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第10話 時の訪問者
7 素直な心
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あわてて両手を振ってごまかそうとするるりなみの横で、ひゅっ、と風が生まれるように空気が動いたかと思うと、子どものゆいりが姿を消していた。
ほうきとはたきを手にしたみつみは、つかつかとゆいりの部屋に入ってくる。
「あ、あの、みつみ、僕たち……」
「実は、ゆいりさんに頼まれて、この部屋に用事があったんです」
堂々と答えたゆめづきの顔を、るりなみはびっくりして穴があくほど見つめた。
それは……子どものゆいりに頼まれて、ということだろうか?
みつみは、いつもと変わらない笑顔で、首をかしげた。
「今から、この部屋のお掃除の時間なんです。机も、ベッドも、そこの〝影〟になっているところも、はたかないと……ご用事はすぐにすみますか?」
るりなみは、思わずみつみに近寄って、エプロンのすそをつかみ……ふるふると首を横に振りながら、言葉をつむいでいた。
「そうじゃないんだ、みつみ、実は……実は、僕たち……どうしても、ゆいりに見つからないように、この部屋に入らなくちゃいけなかったんだ」
ゆめづきが小さく「兄様!」と声をあげる。
でもるりなみは、嘘をついたり取りつくろったりすることには、耐えられなかった。
それもこの、大切なゆいりの部屋で……。
「事情は、今は言えないんだけど、いつかちゃんと、ゆいりに説明するから……」
みつみは、ほうほう、と軽くうなずきながら、るりなみの告白を聞き終えて。
「わかりました、るりなみ様」
え、とるりなみは顔をあげる。
「じゃあ、私がちゃちゃっと、ゆいり様をまいておきますから。ゆいり様がこの部屋に帰ろうとしたら、呼び止めます。半時間くらいなら、お天気やお料理の話で盛り上がれるでしょう」
みつみは、るりなみに協力してくれる、というのだった。
るりなみは思わず「みつみ……!」と感動の声をあげる。
「では、私はこれで。みなさん、ごゆっくり」
みつみはそう言って手を振るようにはたきを振り、風のように去っていった。
「なんだ、あの妖精」
いきなりそんな声がしたかと思うと、子どものゆいりがいつのまにか、るりなみの横に立っていた。
「ど、どこにいたの!」
「影の中に隠れてたんだけど、あの妖精、何度もこっちを見たよ……おそろしいやつ」
「なにを言うんです、貴重な協力者ではないですか。それで」
ゆめづきが腕を組みながら、子どものゆいりに問いかけた。
「少なくとも半時間、ここにいられるかもしれません。あなたは、なにがしたかったのですか?」
「見たいものがあるんだよ」
子どものゆいりは、急に素直になり、きょろきょろと部屋を見回しはじめた。
「どうしても、見たいものなんだ。もしそれが存在するなら、僕の性格からして、きっと捨てないと思うんだ……」
その「なにか」を探しはじめる子ども時代のゆいりを見ながら、るりなみは──その小さなうしろ姿に、ふっと、大人のゆいりが重なって見えたような気がした。
* * *
ほうきとはたきを手にしたみつみは、つかつかとゆいりの部屋に入ってくる。
「あ、あの、みつみ、僕たち……」
「実は、ゆいりさんに頼まれて、この部屋に用事があったんです」
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それは……子どものゆいりに頼まれて、ということだろうか?
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「そうじゃないんだ、みつみ、実は……実は、僕たち……どうしても、ゆいりに見つからないように、この部屋に入らなくちゃいけなかったんだ」
ゆめづきが小さく「兄様!」と声をあげる。
でもるりなみは、嘘をついたり取りつくろったりすることには、耐えられなかった。
それもこの、大切なゆいりの部屋で……。
「事情は、今は言えないんだけど、いつかちゃんと、ゆいりに説明するから……」
みつみは、ほうほう、と軽くうなずきながら、るりなみの告白を聞き終えて。
「わかりました、るりなみ様」
え、とるりなみは顔をあげる。
「じゃあ、私がちゃちゃっと、ゆいり様をまいておきますから。ゆいり様がこの部屋に帰ろうとしたら、呼び止めます。半時間くらいなら、お天気やお料理の話で盛り上がれるでしょう」
みつみは、るりなみに協力してくれる、というのだった。
るりなみは思わず「みつみ……!」と感動の声をあげる。
「では、私はこれで。みなさん、ごゆっくり」
みつみはそう言って手を振るようにはたきを振り、風のように去っていった。
「なんだ、あの妖精」
いきなりそんな声がしたかと思うと、子どものゆいりがいつのまにか、るりなみの横に立っていた。
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「なにを言うんです、貴重な協力者ではないですか。それで」
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「少なくとも半時間、ここにいられるかもしれません。あなたは、なにがしたかったのですか?」
「見たいものがあるんだよ」
子どものゆいりは、急に素直になり、きょろきょろと部屋を見回しはじめた。
「どうしても、見たいものなんだ。もしそれが存在するなら、僕の性格からして、きっと捨てないと思うんだ……」
その「なにか」を探しはじめる子ども時代のゆいりを見ながら、るりなみは──その小さなうしろ姿に、ふっと、大人のゆいりが重なって見えたような気がした。
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