上 下
41 / 126
[番外編] 第7話 虹の王冠

2 吉夢か凶夢か

しおりを挟む
 夢の景色けしきが引いていくのにあわせて、ゆいりはゆっくりと目をける。
 窓の外から、夜明けのあわい光がさしこむ時刻じこくだった。

 宮廷魔術師きゅうていまじゅつしのひとりであり、国王の大切な側近そっきんであるゆいりは、国王やるりなみがいるガラスのとうにすぐつづく東の塔に、自分の部屋を持っていた。

 小さな部屋ではないのだが、かべ沿いはすべて本棚ほんだなで、あふれた本や道具がゆかの上にもみあがっているために、とてもせまい。(よくかたけているつもりなんだけどな、とゆいりはいつもため息をついてしまう。)

 その部屋の寝台しんだいの上で、起き上がったゆいりは、戸惑とまどっていた。

 今しがた見ていた夢のできごとを、もう一度、心で夢を見るかのように思い出して、点検てんけんしていく。
 出てきたものの順番や色、現実げんじつの景色となにかちがったところがなかったか、音やにおいは感じたか、など……。

 これは、吉夢きちむというさいわいな夢だろうか。
 あるいは、凶夢きょうむとよばれる不吉ふきつな夢だろうか。

 夢の中では、十歳の王子るりなみが、王冠おうかんを頭にいただいていた。

 るりなみは、王位おういぐための、王になるべき王子としては育てられていない。そのるりなみが戴冠たいかんする、王冠をいただいて王になる、というできごとは、今ある流れの先の未来には、起こらないはずのこと。

 今ある流れとは、別の未来で、るりなみが王になるとしたら……そのときは、王位を継承けいしょうするはずであったるりなみのきょうだいに、なにか、まんいちのことがあった、ということだ。

 そう考えると、るりなみの王冠の夢は、王国にとっての凶夢。
 誰にもげずに、忘れたほうがいいのかもしれない。

 しかし、ふしぎな夢を見たときは国王に報告ほうこくする、というのが、宮廷魔術師の義務ぎむだった。それがなんらかの予知夢よちむのようであったなら、なおさらだ。

 その義務をたさず、この夢をかくしてしまうことを、ゆいりは決める。

 不吉な夢だ、というのがさわぎになって、王子るりなみそのひとが、不吉な存在だ、なんて言われることになってしまったら……考えるだけでも、眉間みけんにしわがってしまう。

「るりなみ様にも、告げるわけにはいきませんね」

 ゆいりは決意けついをして、静かに目を閉じて、ひとりでうなずいた。

 夜明けの光が、さぁっとしこんでくる。
 立ち上がり、新しい一日のしたくをしながら、ゆいりは思う。

 夢の最後に、るりなみは、とても幸せそうにしていた。
 不吉な夢だとは、どうしても思われなかった。


   *   *   *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひみつを食べる子ども・チャック

山口かずなり
児童書・童話
チャックくんは、ひみつが だいすきな ぽっちゃりとした子ども きょうも おとなたちのひみつを りようして やりたいほうだい だけど、ちょうしにのってると  おとなに こらしめられるかも… さぁ チャックくんの運命は いかに! ー (不幸でしあわせな子どもたちシリーズでは、他の子どもたちのストーリーが楽しめます。 短編集なので気軽にお読みください) 下記は物語を読み終わってから、お読みください。 ↓ 彼のラストは、読者さまの読み方次第で変化します。 あなたの読んだチャックは、しあわせでしたか? それとも不幸? 本当のあなたに会えるかもしれませんね。

ちびりゅうのかいかた(プロトタイプ)

関谷俊博
児童書・童話
ちびりゅうは夜店の屋台で良く見かけます。値段は300円とお手頃価格です。

転校生はおんみょうじ!

咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。 ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。 花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。 なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。

下出部町内漫遊記

月芝
児童書・童話
小学校の卒業式の前日に交通事故にあった鈴山海夕。 ケガはなかったものの、念のために検査入院をすることになるも、まさかのマシントラブルにて延長が確定してしまう。 「せめて卒業式には行かせて」と懇願するも、ダメだった。 そのせいで卒業式とお別れの会に参加できなかった。 あんなに練習したのに……。 意気消沈にて三日遅れで、学校に卒業証書を貰いに行ったら、そこでトンデモナイ事態に見舞われてしまう。 迷宮と化した校内に閉じ込められちゃった! あらわれた座敷童みたいな女の子から、いきなり勝負を挑まれ困惑する海夕。 じつは地元にある咲耶神社の神座を巡り、祭神と七葉と名乗る七体の妖たちとの争いが勃発。 それに海夕は巻き込まれてしまったのだ。 ただのとばっちりかとおもいきや、さにあらず。 ばっちり因果関係があったもので、海夕は七番勝負に臨むことになっちゃったもので、さぁたいへん! 七変化する町を駆け回っては、摩訶不思議な大冒険を繰り広げる。 奇妙奇天烈なご町内漫遊記、ここに開幕です。

サクラと雪うさぎ

春冬 街
児童書・童話
ひとりぼっちのうさぎ、サクラ。ひょんなことから、初めてのお友だちができた。ちょっぴり変だけど、たのもしいユキがいつも助けてくれる。どうしてもユキに桜を見せたくて……。春を待ちわぶ2匹のうさぎの物語。 カクヨムでも投稿してます。

縁(えにし)

春秋花壇
児童書・童話
「第2回きずな児童書大賞エントリー」 縁(えにし)

ねるまえの おしゃべりタイム

もちっぱち
絵本
親子の会話を絵本に こんなお話もいいかなと思って書きました。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。童話パロディ短編集

処理中です...