73 / 126
第9話 星菓子の花
8 銀と緑の戦い
しおりを挟む
たくさんのお菓子をつくりあげたるりなみとゆめづきは、まずは国王あめかみの執務室を訪ねよう、と決めた。
側近であるゆいりも、そこにいるかもしれない。
二人はよくできたお菓子を選んで、お盆にのせ、王宮の低い階にある厨房を出た。
厨房から何階分かをのぼって、屋上庭園のある階にまでいったさらに上に、東西南北の塔と中央のガラスの塔が立っている。
そのガラスの塔の最上階に近いるりなみの部屋の上が、国王の執務室だった。
普段の料理を運ぶときには、宮廷魔術師たちの力で、ものを浮かせたり、ひとりでに台車を動かしたりする魔法が使われているはずだった。
お菓子を運ぶるりなみたちに、その魔法はない……るりなみとゆめづきは、お盆を支える腕や階段をのぼる足が痛くなるのをこらえて、らせん階段をひたすらのぼった。
その階段がそろそろ、るりなみの部屋の階につくかと思われた頃──。
「わあっ、なんですかこれ……!」
数段上をのぼっていたゆめづきが、悲鳴のような声をあげた。
急いで追いついたるりなみも、あっけにとられた。
るりなみの部屋のある階から、植物のつるや葉がぐいぐいと伸びて、階段をおおっている。
その植物には、二人が今、お菓子に仕立てた蜜を宿した星の花が、たわわに咲いていた。
あのるりなみの部屋の小さな鉢から、成長し続けたのだろうか……二人が顔を見合わせるあいだにも、つるの先にぽんぽんと新芽が弾けて、新たな花も咲き、植物は伸び続ける。
下の段へ、下の階へ、侵略をしていく兵士の軍団のように……。
「どうしよう、上の階の父上の部屋にも伸びているのかな」
おろおろとするるりなみの横で、ゆめづきが「そうだ!」と声をあげた。
「時計のねじを逆さまにまいたら、もとに戻るかもしれません!」
ゆめづきのひらめきに、るりなみは大きくうなずいた。ゆめづきの持っていたお盆も受け取り、片手ずつになんとか載せる。
ゆめづきは、懐中時計を取り出して、ねじを反対向きにまこうとしたが……。
「あっ」
「どうしたの?」
「ねじが、取れてしまいました……」
取れたねじを手にしたゆめづきが、泣きそうな顔を向けてくる。
そのうしろで、しかし──ねじが取れるまでに少しだけ時計がまかれたことに反応したのか、わっと植物が勢いをまして、踊るように二人におそいかかってきた。
るりなみは生まれてはじめて、植物の動きに、その伸び方やあふれるような力に、心の底からぞっとした。
「ゆめづき、逃げなきゃ!」
二つのお盆をとっさに床に置き、それでもいくつかのお菓子の胸に抱くと、るりなみはゆめづきの手を取って、階段を下へ駆けおりはじめた。
二人は必死に、夢中で、駆けおりた。
伸びてきたつるの先を避けようと、一段飛ばしや二段飛ばしで階段を飛びおりても、なんとか着地して、走って走って──。
るりなみとゆめづきは、雪の屋上庭園へと転がり出た。
ここを通れば、別の塔へ逃げることもできる。
だが二人が行き先に迷ってきょろきょろとしたとき、追ってきたつるがむちのようにしなって、るりなみに振り下ろされた。
「兄様、危ない!」
ゆめづきに肩をぐいと引っ張られて、るりなみは雪の上に倒れこんだ。
持っていたお菓子が遠くまで投げ出されて散らばった。
振り向くと、転んで体を起こしたゆめづきの上につるがせまっていた。
ゆめづきはもう逃げる余裕もなく、真っ向からつるに向き合うようにして、両手で顔をかばう──。
「ゆめづき!」
るりなみが叫んだそのとき。
ひゅん、と銀の矢が飛んできて、ゆめづきの上のつるを射抜き、そのもとの太い茎へと刺しとめた。
矢が刺さったところから、みるまに植物が凍りついていく。
つるの先が凍り、周りの葉が凍り、花が凍り、植物は銀色に凍てついていく。
小さな氷の精霊が植物の上を走り抜けていくかのようだった。
その氷の舞いは植物の根もとへと、階段をたどって、上の階の見えなくなるところまで、すべてを凍らせていった。
「るりなみ様、ゆめづき様、おけがはありませんか」
庭園沿いの渡り廊下の向こうからやってきたのは、銀の弓を持ったゆいりだった。
「ゆいり……!」
るりなみは思わず声をあげる。
側近であるゆいりも、そこにいるかもしれない。
