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[番外編] 第7話 虹の王冠
6 七日目の塔の上
しおりを挟むそして、七日目のこと。
玉座の間での国王の朝礼を終えたゆいりが、建物の屋上庭園のそばの回廊を歩いていると、庭園よりさらに高くにそびえる北の塔のてっぺんから、声が降ってきた。
「ゆいりー、おーい!」
塔の上で、るりなみがこちらを見下ろして、手を振っているのだった。
「そこで見ていてー!」
そう言いながら、るりなみは、ずいぶんと大きなじょうろを抱えあげて、塔のへりに近づいた。塔の上から庭園へ、水をまこうとしているようだった。
ぴん、と糸を弾くようなかすかな痛みが、ゆいりの頬を通っていく。
それは誰かの「危ない!」という声が聴こえてくるのに似た、魔術師としての感覚だった。
ゆいりはすばやく魔法を使い、自分の影を塔のほうへ伸ばした。
「あっ」
るりなみが声をあげる。
重そうなじょうろが、塔のへりで傾いて、るりなみの手を離れた。
とっさに伸ばされたるりなみの手が、中空で、じょうろを掴みなおしたが──。
「わっ、えっ、わっ」
じょうろの重みに引きずられて、るりなみの体は塔のへりを越えて、宙に放られた。
「わぁぁ……っ!」
るりなみの悲鳴があがる前に、ゆいりは、伸ばしておいた影の中を移動していた。
庭園の床から北の塔の側面の影を駆けあがり、頂上から落ちそうになっている、るりなみの影の中へと走りぬけると、塔の上に自分の実体をあらわした。足をすぐに踏みしめ、影をたぐりよせるようにして──。
ゆいりは、無事にるりなみを抱きよせた。
るりなみは、なにが起こったのかわからないようで、まだ体をこわばらせ、ぎゅっと目をつむっている。
そのあいだに、ゆいりはもうひとつ、心の中で魔法をかけた。
「るりなみ様、ご無事でなによりです」
ゆいりが優しく声をかけると、るりなみはそうっと目を開ける。
そして、ゆいりをじっと見上げてから、あたりを見回して、目を見開いた。
放り投げられたじょうろにも、ゆいりは魔法をかけていた。じょうろはゆっくり、ゆっくりと落ちながら、庭園の上の空へ向けて、水の雨をまいていた。
扇のように広がった雨の上に、虹が出た。
王宮をすっぽり包みこむような、大きな虹だった。
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