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[番外編] 第7話 虹の王冠
2 吉夢か凶夢か
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夢の景色が引いていくのにあわせて、ゆいりはゆっくりと目を開ける。
窓の外から、夜明けの淡い光がさしこむ時刻だった。
宮廷魔術師のひとりであり、国王の大切な側近であるゆいりは、国王やるりなみがいるガラスの塔にすぐ続く東の塔に、自分の部屋を持っていた。
小さな部屋ではないのだが、壁沿いはすべて本棚で、溢れた本や道具が床の上にも積みあがっているために、とても狭い。(よく片付けているつもりなんだけどな、とゆいりはいつもため息をついてしまう。)
その部屋の寝台の上で、起き上がったゆいりは、戸惑っていた。
今しがた見ていた夢のできごとを、もう一度、心で夢を見るかのように思い出して、点検していく。
出てきたものの順番や色、現実の景色となにか違ったところがなかったか、音やにおいは感じたか、など……。
これは、吉夢という幸いな夢だろうか。
あるいは、凶夢とよばれる不吉な夢だろうか。
夢の中では、十歳の王子るりなみが、王冠を頭にいただいていた。
るりなみは、王位を継ぐための、王になるべき王子としては育てられていない。そのるりなみが戴冠する、王冠をいただいて王になる、というできごとは、今ある流れの先の未来には、起こらないはずのこと。
今ある流れとは、別の未来で、るりなみが王になるとしたら……そのときは、王位を継承するはずであったるりなみのきょうだいに、なにか、万が一のことがあった、ということだ。
そう考えると、るりなみの王冠の夢は、王国にとっての凶夢。
誰にも告げずに、忘れたほうがいいのかもしれない。
しかし、ふしぎな夢を見たときは国王に報告する、というのが、宮廷魔術師の義務だった。それがなんらかの予知夢のようであったなら、なおさらだ。
その義務を果たさず、この夢を隠してしまうことを、ゆいりは決める。
不吉な夢だ、というのが騒ぎになって、王子るりなみそのひとが、不吉な存在だ、なんて言われることになってしまったら……考えるだけでも、眉間にしわが寄ってしまう。
「るりなみ様にも、告げるわけにはいきませんね」
ゆいりは決意をして、静かに目を閉じて、ひとりでうなずいた。
夜明けの光が、さぁっと差しこんでくる。
立ち上がり、新しい一日のしたくをしながら、ゆいりは思う。
夢の最後に、るりなみは、とても幸せそうにしていた。
不吉な夢だとは、どうしても思われなかった。
* * *
窓の外から、夜明けの淡い光がさしこむ時刻だった。
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その部屋の寝台の上で、起き上がったゆいりは、戸惑っていた。
今しがた見ていた夢のできごとを、もう一度、心で夢を見るかのように思い出して、点検していく。
出てきたものの順番や色、現実の景色となにか違ったところがなかったか、音やにおいは感じたか、など……。
これは、吉夢という幸いな夢だろうか。
あるいは、凶夢とよばれる不吉な夢だろうか。
夢の中では、十歳の王子るりなみが、王冠を頭にいただいていた。
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今ある流れとは、別の未来で、るりなみが王になるとしたら……そのときは、王位を継承するはずであったるりなみのきょうだいに、なにか、万が一のことがあった、ということだ。
そう考えると、るりなみの王冠の夢は、王国にとっての凶夢。
誰にも告げずに、忘れたほうがいいのかもしれない。
しかし、ふしぎな夢を見たときは国王に報告する、というのが、宮廷魔術師の義務だった。それがなんらかの予知夢のようであったなら、なおさらだ。
その義務を果たさず、この夢を隠してしまうことを、ゆいりは決める。
不吉な夢だ、というのが騒ぎになって、王子るりなみそのひとが、不吉な存在だ、なんて言われることになってしまったら……考えるだけでも、眉間にしわが寄ってしまう。
「るりなみ様にも、告げるわけにはいきませんね」
ゆいりは決意をして、静かに目を閉じて、ひとりでうなずいた。
夜明けの光が、さぁっと差しこんでくる。
立ち上がり、新しい一日のしたくをしながら、ゆいりは思う。
夢の最後に、るりなみは、とても幸せそうにしていた。
不吉な夢だとは、どうしても思われなかった。
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