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第5話 最後の交響曲

4 雲の上できっと

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 木々たちも風になぶられて、ざわめきの声をあげる。

 ざざぁぁ、ざざぁぁ。ざざざざぁぁぁ。

 ぴしゃぁぁぁぁぁぁぁ────────んっ!

 けるような音がして、かみなりがどこかに落ちる。
 その光に、るりなみとゆいりの顔がぱっと照らされた。

「るりなみ様……これは……」

 ゆいりが天をあおぎながら口をひらく。
 るりなみはその言葉の先をいだ。

「嵐が……歌っているのかな……?」
「るりなみ様も、そうお感じになりますか」

 ゆいりはそう言うと、空高くを見つめていた目を閉じた。

「まるで自然のものたちが演奏えんそうをしているかのような……」

 ひょららららららりっ、りっ。

 ぴしゃ──ん、ぴしゃ──ん。

 ざざぁ、ざざぁぁ……。

 二人が耳をませていると、メロディーをかなでるかのような、ひときわ印象いんしょうぶかい風の音がひびいてきた。

 ひょかろろろろん、ろろ、ひょかろろろろろん。

 ぴぃな、ぴぃなな……。

 ひょかろろろろろ……。

「風って……嵐って……こんな音をしていたっけ」

 るりなみのつぶやきは、嵐の音楽に折りかさなるような木々の音でかき消されていく。

「嵐のときにこそ、世界にはこんなに音楽があふれる……くなった先生は、これを伝えたかったのでしょうね……」

 ざざぁ、ざざぁぁ……。

 ひょらららららりっ、りりっ。

 ざぁ、ざぁ、ざぁ……。

 け上がっていくかのような風のメロディーに、木々の低い合唱がっしょうが重なる。

 渡り廊下をける風の音だけでも、笛の音のようでもあり、はりつめたげんいているかのようでもあり、人々の声の重なりであるようでもあった。

 それに加えて、窓ガラスがれる音、かべになにかが当たる音、木々の枝が折れる音、葉っぱがるりなみの耳元をかすめていく音まで……嵐の中のすべてのものが、交響曲こうきょうきょくの演奏に参加さんかしているかのようだった。

 るりなみとゆいりは、息をつくのも忘れて、嵐の交響曲にき入っていた。
 体のすべてで、二人は演奏会を感じていた。

「ゆいりの亡くなった先生も、どこかで聴いているかな?」
「そう思いますよ。雲の上で、今、指揮しきをしているのかも」

 長かった曲がだんだんにっていって……。

 嵐のあとの彫刻ちょうこくのような雲がけ、青空と日の光がのぞいた。
 るりなみの中には、嵐の交響曲が、まだ、はじけていた。


   *   *   *
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