ユイユメ国ゆめがたり【完結】

[第２部] 第８話 夜めぐりの祭り

７ 隠された道

　年明けを待まつ、一年でいちばん夜の長い晩ばん。
　都みやこのすべての家々いえいえが、家の戸とに空からの灯籠とうろうをさげておきます。
　月の化身けしん、星の化身とされる二人組の子どもたちが、魔法まほうの杖つえをもち、
　歌いながら灯籠を叩たたいて、あかりをともしながら、街をめぐっていくのです──。

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　ゆいりからお祭りのことを改あらためて教えてもらい、実際じっさいにはどんなふうだろう、と想像そうぞうして過すごすうちに、年は暮くれていき……あっというまに一年の最後の日は、るりなみのもとにやってきた。

　年の暮れ。王宮おうきゅうの中は、あわただしかった。

　大臣だいじんから料理りょうり係がかりや掃除そうじ屋やにいたるまで、今年をきちんと終えて、新しい年を迎むかえるための仕事に追われていた。

　宮廷魔術師きゅうていまじゅつしであるゆいりも、他ほかの役職やくしょくを持つ先生たちも、年末ねんまつの何日かは、特別とくべつな仕事に忙いそがしい。
　るりなみの授業じゅぎょうは休みになって、宿題しゅくだいだけがどっさりと出た。

　そして最後の日には、教育係のゆいりだけでなく、るりなみの一番の世話せわ係がかりの「みつみ」までが、年とし越こしの仕事に追われて、るりなみを放ほったらかしにしてしまった。

　……本来ほんらいならば、こんな大切な一年のしめくくりの日に、こんな寂さびしい思いをするなんて、と泣きたくなったかもしれない。

　しかし、この日、冒険ぼうけんに出る身としては、なにかの魔法がはたらいて、みんながるりなみから目をそらしてしまったかと感じられた。

　ふしぎな驚おどろきに、るりなみは震ふるえた。

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　あたりが薄うす暗ぐらくなりはじめた頃ころ、るりなみはあたたかい上着うわぎを着きこんで、屋上庭園おくじょうていえんにおもむいた。

　南の塔とうへ続つづく出口でぐちの扉とびらの近くへ、そっと歩いていく。

　そこには、ひとりの少年が立っているように見えた。
　誰だれだろう、と様子ようすをうかがいながら近づいて、るりなみはびっくりした。

「やぁ」

　軽い声とともに手をあげて笑いかけてきたのは、待ち合わせていた、ゆめづきだった。

　ゆめづきは桜さくら色いろの髪かみをすべて、きのこ形がたの帽子ぼうしにしまいこみ、あたりの薄闇うすやみにまぎれてしまうような灰はい茶ちゃ色いろの地味じみな服を着ていた。
　まるで、郵便ゆうびんや新聞しんぶんを配くばる少年のようないでたちだった。

「すごい変装へんそうだね……！　そんな服も持っていたの」

　るりなみが素直すなおに驚おどろきを伝つたえると、ゆめづきは街の路地ろじ裏うらの少年のように、不ふ敵てきに笑ってみせた。

「一生いっしょうに一度の機会きかいを狙ねらってきたんですよ。離宮りきゅうから、必要ひつようなものは持ってくるに決まっているじゃない……そして、この王宮の調査ちょうさもぬかりないですよ、兄様にいさま」

　ゆめづきは扉の裏うら手てにまわりこみ、ちょいちょい、と手て招まねきをした。

「庭園の上では、ここだけが、実は排水口はいすいこうではなくて……」

　るりなみが追ってのぞきこむと、ゆめづきは排水口の格子こうしのように床ゆかにはめられている金属きんぞくのふたに手をかけた。

　ぐっと力を使って、声ひとつあげずにそれを持ちあげて、脇わきにずらす。

　その下には、階段かいだんが続つづいていた。

「秘ひ密みつの通つう路ろ……！」

　るりなみが感動かんどうの声をあげると、ゆめづきは肩をすくめた。

「兄様ったら、ずうっとこのお城しろに住んでたんでしょう？　どうしてもっと探検たんけんしてみなかったんです？」
「秘密の通路って、どうやって探すの？　魔法とか……？」

　ゆめづきは「もう！」と笑い出しかけ、はっとして声を落とした。

「図と書しょ室しつで調しらべるに決まっています。でも、実のところは、聞き込みでわかったんです」

　さぁ、行きましょう、と階段を降おりていくゆめづきは、しっかりと小さな灯あかりを手にしていた。

「君は、冒険家ぼうけんかとか、探索者たんさくしゃになれそうだね」

　るりなみが心から関心かんしんしてそう言うと、ゆめづきはさっと振ふり向いた。

「そんな運命うんめいも、あったらよかったんですけどね」

　寂さびしそうな顔だった。
　だがすぐに、ゆめづきは顔を前に戻もどしてしまう。

　その心の中には、なにがあるのか……僕にはなにもわからない、とるりなみは少し気を落とし、なぜだか申もうし訳わけなさも感じた。

　それでも、年とし越こしの晩ばんに、王宮を秘密の通路から抜ぬけ出す、という冒険は、すぐにるりなみの心をわくわくとさせ、目の前に続く道に夢中むちゅうにさせていった。

　二人は、言葉はあまり交かわさないながら、どきどきと階段や通路を通とおっていった。


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