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第4話 月を編む
3 王家の月笛
しおりを挟む王宮の庭園のなかにある、丸屋根のあずまや。
そこで、るりなみは教育係のゆいりから、月の職人を紹介されていた。
あずまやのベンチで説明を聞いたるりなみは、驚きの声をあげた。
「月がなくなっちゃうんですか!」
「そうなのです。月は、毎日、夕方のある時刻に作らないといけないのですよ」
るりなみと職人のやりとりに、ゆいりも質問をはさむ。
「月がなくなると、世界はどうなってしまうのですか?」
「さぁ……それはわたくしどもにもわかりかねますが、人間の体の調子にしたって、森や海の具合にしたって、月の満ち欠けの影響を受けているといいますから」
「たしかにそうですね」
ゆいりはうなずく。
るりなみは職人にあらためて向き直った。
「でも、月を作るって、どうするんですか?」
職人は、怪我をして吊った腕をかばいながらも、背筋を伸ばして答えた。
「月を作ることを、わたくしどもは、月を編む、と言っております」
「月を……編む?」
るりなみは目をぱちぱちとさせる。
「と言いましても、編むのはわたくしどもではなく……、わたくしどもは、とある楽曲を演奏するのです。るりなみ様は、なにか楽器はおできになりますか? 弦楽器でも管楽器でも、歌でもかまいませんが」
予想外の質問だったが、るりなみは「はい」と答えた。
「月笛を少しなら……」
「月笛!」
職人は目を丸くして大きな声をあげた。
「まさにその月笛は、月を編むときの曲を奏でるための笛、と言われているんですよ。ふしぎな、いや、運命的なご縁だなぁ」
ゆいりが静かに微笑んで、説明をはさんだ。
「月笛はユイユメの王家に伝わる楽器ですからね。その昔は、月笛を使って、王家の者が月を編む仕事をしていたのかもしれません」
「うむ、そうに違いありません」
職人は「それで」と言いながら、持ってきていたかばんを自分の前に置いた。
なにかを取り出そうとするが、片手しか使えずに苦戦している。
「手伝いましょうか」
「ああ、これはどうも」
るりなみは職人の前に出ると、かばんから中のものを取り出した。
それは、記号がびっしりと書かれた、何枚もの古びた紙だった。
「これは……その曲の、楽譜ですか」
「ええ、このように長くて、複雑なのです」
「僕に、演奏できるかなぁ」
るりなみは踊るような音符たちを眺めながら、不安にかられた。
すると職人が、立ち上がり、がばり、とるりなみに頭を下げた。
「大変なご苦労をおかけするかもしれません。ですが、月を編む者を絶やしてしまっては一大事です。王国の空のため、我々の月のために、お力をお貸し願えませんか?」
るりなみは「わわ」とあわてて職人に顔をあげさせた。
「わかりました。やってみます」
「ありがとうございます」
職人は満面の笑みになったあと、真顔にもどって、るりなみに告げた。
「となれば、三日後の新月の次の晩までに、楽譜をさらっていただきたいのです」
「三日後ですか!」
るりなみは再びあわてた。
そんなに短い日数で曲をさらったことなどなかった。
「大丈夫です、るりなみ様」
ゆいりが力強くうなずく。
るりなみは手の中の楽譜に目をやりながら、「がんばってみます」と答えた。
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