上 下
77 / 126
第10話 時の訪問者

2 小さな来訪者

しおりを挟む
「あ、あの!」

 るりなみがなんとか声を張りあげると、その子はめたような細めた目を向けた。

「あの、どいてくれませんか……?」

 その子はそれを聞くと、るりなみの上からどくどころか、四つんいになってるりなみにった。
 まるでめずらしい動物を見つけて、近って観察かんさつするような目が、るりなみに向けられる。

「君が、今のこの国の王子?」

 じろじろと、その子はるりなみをながめまわす。

 そのひとみうつるるりなみは、悪夢を見てはね起きたままで──青いかみもぼさぼさにはねて、寝間着ねまきもぐちゃぐちゃによれて、目尻めじりには涙のあとまでついて、それはなさけない姿すがたちがいなかった。

 それに対して、目の前のその子は、男の子にも女の子にも見えるきよらなローブを着こなして、おかっぱの髪は切りそろえられてつやがあり、なによりその顔の聡明そうめいそうな目は、星を宿やどした夜空よぞらのような深みを持っていた。

 なんてきれいなんだろう、と思うるりなみに、その子がいきなり言葉をぶつけた。

「なんにも頭がまわってなさそうな顔をしているね」
「え……、は?」

 それが悪口わるくちなのか、その子の素直すなお感想かんそうなのか、あるいはなにか別の意味をかくした言葉なのか、わからなかった。
 なんの悪びれたふうもなく、その子はすらすら続けた。

優秀ゆうしゅうな先生についてもらっているんだから、もうちょっとかしこそうにしたらどう? たとえ中身なかみがそうじゃないとしてもさ。でないと、君の先生がはじをかくだろ?」
「ゆ、ゆいりはそんなことないよ!」

 とっさにそう言い返してから、るりなみは、あっ、と口をおさえた。
 頭の中で、さらに混乱こんらんが深まっていく。

 なんにも頭が回っていないだなんて、そんなことはまったくない。
 るりなみはいきなりやってきたその子を見ながら、めまぐるしく考えていたのだ。

 だってその子は──かげの国を冒険ぼうけんしたときに出会った、「子どものゆいり」にそっくりだったのだ。

 その子は、しかし「ゆいり」という名まえを聞いて、おかしそうに笑った。

「あっははは……ゆいりの内心ないしんのなにが、君にわかるっていうのさ? いつも君のこと、理解りかいおそくてこまったおさまだなぁ、って思っているかもよ」
「き、君はっ」

 るりなみは、あまりの暴言ぼうげんおどろいたせいか、くやしさやいかりがいたのか、混乱がどうにもならなくなったのか……自分でもわからないが、泣きそうになりながら言った。

「君はなんで、そんなことを僕に言うの」

 涙を目にためて、必死ひっしにそう言い返したるりなみを見て、その子は少し言いすぎたと反省はんせいしたかのように、目をせて自分の髪をなでるようにした。

「うーん、どうしようかなぁ……すぐに名乗るつもりはなかったんだけど。これ以上、君を混乱させるのもかわいそうになってきたし……」

 その子は顔をあげると、るりなみをまっすぐに見て言った。

「僕は、ゆいりっていうんだ。君から見たら、昔の──子どものころのゆいりだよ」


   *   *   *
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

季節外れのナナホシテントウ

餅居
児童書・童話
先日、雪降る中をトコトコ歩くナナホシテントウを見つけた時に思いついて書きました。 ナナホシテントウが主人公ですが、ジャンルが分かりません。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

処理中です...