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第6話 影の国
2 影の助言
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夕食を終えて、狭いらせん階段をあがっていたるりなみは、また、はっとして立ち止まった。
誰かに、今、名前を呼ばれた。
「誰? どこにいるの?」
るりなみは小さくそう口にした。
卵の黄身のような色の魔法のあかりに照らされた階段には、るりなみの他には誰もいない。るりなみの影が大きく伸びているばかりだった。
〝……そう、こっちだ……るりなみ……〟
そんな声がして、るりなみはびくりとした。
きょろきょろとあたりをうかがう。
るりなみの影も、その動きを追った。
だが、るりなみがはっとして動きを止めても、影は、方位磁針の針のようになめらかにゆらゆらと左右に揺れていた。
「な……なんで……!」
〝……そう、僕だよ、僕……〟
間違いない。影から、声がした。
そして影は、わっと伸びて、狭い壁の一面に広がった。
〝るりなみ、僕だよ……君の影さ……!〟
黒々としてゆれる影に今にもおそわれるのではないかと、るりなみはぎゅっと目をつぶった。逃げなくちゃ、そう思ったが、体は固まったかのように動かない。
だが、しばらくたっても、影がおそってくることはなかった。
むしろ、あたたかいものにそっと包まれているような感じがした。
るりなみはそうっと目を開けた。
目の前の壁で、大きくなった影が、こちらをうかがうようにゆらゆら揺れている。
おそろしい、と思う気持ちをなんとかおさえて、るりなみは影をまじまじと見た。
黒い影の中に、よく見ればうっすらと、るりなみと同じ顔、髪型、服装が見て取れた。
それは「るりなみの影」だった。
るりなみの影は、挨拶するかのように背を伸ばしたり縮めたりしたかと思うと、るりなみと目を合わせてささやいた。
〝ゆいりは、影の国にいるよ〟
ゆいりの名前に、るりなみははっとした。
「ゆいりが? 影の国? それはいったいなに? どこにあるの? それに、どうして?」
質問の嵐にも動じず、影は答えてくれた。
〝影の国は、この世界の裏側にある、僕たちの国さ。ゆいりは、自分の影を追って、影の国に迷い込んでしまったんだ……〟
るりなみは影に手を伸ばして、服につかみかかりそうな勢いで、必死になって問いかけた。
「どうやったら、ゆいりのところに行けるの?」
息をつめて窒息してしまいそうなるりなみを、影はなだめた。
〝落ち着いて。風の子を呼ぶんだ、るりなみ〟
風の子……!
るりなみは目を見開いて「わかった」と答え、影に尋ねた。
「君もいっしょに来てくれるの?」
影の口もとが、にっ、と笑った気がした。
〝僕は君の影……生まれたときからずっといっしょだったよ。でも、ゆいりが影の扉をまたいでから……僕はいくらかの自由を得て、しゃべれるようにもなったんだ〟
「そうだったの」
〝でも、急ぐんだ、るりなみ。今晩のうちに、ゆいりを助け出すんだ〟
「ゆいりを、助け出す」
るりなみは目を見開いて、その言葉をくりかえしてつぶやくと、うなずいた。
* * *
誰かに、今、名前を呼ばれた。
「誰? どこにいるの?」
るりなみは小さくそう口にした。
卵の黄身のような色の魔法のあかりに照らされた階段には、るりなみの他には誰もいない。るりなみの影が大きく伸びているばかりだった。
〝……そう、こっちだ……るりなみ……〟
そんな声がして、るりなみはびくりとした。
きょろきょろとあたりをうかがう。
るりなみの影も、その動きを追った。
だが、るりなみがはっとして動きを止めても、影は、方位磁針の針のようになめらかにゆらゆらと左右に揺れていた。
「な……なんで……!」
〝……そう、僕だよ、僕……〟
間違いない。影から、声がした。
そして影は、わっと伸びて、狭い壁の一面に広がった。
〝るりなみ、僕だよ……君の影さ……!〟
黒々としてゆれる影に今にもおそわれるのではないかと、るりなみはぎゅっと目をつぶった。逃げなくちゃ、そう思ったが、体は固まったかのように動かない。
だが、しばらくたっても、影がおそってくることはなかった。
むしろ、あたたかいものにそっと包まれているような感じがした。
るりなみはそうっと目を開けた。
目の前の壁で、大きくなった影が、こちらをうかがうようにゆらゆら揺れている。
おそろしい、と思う気持ちをなんとかおさえて、るりなみは影をまじまじと見た。
黒い影の中に、よく見ればうっすらと、るりなみと同じ顔、髪型、服装が見て取れた。
それは「るりなみの影」だった。
るりなみの影は、挨拶するかのように背を伸ばしたり縮めたりしたかと思うと、るりなみと目を合わせてささやいた。
〝ゆいりは、影の国にいるよ〟
ゆいりの名前に、るりなみははっとした。
「ゆいりが? 影の国? それはいったいなに? どこにあるの? それに、どうして?」
質問の嵐にも動じず、影は答えてくれた。
〝影の国は、この世界の裏側にある、僕たちの国さ。ゆいりは、自分の影を追って、影の国に迷い込んでしまったんだ……〟
るりなみは影に手を伸ばして、服につかみかかりそうな勢いで、必死になって問いかけた。
「どうやったら、ゆいりのところに行けるの?」
息をつめて窒息してしまいそうなるりなみを、影はなだめた。
〝落ち着いて。風の子を呼ぶんだ、るりなみ〟
風の子……!
るりなみは目を見開いて「わかった」と答え、影に尋ねた。
「君もいっしょに来てくれるの?」
影の口もとが、にっ、と笑った気がした。
〝僕は君の影……生まれたときからずっといっしょだったよ。でも、ゆいりが影の扉をまたいでから……僕はいくらかの自由を得て、しゃべれるようにもなったんだ〟
「そうだったの」
〝でも、急ぐんだ、るりなみ。今晩のうちに、ゆいりを助け出すんだ〟
「ゆいりを、助け出す」
るりなみは目を見開いて、その言葉をくりかえしてつぶやくと、うなずいた。
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