68 / 126
第9話 星菓子の花
3 時計をまいて
しおりを挟む袋をるりなみに差し出しながら、少年はさらりと言った。
「その植物が育つために必要なのは、陽の光でも、水でもありません──その種の栄養になるのは、ゆめづき王女殿下にお渡ししてある、時計のねじをまくことです」
「え……、は……?」
るりなみは思わず、袋を受け取る手をとめて固まった。
「ゆめづきの、時計……?」
るりなみの親戚の王女、ゆめづき。
年末に、遠くの離宮からこの王宮へやってきて、今もまだ、南の塔に暮らしているはずだった。
年越しのお祭りの夜に、秘密の宝物だ、と言ってゆめづきが見せてくれた、羅針盤のようなふしぎな懐中時計のことを、るりなみはよく憶えている。
──それは時空をはかる時計だ、とゆめづきは言っていた。
「時計のねじを、植えた種のそばでまいてあげてください。軽く、でいいですよ」
どういうことですか、とるりなみが尋ねる前に、少年はよいしょ、と大きな楽器を持ち上げながらベンチに腰かけて、演奏の構えをとった。
「では、日も高くなってきたから、僕は新雪と陽光をかけあわせる音楽を弾かないと」
「あ、ありがとうございます」
るりなみがあわてて言うと、少年はにっこりとうなずいて、目を閉じた。
そして、またあのはっきりとした音でない、天空の音楽のような曲を奏ではじめる。
るりなみはしばらくその姿を見守ったあと、種を入れた袋を握りしめて、自分の寝室のあるガラスの塔へ帰ることにした。
雪の庭園を歩いて、東屋を振り返ったるりなみは、あれ、と首をかしげた。
雪の上には、るりなみが踏んだ足あとがあるばかり……。
あの少年は、どうやって東屋に行ったのだろう?
雪がたくさん積もる前から、ずっとあそこにいたのだろうか?
耳を澄ましても、少年がまだそこで演奏をしているかどうかは、わからなかった。
るりなみは袋から星形の種をひとつ取り出して、雪の舞う空にかざしてみた。
「植えたそばで、時計のねじをまく、って……」
旅をしているというあの少年も、魔法使いなのかもしれない。
るりなみの教育係であり、一番の先生である、ゆいりのように。
ゆいりも、ふしぎな魔法をいつもいっぱい見せてくれるではないか。
そう思ったら、急にるりなみはわくわくとして、ゆめづきに種を見せるのが待ちきれなくなった。
* * *
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
不死鳥の巫女はあやかし総長飛鳥に溺愛される!~出逢い・行方不明事件解決篇~
とらんぽりんまる
児童書・童話
第1回きずな児童書大賞・奨励賞頂きました。応援ありがとうございました!!
中学入学と同時に田舎から引っ越し都会の寮学校「紅炎学園」に入学した女子、朱雀桃花。
桃花は登校初日の朝に犬の化け物に襲われる。
それを助けてくれたのは刀を振るう長ランの男子、飛鳥紅緒。
彼は「総長飛鳥」と呼ばれていた。
そんな彼がまさかの成績優秀特Aクラスで隣の席!?
怖い不良かと思っていたが授業中に突然、みんなが停止し飛鳥は仲間の四人と一緒に戦い始める。
飛鳥は総長は総長でも、みんなを悪いあやかしから守る正義のチーム「紅刃斬(こうじんき)」の
あやかし総長だった!
そして理事長から桃花は、過去に不死鳥の加護を受けた「不死鳥の巫女」だと告げられる。
その日から始まった寮生活。桃花は飛鳥と仲間四人とのルームシェアでイケメン達と暮らすことになった。
桃花と総長飛鳥と四天王は、悪のあやかしチーム「蒼騎審(そうきしん)」との攻防をしながら
子供達を脅かす事件も解決していく。
桃花がチームに参加して初の事件は、紅炎学園生徒の行方不明事件だった。
スマホを残して生徒が消えていく――。
桃花と紅緒は四天王達と協力して解決することができるのか――!?
バラの精と花の姫
緒方宗谷
児童書・童話
神々が住む花の里に、生まれた時からイジメられているバラがいました。
この物語は、大勢の心の弱さが集まってできた渦に溺れ踠くバラが、姫に導かれて少しずつ成長していく教養小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる