ユイユメ国ゆめがたり【完結】

星乃すばる

文字の大きさ
上 下
45 / 126
[番外編] 第7話 虹の王冠

6 七日目の塔の上

しおりを挟む

 そして、七日目のこと。

 玉座ぎょくざでの国王の朝礼ちょうれいを終えたゆいりが、建物の屋上庭園おくじょうていえんのそばの回廊かいろうを歩いていると、庭園よりさらに高くにそびえる北のとうのてっぺんから、声がってきた。

「ゆいりー、おーい!」

 塔の上で、るりなみがこちらを見下ろして、手をっているのだった。

「そこで見ていてー!」

 そう言いながら、るりなみは、ずいぶんと大きなじょうろをかかえあげて、塔のへりに近づいた。塔の上から庭園へ、水をまこうとしているようだった。

 ぴん、と糸をはじくようなかすかないたみが、ゆいりのほほを通っていく。
 それは誰かの「あぶない!」という声がこえてくるのにた、魔術師まじゅつしとしての感覚かんかくだった。

 ゆいりはすばやく魔法を使い、自分のかげを塔のほうへばした。

「あっ」

 るりなみが声をあげる。

 重そうなじょうろが、塔のへりでかたむいて、るりなみの手をはなれた。
 とっさに伸ばされたるりなみの手が、中空で、じょうろをつかみなおしたが──。

「わっ、えっ、わっ」

 じょうろの重みに引きずられて、るりなみの体は塔のへりを越えて、ちゅうほうられた。

「わぁぁ……っ!」

 るりなみの悲鳴があがる前に、ゆいりは、伸ばしておいた影の中を移動いどうしていた。

 庭園のゆかから北の塔の側面そくめんの影をけあがり、頂上ちょうじょうから落ちそうになっている、るりなみの影の中へと走りぬけると、塔の上に自分の実体じったいをあらわした。足をすぐにみしめ、影をたぐりよせるようにして──。

 ゆいりは、無事ぶじにるりなみをきよせた。

 るりなみは、なにが起こったのかわからないようで、まだ体をこわばらせ、ぎゅっと目をつむっている。

 そのあいだに、ゆいりはもうひとつ、心の中で魔法をかけた。

「るりなみ様、ご無事でなによりです」

 ゆいりがやさしく声をかけると、るりなみはそうっと目を開ける。

 そして、ゆいりをじっと見上げてから、あたりを見回して、目を見開いた。

 放り投げられたじょうろにも、ゆいりは魔法をかけていた。じょうろはゆっくり、ゆっくりと落ちながら、庭園の上の空へ向けて、水の雨をまいていた。

 おうぎのように広がった雨の上に、虹が出た。
 王宮をすっぽり包みこむような、大きな虹だった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

一葉「いちは」

たくp
絵本
緑豊かな丘がある街に一葉「いちは」という女の子が住んでいた。 ジャケットとズボンを着た変わった服装の彼女は、いつも一人でいた。 一葉は誰よりも絵が上手かった。 だけど彼女の絵はいつも灰色の景色ばかりだった。 それを見かねた担任の先生は一葉に黒色と灰色を抜いた色鉛筆とスケッチブックを渡した。

良くわかってるウルトラの人

魚口ホワホワ
児童書・童話
 宇宙の片隅に平和な星がありました。ところが、ある日、小さなビッグバンが起こり、時空が歪み、宇宙怪獣の通り道になってしまいました。そして、怪獣がやって来ました。  そして、お約束のようにウルトラの人が宇宙怪獣をやっつけに来てくれました。ただ、このウルトラの人は、非常に良くわかってました…。

うしろのメリー

keima
児童書・童話
私はメリー 人間の影に隠れておどかすのが大好き。  きょうのターゲットは………  注:「メリーのひとみ」のメリーと名前は一緒ですが、まったく違うコです。  今回も駄文でスミマセン。

老舗あやかし和菓子店 小洗屋

yolu
児童書・童話
妖が住む花塚村には、老舗和菓子店『小洗屋(こあらいや)』がある。 そこには看板猫娘のシラタマがいる。 彼女は猫又の両親から生まれたが、しっぽが1本しかないからと、捨てられた猫又だ。 シラタマは運良く妖怪小豆洗いである小洗屋の主人と奥さんに拾われ、今では人気の看板猫娘となっている。 出てくる妖怪は、一反木綿のキヌちゃんから始まり、豆腐小僧のヨツロウくん、ろくろ首のリッカちゃん、砂かけ婆の孫の硝平くん、座敷童のサチヨちゃん、などなど、みんなの悩みをシラタマの好奇心が解決していく、ほのぼのほっこりストーリー!

直径3cmの偉大なお母さん(実話の物語)

鏡子 (きょうこ)
児童書・童話
実話の物語 「3cmの偉大なお母さん」 を書きます。 下記の内容は、後日、別の場所に移動させます。 母が作った俳句 農業(みかん農家)を営み、 経験したこと、日々の暮らしのなかで感じたことを俳句にしています。 母は、現在83歳です。 今年の6月8日から施設に入居することになりました。 痴呆が、だんだんと進行しつつあり、1年くらい前から、俳句も作っていません。 母が作った俳句を、皆さんに読んで頂きたくて、母の代わりに投稿します。

ぼーいず・びぃ・あんびしゃす

蒼月さわ
児童書・童話
リュータ、ゴリスケ、ヤスヒコ、カンナの仲良し四人組が夜の学校に忍び込むお話。 4人の少年たちのわくわく大冒険(日常編) 子供の頃読んだ児童書に似せて書いてみました。 ショートストーリィです。

宇宙人は恋をする!

山碕田鶴
児童書・童話
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。 全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの? 中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉ (表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろう」様に感謝) 【第2回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました。ありがとうございます。

処理中です...