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第6話 影の国
10 流れに身を任せて
しおりを挟む気づけばるりなみたちは、手と手を輪っかのように握り合ったまま、どこかの戦場の上空に浮かんでいた。
「これも……僕の記憶だ、僕の体の中の戦場だ……」
るりなみはつぶやいて、戦士たちを見下ろした。
戦士たちは、勝利をおさめたところであるかのように、万歳をし、声をあげていた。
その皆の体がきらきらと輝いて、浮き上がったかと思うと。
それはもう戦士たちではなく、空へ駆けあがる鳥の姿になっていた。
それはるりなみがいつか友達になった、あの光の鳥たちだった。
光の鳥たちが舞い上がると、戦場であった野原はきらきらと消えていった。
そして光の鳥たちは、るりなみと小さなゆいりのあいだを駆けぬけていった。
「いろいろなことがあったね、ゆいり……」
るりなみは、手をつないでいるのが大人のゆいりであるかのように、そう語りかけていた。すると、くすり、というゆいりの笑いが聞こえた気がした。
〝──じゃあ、呼んでみましょうか〟
急になつかしい、大人のゆいりの声がした。
それは、るりなみの中で、あの日の記憶がくりかえされているのだった。
あの日……るりなみが深海からの手紙に夢中になっていた、もうずいぶん遠いあの日。
〝呼ぶってなにを?〟
るりなみが、まだなにもわからないまま、そう答えている。
〝海を、です〟
記憶の中のゆいりがその言葉を口にしたとたん……。
また、突風のようなものがやってきて、るりなみと小さなゆいりをおそった。
だがそれは風ではなく、あの日と同じ、水の竜巻だった。
あたりが深海の光景に包まれていく。
銀の魚のむれ、ゆらゆらとたうたう海草の森。輪郭がにじんだ建物も見えた。
そうだ、ただの深海じゃない。深海にのまれたあの日の王都だ……。
だが、水流の激しさに、るりなみと小さなゆいりは引き裂かれそうになる。
「あ……っ!」
同時に声をあげたときには、二人の手ははなれていた。
小さなゆいりが水の竜巻にのまれていく。
そのとき、るりなみの足もとから、なにか黒々としたものがさっと伸びた。
「影!」
そう、それは、あのとき語りかけてくれたるりなみの影だった。
影はとっさに、小さなゆいりの肩をつかみ、るりなみのほうへ力任せに放った。
るりなみは、目を見開いた小さなゆいりを、しっかりと胸に抱きとめた。
ぎゅっと腕に力を込める。
もう、なにがあっても、離さないように……。
「目を閉じて、流れに身を任せて」
影がふわりと体にかぶさる感じがして、そんな声が聞こえた。
るりなみはその言葉をそのまま小さなゆいりにかけた。
「目を閉じて、ゆいり。流れに身を任せるんだ……」
小さなゆいりは少し不安そうにるりなみを見つめたあと、ぎゅっと目をつぶった。
るりなみも目をつぶり、体が水の渦の中を流されて行くのを、感じていた……。
* * *
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