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[第2部] 第8話 夜めぐりの祭り
2 暦と天球儀
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冷えこんだ夜が明け、ずいぶんと日が高くなってからも、空気はきんとしていた。
王宮の北の塔の一室では、いくつも並ぶ窓のそばにも、机の上にも下にも、真っ赤な魔法の石がごろごろと置かれて、部屋をあたためている。
十歳の王子るりなみは、ひざまで届く長い長いセーターを着こんで、机に向かっていた。セーターは、湖のように青い髪をしたるりなみに似合うようにと、空色と水色の毛糸で編まれたものだ。
そのるりなみに、一対一で授業をしている先生の青年ゆいりは、もっとあたたかそうに見える朝焼け色のローブを着ていた。
優しげな顔をして、黒い髪を長くなびかせて、女の人のようにも見える、るりなみの一番の先生。
けれど、ゆいりは女のようにふるまうこともなければ、男らしくすることもない。
ゆいりは宮廷魔術師であり、いつも魔法使いらしく爽やかに堂々としている。
この朝は、暦の授業がおこなわれていた。
「ですから冬になると、日暮れは早くなり、毎朝の日の出は遅くなっていって、夜が長くなります」
机の上には、太陽と惑星たちの球を楕円にめぐらせた模型と、この国から見える星の運行をあらわす天球儀が置かれ、その脇には、何通りもの書き方がされたカレンダーが広げられていた。
ゆいりは模型を回して、カレンダーを指さしながら、説明していく。
「星たちがこの位置になったときが、一年で一番、日が短くなる──つまり、夜が長くなる冬至の日です。我がユイユメ王国では、その日が一年の最後の日。年越しの日として、各地でお祭りがおこなわれますね」
「夜めぐりの祭り、だね」
るりなみの答えに、ゆいりはこっくりとうなずいた。
「ここ、王都でおこなわれる祭りは、それが正式な名まえです。歴史的には、月祭りとも星祭りとも呼ばれてきました。街では今も、星祭りと呼ぶ人も多いそうです」
「月祭りと呼ぶ人は、いないの?」
いい質問です、とばかりにゆいりはまたうなずいた。
「お祭りで、月の形の光と、星の形の光がともされることは、ご存知ですね。月は、我が王家の象徴です。ですが街では、月の加護よりも、星の加護のほうがありがたいと思う人も多いのです……でも、その理由は次回、説明しましょう」
ええっ、とるりなみは身をのりだした。
ゆいりは、次の授業が気になるように、その日の授業を切り上げることに関しても、魔法使いのようだった。
「月の加護、星の加護、なにが違うのか、考えて感じてみてくださいね」
ふふ、とるりなみに笑いかけながら、ゆいりは床に置いてあった布の袋に手を伸ばし、なにかを取り出した。
「今日のおしまいには、こちらをどうぞ」
それは、ガラスと金属を組んだ細工品だった。
王宮の廊下や扉の脇につるされて、魔法の灯りを中にともすための、灯り入れに似ていた。だがそれらよりも複雑なつくりで、ぷっくりとかわいらしい形をしている。
「これが、その夜めぐりの祭りのときにさげておいて、月や星の形の光を入れるための灯籠です」
ゆいりはその灯籠を、るりなみに差し出した。
「こちらの品を、南の塔のある部屋に、届けてほしいのです」
「南の塔の?」
るりなみは驚きながら、灯籠とゆいりを見比べた。
王宮の北の塔の一室では、いくつも並ぶ窓のそばにも、机の上にも下にも、真っ赤な魔法の石がごろごろと置かれて、部屋をあたためている。
十歳の王子るりなみは、ひざまで届く長い長いセーターを着こんで、机に向かっていた。セーターは、湖のように青い髪をしたるりなみに似合うようにと、空色と水色の毛糸で編まれたものだ。
そのるりなみに、一対一で授業をしている先生の青年ゆいりは、もっとあたたかそうに見える朝焼け色のローブを着ていた。
優しげな顔をして、黒い髪を長くなびかせて、女の人のようにも見える、るりなみの一番の先生。
けれど、ゆいりは女のようにふるまうこともなければ、男らしくすることもない。
ゆいりは宮廷魔術師であり、いつも魔法使いらしく爽やかに堂々としている。
この朝は、暦の授業がおこなわれていた。
「ですから冬になると、日暮れは早くなり、毎朝の日の出は遅くなっていって、夜が長くなります」
机の上には、太陽と惑星たちの球を楕円にめぐらせた模型と、この国から見える星の運行をあらわす天球儀が置かれ、その脇には、何通りもの書き方がされたカレンダーが広げられていた。
ゆいりは模型を回して、カレンダーを指さしながら、説明していく。
「星たちがこの位置になったときが、一年で一番、日が短くなる──つまり、夜が長くなる冬至の日です。我がユイユメ王国では、その日が一年の最後の日。年越しの日として、各地でお祭りがおこなわれますね」
「夜めぐりの祭り、だね」
るりなみの答えに、ゆいりはこっくりとうなずいた。
「ここ、王都でおこなわれる祭りは、それが正式な名まえです。歴史的には、月祭りとも星祭りとも呼ばれてきました。街では今も、星祭りと呼ぶ人も多いそうです」
「月祭りと呼ぶ人は、いないの?」
いい質問です、とばかりにゆいりはまたうなずいた。
「お祭りで、月の形の光と、星の形の光がともされることは、ご存知ですね。月は、我が王家の象徴です。ですが街では、月の加護よりも、星の加護のほうがありがたいと思う人も多いのです……でも、その理由は次回、説明しましょう」
ええっ、とるりなみは身をのりだした。
ゆいりは、次の授業が気になるように、その日の授業を切り上げることに関しても、魔法使いのようだった。
「月の加護、星の加護、なにが違うのか、考えて感じてみてくださいね」
ふふ、とるりなみに笑いかけながら、ゆいりは床に置いてあった布の袋に手を伸ばし、なにかを取り出した。
「今日のおしまいには、こちらをどうぞ」
それは、ガラスと金属を組んだ細工品だった。
王宮の廊下や扉の脇につるされて、魔法の灯りを中にともすための、灯り入れに似ていた。だがそれらよりも複雑なつくりで、ぷっくりとかわいらしい形をしている。
「これが、その夜めぐりの祭りのときにさげておいて、月や星の形の光を入れるための灯籠です」
ゆいりはその灯籠を、るりなみに差し出した。
「こちらの品を、南の塔のある部屋に、届けてほしいのです」
「南の塔の?」
るりなみは驚きながら、灯籠とゆいりを見比べた。
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