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第6話 影の国
9 あふれる記憶
しおりを挟むすさまじい突風だった。るりなみと小さなゆいりは人形のように吹き飛ばされて、階段から離され、なにもない空間に投げ出された。
るりなみは風にもてあそばれながらも、小さなゆいりの手をたぐりよせ、その体をぎゅっと抱きしめた。ゆいりの不安そうな顔が一瞬だけ見えた。
どこへ飛ばされるのだろう、と思ううちにも、風は勢いを増し、水滴が降りかかってきた。
大雨と突風。嵐の中にいるかのようだ。
ごぉぉぉぉ……ごぉぉぉぉ……。
吹きぬける風の音に、るりなみの心の中で、記憶がかすかに光った。
このあいだの嵐のときも、風はこんな音をしていて……。
そう思ったとたん、かみなりのような閃光があたりを照らし、すさまじい音が響いた。
ぴしゃぁぁぁぁぁぁぁ────────んっ!
そして、すぐ近くに木々があるかのような葉ずれの音も聞こえてきた。
ざざぁぁ、ざざぁぁ。ざざざざぁぁぁ。
体はもう、どこを飛ばされているのかわからなかった。
どこまでも、どこまでも、暗闇の空間を、落ちているのか、まきあげられているのか、風に連れられていく。
まるで嵐の中を飛ばされる、たんぽぽの綿毛になったかのような気分だった。
それでも、小さなゆいりの体のあたたかさだけが、確かだった。
そう思ってゆいりの顔をのぞきこむと、ゆいりは口を開いた。
「記憶が流れ出していくよ」
るりなみと目を合わせた小さなゆいりは、はっきりとそう言った。
「記憶が?」
小さなゆいりがこくりとうなずいたとたん……。
嵐の音が急に遠のき、視界の下のほうがきらきらと輝きだした。
そのきらめきは、たくさんの金色の蝶たちだった。
蝶たちは舞うようにやってきて、るりなみと小さなゆいりの周りを通り過ぎていった。
体がふわりと浮くように感じ、るりなみは小さなゆいりの体を離して、握った手と手が大きな輪になるようにしながら、金色の蝶たちのあいだに浮かんでいた。
そのうち、周りがちかちかとしたかと思うと、ずらりと、二日月から三日月、少しずつ太っていく月たちが、闇の中の地平線に並んだ。
並んだ月はどんどんまばゆさを増し、視界が光であふれてしまうかと思ったとき、今度はわぁわぁと歓声のようなものが聞こえてきた。
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