二人はよくできたお菓子を選んで、お盆にのせ、王宮の低い階にある厨房を出た。
厨房から何階分かをのぼって、屋上庭園のある階にまでいったさらに上に、東西南北の塔と中央のガラスの塔が立っている。
そのガラスの塔の最上階に近いるりなみの部屋の上が、国王の執務室だった。
普段の料理を運ぶときには、宮廷魔術師たちの力で、ものを浮かせたり、ひとりでに台車を動かしたりする魔法が使われているはずだった。
お菓子を運ぶるりなみたちに、その魔法はない……るりなみとゆめづきは、お盆を支える腕や階段をのぼる足が痛くなるのをこらえて、らせん階段をひたすらのぼった。
その階段がそろそろ、るりなみの部屋の階につくかと思われた頃──。
「わあっ、なんですかこれ……!」
数段上をのぼっていたゆめづきが、悲鳴のような声をあげた。
急いで追いついたるりなみも、あっけにとられた。
るりなみの部屋のある階から、植物のつるや葉がぐいぐいと伸びて、階段をおおっている。
その植物には、二人が今、お菓子に仕立てた蜜を宿した星の花が、たわわに咲いていた。
あのるりなみの部屋の小さな鉢から、成長し続けたのだろうか……二人が顔を見合わせるあいだにも、つるの先にぽんぽんと新芽が弾けて、新たな花も咲き、植物は伸び続ける。
下の段へ、下の階へ、侵略をしていく兵士の軍団のように……。
「どうしよう、上の階の父上の部屋にも伸びているのかな」
おろおろとするるりなみの横で、ゆめづきが「そうだ!」と声をあげた。
「時計のねじを逆さまにまいたら、もとに戻るかもしれません!」
ゆめづきのひらめきに、るりなみは大きくうなずいた。ゆめづきの持っていたお盆も受け取り、片手ずつになんとか載せる。
ゆめづきは、懐中時計を取り出して、ねじを反対向きにまこうとしたが……。
「あっ」
「どうしたの?」
「ねじが、取れてしまいました……」
取れたねじを手にしたゆめづきが、泣きそうな顔を向けてくる。
そのうしろで、しかし──ねじが取れるまでに少しだけ時計がまかれたことに反応したのか、わっと植物が勢いをまして、踊るように二人におそいかかってきた。
るりなみは生まれてはじめて、植物の動きに、その伸び方やあふれるような力に、心の底からぞっとした。
「ゆめづき、逃げなきゃ!」
二つのお盆をとっさに床に置き、それでもいくつかのお菓子の胸に抱くと、るりなみはゆめづきの手を取って、階段を下へ駆けおりはじめた。
二人は必死に、夢中で、駆けおりた。
伸びてきたつるの先を避けようと、一段飛ばしや二段飛ばしで階段を飛びおりても、なんとか着地して、走って走って──。
るりなみとゆめづきは、雪の屋上庭園へと転がり出た。
ここを通れば、別の塔へ逃げることもできる。
だが二人が行き先に迷ってきょろきょろとしたとき、追ってきたつるがむちのようにしなって、るりなみに振り下ろされた。
「兄様、危ない!」
ゆめづきに肩をぐいと引っ張られて、るりなみは雪の上に倒れこんだ。
持っていたお菓子が遠くまで投げ出されて散らばった。
振り向くと、転んで体を起こしたゆめづきの上につるがせまっていた。
ゆめづきはもう逃げる余裕もなく、真っ向からつるに向き合うようにして、両手で顔をかばう──。
「ゆめづき!」
るりなみが叫んだそのとき。
ひゅん、と銀の矢が飛んできて、ゆめづきの上のつるを射抜き、そのもとの太い茎へと刺しとめた。
矢が刺さったところから、みるまに植物が凍りついていく。
つるの先が凍り、周りの葉が凍り、花が凍り、植物は銀色に凍てついていく。
小さな氷の精霊が植物の上を走り抜けていくかのようだった。
その氷の舞いは植物の根もとへと、階段をたどって、上の階の見えなくなるところまで、すべてを凍らせていった。
「るりなみ様、ゆめづき様、おけがはありませんか」
庭園沿いの渡り廊下の向こうからやってきたのは、銀の弓を持ったゆいりだった。
「ゆいり……!」
るりなみは思わず声をあげる。
0
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
マジカル・ミッション
碧月あめり
児童書・童話
小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる