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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り

12 影の友達

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 何軒なんげんの家をまわったかかぞえられなくなったころとおりの終わりが見えてきた。

 そのいくつかまえの家で、とん、と灯籠とうろうたたこうとしたるりなみは、つえばす自分の手に、だれかが手をえてくれているようなあたたかさを感じた。

 灯籠を叩こうとする杖をめて、るりなみは杖をにぎる手をじっと見つめた。

 すると、うっすらとかげが見えた。
 暗がりから、あたりのやみよりさらに深い闇色やみいろの影が伸びて、るりなみの手にかさなっているように見えた。

「ひょっとして……」

 るりなみは小さく呼びかける。

「僕の影さん、いっしょに杖を持っているの?」

 ぴょん、とるりなみの影が、足もとをはなれることはないながらも、夜の闇の中で飛びねたのが、家のかべうつった。

「今、なにが起きたのですか?」

 ゆめづきがおどろいた顔で、るりなみをのぞきこむ。

「あのね、僕の影が……」

 るりなみはゆめづきに、影とのことを明かした。

「ええと、僕は、自分の影と友達なのだけど……いっしょに影の国を冒険ぼうけんしたんだ」

 影の国にゆいりを探しに行って、影たちとおどった夜のあと、るりなみの影はひとりでに動くこともなく、話しかけてくることもなくなっていた。
 それでも、るりなみは自分の影を見るたびに、友達だと感じていた。

 ゆめづきは驚いて目をまたたいたあと、神妙しんみょうな顔で言った。

「読んだことがあります。とししの夜は、影たちの世界がおもての世界につながるのだと」

 るりなみの影が、それに答えるように、家の壁でゆらゆらとれた。

 ゆめづきがごくりとつばをのむ。
 影がこわいのかな、とるりなみは少し不安になる。

 だがゆめづきはおびえをはらうように首を横に振って、るりなみの影に向けて声をかけた。

「こんばんは、ゆめづきです、よろしく」

 すると、るりなみの心に影の声が聞こえた。

〝影の国は、いつもはこのまちに、重なってうらがえってねむっているけれどね……年越しの夜にだけ、ぴったりと表になって重なって、いっしょに夜めぐりをするんだよ〟

 その声は、心の中にひびいているようなのに、ゆめづきにも聞こえているようだった。

〝灯籠のあかりを、今晩こんばんみんなが眠っているあいだに、月のかたちに、あるいは星の形にかためるのは、影たちなのさ〟

「そうだったのですか」

 ゆめづきが、るりなみの影にうなずきかけた。

「教えてくれて、ありがとうございます」

 ゆめづきがそう言ったのに合わせて、家の壁に映ったるりなみの影とゆめづきの影が、すっと手をし出しあって、握手あくしゅをするのが見えた。

「私の影さんも……!」

 ゆめづきの影は、ゆめづきに向けてゆうにお辞儀じぎをすると、しゅるり、と本来ほんらいの場所へもどった。
「よろしくね」と挨拶あいさつをしたかのようだった。


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