55 / 126
[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り
6 王位継承者
しおりを挟む
「ゆめづきが……君が、次の王様になるひとだったの?」
「ええ。六歳の頃に、それがうちうちに決められて、私は女王になる教育を受けるために、離宮に移ったんです」
ユイユメ王国の今の国王は、るりなみの父親の「あめかみ」だ。
王国では、今の国王の次に国王になる者を、ひとりだけ王位継承者に指名する。
今の王の子どもが優先されるわけでもなく、性別や年齢にも決まりはなく、すべての王族の中から、ふさわしい者が選ばれる、とされている。
るりなみにとって〝王位継承者〟とは、自分ではない、ということを感じる言葉にすぎなかった。
身近な誰かが、次の王様になるために準備をしているのだろう、と想像したこともなかった。
「僕は、なんにも知らなかった」
るりなみがぽつりとつぶやくと、ゆめづきはどこか切なそうに微笑んだ。
「むりもないです。兄様には、とりわけなにも伝わらないようにされていたのでしょう。次の国王に指名されるのは、兄様だったとしてもふしぎはなかったのだから」
「そんなの、考えたこともないよ。だけど、君は……」
ゆめづきはひらひら手を振って、るりなみの言葉をさえぎった。
「だから、正式に王位継承者になってしまったら、もう街に遊びになんて出られないかもしれません。春の誕生日を前に、この王都に戻ってきたのですが、今年の年越しが一生に一度の機会なんです」
ゆめづきは、ほう、とため息をついて、最後に小さな声でつけたした。
「ずうっと、やってみたかったの。お祭りであかりをともすのを」
……るりなみの心は、その言葉で決まった。
内緒で出かけて、ゆいりやみんなに心配をかけるとしても……なぜか今はそれよりも、今こそ冒険をするべきときなんだ、という気持ちになった。
勇ましいような、浮き足立つような。
そんな気持ちになったことは、今までになかったかもしれない。
「わかった、いっしょに行こうよ」
るりなみはそっと、ゆめづきが片手をかけている灯籠に、手を伸ばしてそえた。
ゆめづきは微笑んでうなずいた。
もう、切なそうには見えなかった。
* * *
「ええ。六歳の頃に、それがうちうちに決められて、私は女王になる教育を受けるために、離宮に移ったんです」
ユイユメ王国の今の国王は、るりなみの父親の「あめかみ」だ。
王国では、今の国王の次に国王になる者を、ひとりだけ王位継承者に指名する。
今の王の子どもが優先されるわけでもなく、性別や年齢にも決まりはなく、すべての王族の中から、ふさわしい者が選ばれる、とされている。
るりなみにとって〝王位継承者〟とは、自分ではない、ということを感じる言葉にすぎなかった。
身近な誰かが、次の王様になるために準備をしているのだろう、と想像したこともなかった。
「僕は、なんにも知らなかった」
るりなみがぽつりとつぶやくと、ゆめづきはどこか切なそうに微笑んだ。
「むりもないです。兄様には、とりわけなにも伝わらないようにされていたのでしょう。次の国王に指名されるのは、兄様だったとしてもふしぎはなかったのだから」
「そんなの、考えたこともないよ。だけど、君は……」
ゆめづきはひらひら手を振って、るりなみの言葉をさえぎった。
「だから、正式に王位継承者になってしまったら、もう街に遊びになんて出られないかもしれません。春の誕生日を前に、この王都に戻ってきたのですが、今年の年越しが一生に一度の機会なんです」
ゆめづきは、ほう、とため息をついて、最後に小さな声でつけたした。
「ずうっと、やってみたかったの。お祭りであかりをともすのを」
……るりなみの心は、その言葉で決まった。
内緒で出かけて、ゆいりやみんなに心配をかけるとしても……なぜか今はそれよりも、今こそ冒険をするべきときなんだ、という気持ちになった。
勇ましいような、浮き足立つような。
そんな気持ちになったことは、今までになかったかもしれない。
「わかった、いっしょに行こうよ」
るりなみはそっと、ゆめづきが片手をかけている灯籠に、手を伸ばしてそえた。
ゆめづきは微笑んでうなずいた。
もう、切なそうには見えなかった。
* * *
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【シーズン2完】おしゃれに変身!って聞いてたんですけど……これってコウモリ女ですよね?
ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
「どうしてこんな事になっちゃったの!?」
陰キャで地味な服ばかり着ているメカクレ中学生の月澄佳穂(つきすみかほ)。彼女は、祖母から出された無理難題「おしゃれしなさい」をなんとかするため、中身も読まずにある契約書にサインをしてしまう。
それは、鳥や動物の能力持っている者たちの鬼ごっこ『イソップ・ハント』の契約書だった!
夜毎、コウモリ女に変身し『ハント』を逃げるハメになった佳穂。そのたった一人の逃亡者・佳穂に協力する男子が現れる――
横浜の夜に繰り広げられるバトルファンタジー!
【シーズン2完了! ありがとうございます!】
シーズン1・めざまし編 シーズン2・学園編その1 更新完了しました!
それぞれ児童文庫にして1冊分くらいの分量。小学生でも2時間くらいで読み切れます。
そして、ただいまシーズン3・学園編その2 書きだめ中!
深くイソップ・ハントの世界に関わっていくことになった佳穂。これからいったいどうなるのか!?
本作はシーズン書きおろし方式を採用。全5シーズン順次書き上がり次第公開いたします。
お気に入りに登録していただくと、更新の通知が届きます。
気になる方はぜひお願いいたします。
【最後まで逃げ切る佳穂を応援してください!】
本作は、第1回きずな児童書大賞にて奨励賞を頂戴いたしましたが、書籍化にまでは届いていません。
感想、応援いただければ、佳穂は頑張って飛んでくれますし、なにより作者〆野々のはげみになります。
一言でも感想、紹介いただければうれしいです。
【新ビジュアル公開!】
新しい表紙はギルバートさんに描いていただきました。佳穂と犬上のツーショットです!
中の人なんてないさっ!
河津田 眞紀
児童書・童話
奈々瀬紗音(ななせしゃのん)は、春から中学二年になる十三歳の少女。
幼い頃から歌が大好きで、子ども向け番組の『歌のおねえさん』になるのが夢だった。
しかし、七歳の時に受けた番組オーディションで不合格になり、そのショックで夢と歌から目を背けるようになる。
そんな時、大好きだった子ども向け番組が終了することを知り、紗音は気づく。
時間は永遠じゃない。
どんなに楽しいことも、いつかは終わりを迎える。
だから、"今"を精一杯生きなければならないのだ、と。
そうして紗音は、もう一度夢に向き合い、新しく始まる子ども向け番組のオーディションを受けた。
結果は、合格。
晴れて東京の芸能事務所に所属することになった。
期待に胸を膨らませて臨んだ、番組の打ち合わせ。
そこで紗音は、プロデューサーから衝撃的な言葉を言い渡される。
それは……
「マスコットキャラクターの着ぐるみと中の人が、失踪……?!」
『中の人』を捜索する中で、紗音は不思議な空間に迷い込む。
そこで彼女の前に現れたのは……
異星人を名乗る『青い狼人間』と、『お喋りなうさぎ』と、『角の生えた女の子』だった。
本物だらけのマスコットたちと『歌』を通じて絆を深める、ドタバタスペースファンタジー!
今日の夜。学校で
倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。
如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる
魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】
小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。
そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。
どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。
しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……
たかが、恋
水野七緒
児童書・童話
「恋愛なんてバカみたい」──日頃からそう思っている中学1年生の友香(ともか)。それなのに、クラスメイトの間中(まなか)くんに頼みこまれて「あるお願い」を引き受けることに。そのお願いとは、恋愛に関すること。初恋もまだの彼女に、果たしてその役目はつとまるのか?
百叡くんのパパ
明智 颯茄
児童書・童話
差別って何ですか?
小学校一年生、百叡(びゃくえい)くんのパパに、学校のお友達は興味津々。
しかし、みんなが聞いてくるパパの話はつじつまが合わなくて……。
最後は微笑ましい限りの物語。
*この作品は、エブリスタ、カクヨム、小説家になろうにも載っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる