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第5話 最後の交響曲

3 嵐に舞う音符

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 その晩から風が強くなり、翌日はすっかり模様もようだった。

 横なぐりにするような風がき荒れる中、るりなみとゆいりはわた廊下ろうかにやってきた。

 廊下にはごうごうと雨が吹き込んでいる。
 二人が着こんだ雨合羽あまがっぱのすそも、風に大きくはためく。

「本当に燃やしちゃうんだね、ゆいり」

 風にかきけされそうなるりなみの声に、ゆいりは無言でうなずくと、ばさり、と封筒の中の楽譜を花壇かだんのわきの床にばらまいた。

 そしてあざやかな手つきでちゅう紋様もんようえがいて、楽譜の束に魔法の青い火をつけた。

 するとその直後、ざああ、とすさまじい風が吹きこみ、火のついた楽譜たちをまきあげていった。楽譜の一枚一枚が、おどるように燃えながら飛んでゆく。

 花壇に燃え移ってしまったら大変だ、と思ってるりなみがはらはらするうちにも、青い炎は楽譜をのみこんで燃やしくしていった。

「あっ!」

 るりなみは声をあげた。
 燃えていく楽譜から、なにか小さな黒々としたものがあふれでて、宙にった。

 黒ばらの花びらのようにも見えたそれは……。

音符おんぷだ!」

 そう、それは、楽譜に書かれていた音符たちだった。青い炎に燃やされて、灰にはならずに宙空におどり出ていく音符たち。その数は増えていき、風の中に舞い遊ぶようだった。

 楽譜が全部燃えてしまうと、ひときわ強い風が吹き、音符たちをまきあげていった。

 るりなみとゆいりは、雨にぬれるのもかまわず、花壇のあいだの小道にまで出ていき、音符たちを追った。

 すると音符たちは、竜巻たつまきのような風に巻き上げられて、天にのぼっていった。

 それがぶあついねずみ色の雲に吸い込まれてしまったかと思ったとき。

 ずがらがっしゃ────ん!

 天が割れるようなすさまじい音がした。

「かみなりっ?」

 るりなみは思わず頭をかばうようにしてしまう。

 雨が弱まった。
 かと思うと、今度は低くうなるようなかみなりの音が続いた。

 ごろ……ごろ……ごろろろ……。

 そのうちにも、突風とっぷうが雨を運び、廊下を吹き抜けて奇妙きみょうな音をあげる。

 ざざあぁぁ……ぴゅるりるりる……。
 ごぉぉぉぉ……ごぉぉぉぉ……。
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