ユイユメ国ゆめがたり【完結】

星乃すばる

文字の大きさ
上 下
92 / 126
第11話 風の航海

4 風のお祝い

しおりを挟む
 しんばんは、音楽おんがくに乗っていく小さな船を追うように、はりを向けていた。

 それを時々ときどきたしかめて、胸をはずませながら、るりなみは屋上おくじょう庭園ていえんけていった。

 一番大きく空がひらけた、庭園の広場ひろばを走っているとき。

 ひゅん、とるりなみはうしろから、風にまかれた。

 るりなみのかたたたくかのようにけた風は、るりなみの前でつむじ風になってうずき、ぱっと人の姿すがたになった。

 るりなみとおなどしほどの少年の姿をあらわしたのは、るりなみがかつて友達になった、あの風の子だった。

「風の子さん!」
「よっ、るりなみ。誕生日たんじょうびおめでとう」

 風の子は、いつか再会さいかいしたときと同じ真っ黒な衣装いしょうのすそをなびかせて、気の良いみで片手をあげた。

 その言葉に、るりなみははっと目を見ひらいた。

 だれかに、それを言ってほしかったのだと……じわじわと、心の中が洪水こうずいになるように、言葉にならない気持ちがあふれだす。

「あ、あ、ありがとう……!」

 風の子に思わずきつきたくなるくらい、るりなみは深く感動かんどうしていたが、精霊せいれいである風の子には、るりなみのような体はない。
 その黒い衣装も、笑顔もあげた手も、うっすらとけて見える。

 るりなみが感動にふるえているあいだ、風の子は指先ゆびさきまわして風を起こし、るりなみの前を進んでいた船を引きめて、面白おもしろそうにながめていた。

「音の波に引っられて動いてるんだな、この船」
「うん、誰かの魔法なのだと思うけれど……」

 その誰かとは、ゆいりなのだろう、とるりなみは感じていないわけではない。

 でも、この王宮おうきゅうに出入りしているあのどうも、るりなみの誕生日のおいわいに、魔法のおくものをくれたくらいだ。
 誰がかけたものか、かかわっているものか、魔法のおくぶかさは見とおせない。

 あやふやなよろこびにひたって、立ちまっているひまはなかった。
 るりなみは、船を追うことだけで心をいっぱいにして走ってきたのだ。

「るりなみ、俺様おれさまもいっしょに追っていってもいいか?」
「もちろん!」
「じゃあ、出発だな!」

 風の子が指先の風をひゅっとはなち、かみこうを飛ばすように船をほうった。

 それまで出航しゅっこうできずに渦巻いていた力をあふれさせるように、船は、ぱんっ、とにいっぱいの風と音楽を受けて、進み出した。


   *   *   *
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

はるたんぽ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
はるたんぽ ってなんだと思う? はるたんぽ は湯たんぽみたいなんですが、お湯を入れなくてもいいんです。 はるたんぽは……。

灰色のねこっち

ひさよし はじめ
児童書・童話
痩せっぽちでボロボロで使い古された雑巾のような毛色の猫の名前は「ねこっち」 気が弱くて弱虫で、いつも餌に困っていたねこっちはある人と出会う。 そして一匹と一人の共同生活が始まった。 そんなねこっちのノラ時代から飼い猫時代、そして天に召されるまでの驚きとハラハラと涙のお話。 最後まで懸命に生きた、一匹の猫の命の軌跡。 ※実話を猫視点から書いた童話風なお話です。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...