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第6話 影の国

8 暗闇の迷い子

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 いつのまにか、冷たいゆかのようなところにたおれて、意識いしきうしなっていたようだった。

 そろそろと体を起こす。
 あたりは暗闇くらやみだが、床はガラスでできているかのようにはん透明とうめいで、かすかに虹色にじいろがかってぼうっとかび上がっていた。

 その床のいたが、無限むげんの闇に続くピアノの鍵盤けんばんであるかのように、ななめ上とななめ下へ階段になってびていた。

「行かなくちゃ……」

 そうつぶやいてから、自分で「どこへ?」と問い返した。

 その答えはわからない。
 でも、誰かにばれているかのような気持ちだった。

 るりなみは少しまよってから、ガラス板の階段を上へのぼりはじめた。

 こつ、こつとくつが板に当たる音が高くひびく。
 そのほかには、時折ときおりどこかで、ぴちゃん、と水滴すいてきが落ちるような音がこだましていた。

 このだんの一番下は水面すいめんなのかも、とるりなみは思った。

 だとしたら、そっちにおりていったほうがよかっただろうか?

 いや、とるりなみは首を横にる。
 しずくが落ちてくるなら、上のほうにもなにかがあるはずだ。

 しばらくのぼり、息が上がってきたころ、るりなみは階段の上のほうに誰かがいるような気がして、目を細めた。

 すすり泣きが聞こえてきた。
 やっぱり、誰かがいる。

 るりなみは慎重しんちょうに段をあがっていく。
 三段ほど上に、おさない子どもがいるのがわかった。

 幼い子どもはこちらに背を向け、泣いているようだった。

 かたにかかるおかっぱの黒髪くろかみ。小さな村の子どもがるようなつつましい衣服いふく

 知っている子であるはずがない。
 だが、その子からはなにかひどくなつかしいような感じを受けた。

 るりなみは小さく、だがはっきりと声をかけた。

「どうしたの、こんなところで」

 その子がるりなみのほうをり返った。
 泣きはらしたその幼い顔を見て、るりなみははっと息をのんだ。


 その子は……ゆいりにちがいなかった。


 るりなみはおどろき、うろたえるのをかくしながら、小さなゆいりに声をかけた。

「迷子になってしまったの?」

 小さなゆいりはなにも言わずに、こくり、とうなずいた。
 そして、まじまじとるりなみを見つめた。

 るりなみも、小さなゆいりを見つめながら、感じていた。

 ……このゆいりは、本物のゆいりだ。
 なぜだかわからないが、そのひとみを見つめれば見つめるほど、確信かくしんが持てた。

 ……この小さなゆいりは、大人のゆいりのことはわからないみたいだ。
 だけど、まったくの別人というわけじゃない。ゆいりの一部なのかもしれない。

 もしかしたら大人のゆいりは、この子どものゆいりを探しているかもしれない。
 とにかく、この小さなゆいりを、連れて帰らなくては。

 そう思っていると、急に、空間のそこのほうから、おおおぅ、と不気味ぶきみなうなり声のようなものが聞こえてきた。

「な、なに!」

 るりなみがとっさに小さなゆいりの手を取ったのと、おおおおおぅ、と風のかたまりが下からき上げてきたのは同時だった。

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