちゅうを流れはじめる。

 船が、ひょこっ、と飛び上がり、出航しゅっこうした。

 るりなみと風の子は船にみちびかれ、東のとうをくだって再び庭園ていえんに出たあと、るりなみの部屋のあるガラスの塔の階段をあがっていった。


   *   *   *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...